FEATURE | 22, Dec, 2017

【インタビュー】baanai『ROOM FOR ART EXPERIMENT』

SISON GALLERyにて1月14日(日)まで、ペイントアーティスト baanai氏のアーカイブ作品約30点の展示および販売と、新作の制作現場の公開が行われている。

baanai

さまざまな形状の文字を近未来的なタイポグラフィーとしてキャンバスに描くbaanai氏。生まれた故郷でもあり、活動拠点でもある鵠沼の海から得たインスピレーションをペイントアートとして表現する彼は、歩き始めた一歳のころから海に触れ、9歳で鵠沼のレジェンドサーフファミリーと知り合い、サーフィンの練習としてスケートボードに取り組むようになる。その3年後、本格的にボディーボードをスタート。それからサーフィンに没頭していったという。しかし、海と共に育ってきた彼が仕事にしたのは、もう一つの趣味であったアートだった。アーティストとして生きることを決意しbaanai氏に話を伺った。

 

———まず、あなたがアートに目覚めたきっかけを教えてください。

「小さいころから自然と絵を描くことが好きだったんです。母親の友人で教室をやっている方がいたのでその人の所へ通ってみたり、幼稚園でやっているような週一回のお絵かき教室に行ってみたりしていましたね。でも自由に描くことが一番好きだったので、家でずっと描きたいものを描いていたことがアートへ進むきっかけになったのだと思います

 

———当時はどんな絵を描いていたのですか?

「今とそんなに変わらないのですが、当時両親がいじっていたコンピューターを見て、自分のイメージで数字や文字を使って描いていました。中学生になったころには、これとはまた少し違って、例えば顔がブルドックで体が人間といったような、変わった絵を描くのにハマっていましたね(笑)」

スクリーンショット 2017-12-22 10.25.29幼少期にbaanai氏が描いた絵。

———高校生になりアトリエに通い始めたのはなぜだったのでしょうか。

「幼稚園のころに通っていた教室は、どちらかと言うと図工教室のようなところで、絵を描くだけではなく粘土や工作なんかもする教室だったので、絵だけを描きたかった自分は1~2年で辞めてしました。そのあと通い直した絵描き教室はお題を与えられて描くようなところだったのですが、自由に描くことが好きだった自分に先生も気づいていてお題を出すのを止めたんです。だから絵を教えてもらった経験がなくて、卒業後の進路は絵を教えてくれる美大しかないと思いました。アトリエには、その美大受験のために通いました」

 

———通ってみていかがでしたか?

「想像していたように上手くはいかなかったですね。アトリエに入るまえに推薦状をもらいに行った高校の美術教師から『あなたがアートで生きて行けるとは思えない』と言われ、念願のアトリエでは卒業するまでずっとビリから2番目。自分には才能がないのだと、アートを完全に諦めてサーフィンに没頭する日々が続きました」

 

———挫折を味わい、諦めてしまったアートを再び始めてみようと思ったきっかけはなんだったのでしょうか。

「きっかけは13年前にくらいに出会った今のパートナーでした。サーフィンに熱中していた時期、ある日彼女に、かつて絵を描いていたことを話したんです。そしたら『また少し描いてみたら?』と言われて、久しぶりに筆と絵の具をちょっとだけ買って描き始めてみたんです。そしたら思っていたより、楽しく描けて。彼女曰く、自分は海にいるときと絵を描いているときは落ち着きがあるみたいで、やはり描いた方が良いんだと思いました。それで再び趣味として本格的にアートに取り組みはじめたんです」

 

———趣味としてはじめたアートが、仕事へと変わった経緯をおしえてください。

「ある時、両親が信頼を寄せていた人に裏切られて自己破産してしまったんです。そのちょっと前には鵠沼の実家も無くなって、数ヶ月後にはサーフィンをやっていた友人が病で亡くなり、さらに弟のような可愛がっていた猫も亡くなってどん底に落ちたんです。サラリーマンをやるような柄でもないし、仕事もなくて自分の手持ちは全部合わせても3ヶ月生きるのが精一杯。『自分にはもう何もない』と初めて死ぬことを考えたとき、『どうせなら、おもいっきりやりたいことに命をかけてやってみよう』と思ったんです。そのとき頭に浮かんだのが川久保玲さんでした。自分が世界で一番スゴいと思う人に挑戦し、選んでもらいたい。そのためには残り3ヶ月をどうしたらいいのか。思いついたのは、世界中から才能ある人たちが川久保さんに作品を送る中で、自分にできることは世界中の誰よりも沢山の『COMME des GARÇONS』という文字を描くということでした。それから毎日10時間以上、色んなテイストで描いてみて、良いと思える作品をキャンバスや紙、箱、いろいろな物に描き写しました。そして完成した作品から、40点くらいをピックアップして、写真に撮ってファイリングしたものを川久保さん宛に送ったんです」

 

———人生を賭けたこの挑戦、川久保さんから連絡が来たときの当時の感想を教えてください。

「心の底から嬉し泣きをしたのはこれが初めてでした。自分が世界で一番スゴいと思っている人に選んで頂けたことは、この上ない喜びでしたね」

 

———念願であった《コム デ ギャルソン》と3回に渡りアートワークが起用されました。これはどういった流れで起用されたのでしょうか。

「1回目以降も同じく自主的に挑戦として作品を《コム デ ギャルソン》に送りました。その中で、2回目はインテリア雑誌に載っていたブラジル人の家のタイルにインスパイアを受けた、自分が“タイル文字”と呼んでいる作品がDMBOOKに載ったんです。3回目は、1回目と同様何十点か送った作品の中から2016年のクリスマスアイテムのアートワークとして起用されたんです。

 

———ブランドとのタイアップではない場合、普段はどういったテーマやコンセプトで作品を創られているのか教えてください。

「これが答えになっているのかわかりませんが、自分にとってアートは“実験”でもあるのです。才能がなくても死ぬほどやったらどうなるのかとか、サーフィンで得た感性はアートに活かすことができるのか、モードの分野に通用するのかとか。例えば今、実際に行なっているのは『ありがとうございます』という実験。この言葉には引き寄せやスピリチュアルなどがあり、『これを唱えていたり描いていたりすると良い事が起きる』みたいなジンクスがあります。しかしそれが本当に正しいのか間違っているのかは、誰にもわかりません。だから自分の人生をかけてこのテーマで作品を制作し、自分なりの答えを導き出したいと思っています。」

 

———一つの作品が完成するまでにどのくらいの時間がかかりますか?

「作品によってまちまちですが、早いものだと数時間で完成します。ですが最近はただ文字を描くだけではなく、何度も重ねる作業を行なったり、乾くまでの時間で練り直したり。もう少し先の深い世界を追求していきたいと思っているので、必然的にすごく時間がかかりますね」

 

———なかでも特に影響を受けたアーティストはいますか?

「たくさんいますが、日本人だったら草間彌生さんと岡本太郎さん。川久保さんは自身のことを、アーティストとはおっしゃらないのでデザイナーとして。海外の方だとバスキア。彼を題材にした映画『バスキア』の、路上でアンディー・ウォーホルに絵を売りつけてそこからピックされるシーンが好きで、自分も世界で一番偉大だと思う人に勝手に送って同じことやってみたいと思い川久保さんに送ったんですよ。あとはバリー・マッギーとバンクシーです。3人ともみんな“BA”から名前が始まるので、自分も彼らのようになりたいという思いを込めて“baanai”とつけたんです」

 

———サーフィンでも尊敬する方はいらっしゃいますか?

「自分はやっぱりジョエル・チューダーさんですね。“ロングボート=おじさんがやるもの”と思われていたのを、ジョエルさんは若い奴がやっても格好良い最高にクールなものなんだと、世界中に知らしめた方なんです。丁度《コム デ ギャルソン》に3回目の挑戦をした時にジョエルさんと実際に会う機会があり、そのとき頂いた言葉は今でも自分の中に大切に残っています」

 

———では最後に、今回開催される『ROOM FOR ART EXPERIMENT』はどのような個展になっているのかと、見所を教えてください。

「自分の作品が、初めは文字を並べていくと言うところから始まって、タイル文字をはじめとするバリエーションのようなものが増えてきているなかで、今回は比較的にシンプルな自分のスタイルの基礎となった作品を展示しています。同時に行う新作の制作過程の公開では、次回の個展に向けた作品というわけではなく、今自分がやっている『ありがとうございます』の実験場所をココに移して描かせてもらうつもりで行いたいと思っています。なので見所としては、自分のアートの基礎と、これからに繋がる作品を見て頂けるところなのではないかと思います」

 

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【ROOM FOR ART EXPERIMENT】
日時: 2017年12月16日(土)〜1月14日(日) 11:00〜19:00
場所: SISON GALLERy (http://sison.tokyo)
東京都渋谷区猿楽町3-18
電話: 03-6886-8048