Photography by MASSIMILIANO BONATTI

FEATURE | 04, Oct, 2018

【インタビュー】 FRANCESCO RISSO as MARNI (アーカイブ)

(2017/10/24発売のThem magazine No. 016 「The American NOVEL Chase」に掲載されたアーティクルです。)

 2016年10月、ファッション業界に衝撃が走る。創業者でもある《マルニ》のクリエイティブ・ディレクター、コンスエロ・カスティリオーニの退任が発表されたのだ。そして後任としてアナウンスされたのが、フランチェスコ・リッソ。《プラダ》や《アレッサンドロ デラクア》で経験を積んだデザイナーだが、チームのトップとしてのキャリアはなくその素性は謎に包まれていた。それゆえ生じた「22年もの間彼女が1から積み上げてきたレガシーを引き継げるのか」という業界の憶測を、デビューコレクションにて吹き飛ばしてみせたこの若き男が《マルニ》を任される理由をここで解き明かしてみたい。

 

“Piu’ che pressione ho sentito l’onore di poter lavorare ereditando il marchio storico e importante. E quello che posso fare e comunicare alle delle persone della mia generazione.”
「プレッシャーを感じるよりも、カスティリオーニのレガシーを引き継ぎながら僕にできることは何かを真剣に考えました。それは同世代の若い層にアピールすることだと思いました」

 

 海が好きという人はよく出会うが、海の上で生まれたという人に巡り会うことは珍しい。《マルニ》のクリエイティブ・ディレクター、フランチェスコ・リッソは、父が家として所有していたヨットで6人兄弟の末っ子として生まれたまさに海の男なのだ。ヨットを降りて暮らし始めたジェノバの家は、祖父母も同居の大家族。幼いころから姉たちの服を切り刻んで別の服に作り変えることが日常の遊びだったという。ドレスを探す姉が全く別の服に変えられたのを見つけて驚く姿が何よりも楽しみだった。祖母の服はシックなボントン・スタイルで、解体しながら当時流行していた厚みのあるしっかりした生地や服の構造を習得し、手先の器用さにも磨きがかけられた。こうした生い立ちやヨット暮らし、そして大家族とジェノバという街が今の感性をつくり上げたと言っても過言ではないという。ジェノバといえば、1100年ごろから自治都市となり、その後ジェノバ共和国として発展し、海洋都市としてヴェネツィア、ピサ、アマルフィなど他の海洋都市と戦い、軍事力、経済力において多大なる影響力を持った歴史的な都市である。そして大航海時代最初にアメリカへ到達した探検家クリストファー・コロンブスの出生地である。この地を愛するリッソにも探検家、冒険家としての血が流れているのかもしれない。

 

 リッソはジェノバの家族の元を離れてフィレンツェでファッションの基礎を学び、ニューヨークに渡ってファッション工科大学を卒業し、さらにロンドンのセントラル・セントマーチンズではマスターを取得した。ニューヨークとロンドン、そしてフィレンツェのファッション学校の違いについて、フィレンツェではファッションの歴史や基礎を学び、ニューヨークでは技術を修得したけれど、これでは足りないと感じて移ったロンドンではクリエイティビティの大切さを学んだという。異なる文化、そして異なるアイデンティティの国で経験して修得したことは、現在のクリエイションの基礎となっている。その上でイタリア人に生まれたことは、幼いころから芸術に囲まれて暮らし、建築美を愛で、祖母の装いを通じて受け継がれていくファッション史を体感しながら育った大きなアドバンテージだという。

fa2017-18 FALL&WINTER COLLECTION

 卒業後はジェノバに小さなブティックを開き、同時にデザイナーとしても働き出した。このブティックには宝石箱のように厳選した様々なアイテムを集め、バイヤーとして世界中を飛び回った。買い付けには自分の個性が充分活かせるため刺激的で、デザイナーと同時進行できたことは睡眠時間も削るほど多忙だったが、相互の仕事にとって重要な経験だった。バイヤーとしてのキャリアは、「素晴らしいと自信を持てる作品を生み出してもそれを選んでくれる市場がなければ何も役に立たないということを体感しました。選ぶ側と生み出す側、それぞれの思いやニーズは、ファッションがただの遊びではなく現実だということを僕にしっかり教えてくれました」と語る。

 

 さまざまな有名ブランドで経験を積み、《プラダ》のウィメンズのデザインチームでプロジェクトを任されるようになり、しばらくして《マルニ》の話が来た。創業時から20年を超えてクリエイティブ・ディレクターとして君臨し、世界的にブランドを確立したコンスエロ・カスティリオーニのあとを継ぐということは大きなプレッシャーとなったに違いない。ところが海から誕生したリッソは波のごとくごく自然体でポジティブなのである。「すごく光栄なことで幸せに感じました。プレッシャーを感じるよりも、カスティリオーニのレガシーを引き継ぎながら僕にできることは何かを真剣に考えました。それは同世代の若い層にアピールすることだと思いました。カスティリオーニと僕は年齢も経験も違いますので比べられませんから」と笑顔で語る。彼にとっての《マルニ》とは、生地やプリント、フォルムなどのコントラストを自由な精神でプレイフルに表現する「秩序あるカオス」。ファッションの伝統的なルールを壊して新しく美しいバランスを生み出すこと。これはリッソ自身のワードローブにも共通するらしいが、相反するアイテムがワードローブの中に混在しているのは誰にとっても現実的かもしれない。

 

 これまで担当してきたブランドではウィメンズが中心だったことについて、「男女という2つの世界は確実にグローバルに近づき、境界線がなくなりつつあります。デザインやコンセプトを考える上での基本は同じなので、コンセプトも共通します。そしてウィメンズとメンズの両方を手がけることはブランドとして完全な表現になると思います」と語る。有名ブランドで日々最高級カシミヤやシルク、細かいプリントを手に取る贅沢な経験は、生地のスタンダードな使い方のルールに縛られない勇気あるデザインのベースになった。そのデザインのインスピレーションはどこにでもあるという。映画、ニュース、旅、読書、音楽、友だちや祖母の話などすべてに関心を持ち、好奇心は常に旺盛だ。

sf2018 SPRING&SUMMER COLLECTION

“Creare le collezioni donna e uomo completa l’immagine ed il concetto del marchio.”

「ウィメンズとメンズの両方を手がけることはブランドとして完全な表現になると思います」

 

 《マルニ》を傘下に含むOTB(オンリー・ザ・ブレイブ)の代表を務めるレンツォ・ロッソは、デザイナーに常に寄り添うが細かい指示はしない。しかもイベントやプレゼンテーションには必ずいてくれる、リッソにとって頼もしい経営者だという。イタリアの各メディアは、販売成績を中心に考えてリスクを回避しブランドイメージの陰に隠れてしまうコレクションが多い中、《マルニ》という大きな財産をクリエイティブでポジティブに提案する若いデザイナーに任せたレンツォに注目した。リッソによる初めてのメンズコレクションとなった2017-18 F/Wコレクションについてイタリアで最も大手の新聞『ラ・レプブリカ』は、「トラディショナルなスタイルを中心として成長してきたイタリアのファッション界で、それを期待する人たちを鮮やかに裏切り、クリエイティブで若さに溢れている。スポーティブで販売に直結するスニーカーなどのアクセサリーのアイテムを賢く面白いデザインで取り入れた最も注目されたショーで、来シーズンへと期待が確実に繋がる久々の新生デザイナーが登場した」と絶賛した。このコレクションについてリッソは、「子供と大人、オフィスと自宅など2つの異なる世界をフォルムや生地のコントラストで繋ぎたいと思いました。ナイーブなイメージで遊びのあるコンセプトから生まれたスーツにはパジャマ仕様の柄やリラックスできる柔らかな生地を使い、一方フォルムはしっかりとしたメンズスーツ仕立てにしました」と語った。彼は引き継いだブランドを変えるのでも守るのでもなく、同世代の若い人たちが着たいと思える服に、日常だけでなく共に旅をしたいと思えるシューズやアクセサリーへと進化させ、彼自身を投影したように自由なスピリットで成長していく。初のメンズショーのバックステージには、幼なじみから過去の同僚、他ブランドのデザイナーたちがいたことが語られている。そのエピソードからは、ブランドという枠を超えて多くの人から愛される彼の人柄が伝わってくる。

 

 リッソにあなたにとってファッションとは何ですかと聞いてみた。「ファッションとは人にどう自分を見せたいかを表現するコミュニケーションのひとつです。何をどのように着ているかでその人のパーソナリティや気持ちが伝わります。そしてファッションは人に幸福を与える表現です」と微笑みながら答えた。海、旅、国外での生活経験、ジェノバという海洋都市と大家族のすべてがリッソの創造の要素となっていることは間違いない。海から誕生した旅人は我々を新しい世界へと案内してくれるのである。

 

Francesco Risso
フランチェスコ・リッソ ジェノバ生まれ。フィレンツェのポリモーダ、NYのFIT、修士課程としてロンドンのセントラル・セントマーチンズの3校でファッションを学ぶ。卒業後は《アンナ モリナーリ》や《アレッサンドロ デラクア》、《プラダ》にてデザイナーとして働く。その傍らにジェノバで自身のショップも経営した。2017-18 F/Wシーズンより、《マルニ》のクリエイティブ・ディレクターに就任。
marni.com

 

Interview&Text_Michiyo Yamada
Edit_ Ko Ueoka