FEATURE | 29, May, 2018

【インタビュー】Daniel Arsham with Perrotin, Nanzuka and Hunting World

 

 NYの現代アーティスト、ダニエル・アーシャムによる2つの個展が、六本木のギャラリー「ペロタン東京」と渋谷の「NANZUKA」にて同時開催中だ。両ギャラリーでは異なるスタイルの作品が展示され、アーティストの世界にどっぷりと浸かることのできる貴重な機会となっている。

 1980年にオハイオ州に生まれたダニエルは、多彩な表現技法を駆使するアーティストだ。その活動は「Fictional Archeology」(フィクションとしての考古学)というコンセプトに基づいた立体作品が特に有名だが、その他にもペインティングやインスタレーション、パフォーマンスなど多岐にわたる。最近では《ハンティング ワールド》とのコラボレーションを発表するなど、ファッションブランドとの協働も多い。今回の個展オープニング、そして《ハンティング ワールド》とコラボレーションイベントのために来日したダニエルに、アーティストとしてのルーツや作品の狙いについて話を伺った。

 

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DSC_0165「ペロタン東京」にある、ライカを使用した「Fictional Archeology」の作品

 NYのクーパーユニオン大学を卒業したダニエルは、アーティストとしての存在を確立させる以前に、自身が「僕にとって特別な人」と語る人物との出会いがあったという。それは、ダンサーであり振付師でもあるマース・カニンガム。ジョン・ケージのパートナーであり、アンディ・ウォーホルやロバート・ラウシェンバーグとのコラボレーションでもよく知られる大物芸術家との出会いだ。ダニエルはマースより声がかかって、彼の舞台のセットデザインを手がけていたことがある。
 「若い僕には、60歳くらい年上のマースから学ぶことが山ほどあったよ。中でも、彼の舞台の制作方法はとても興味深いものだった。舞台はさまざまな人が関わる総合芸術で、テーマのもとに振付師、音楽家、ステージデザイナーは各々の仕事に取り組むが、マースとの仕事では制作過程で他のクリエイターの制作内容を教えられることがないんだ。つまり、制作中には他のクリエイターとの調和を考えず、それぞれの領域でベストを尽くした成果物を最後に掛け合わせて舞台とするわけだ。僕は彼の元で5つほどのステージデザインを担当したが、それらは劇の世界で働いた初めての経験で、今の仕事にも生きているよ」

DSC_0173 DSC_0176 DSC_0166 DSC_0168「ペロタン東京」での展示「カラー・シャドウ」。立体作品からペインティングまでカラフルな作品を豊富に見ることができる。

 コンセプト「Fictional Archeology」に基づいて制作される鋳造作品のモチーフとなるのは、現代を生きる人々に広く使用されるアイコニックな物。「未来における考古学者」というスタンスで、カメラや携帯電話、バスケットボールなど現代にある物を、「未来では忘れさられてしまった物」と仮定して表現する。その斬新なコンセプトは、どのようにして発想に至ったのだろうか。それは2013年に《ルイ・ヴィトン》とのコラボレーションでイースター島を訪れ、ペインティングを行ったときのこと。そのとき眺めていたモアイ像から「Fictional Archeology」というコンセプトを思いついたという。
 「モアイ像を見ながら、考古学という過去へのアプローチについて新しい解釈ができるのではないかと思った。考古学者によって歴史は語られるが、考古学者でも歴史のすべてを正確に知ることはできないはずだ。つまり、語られるストーリーのどこかには必ずフィクションが存在する。そこで僕は考古学の手法を要素分解・分析し、現在の“物”に対して適用することで、新しいストーリーを生み出すことはできないかと考えたんだ」

 

DSC_0190 DSC_0186 DSC_0181 DSC_0180「NANZUKA」での展示「アーキテクチャー・アノマリーズ」。「ペロタン東京」とは対照的なオールホワイト。

 今回「ペロタン東京」で行われている展示「カラー・シャドウ」では、キアロスクーロ(明暗のコントラスト)から発想を得たグラデーションカラーの鋳造作品をメインに、ペインティングを含む幅広い作品を見ることができる。今展のために特別に制作したという、新技術を使った壁紙も見所の一つだ。「アーキテクチャー・アノマリーズ」と名付けられた「NANZUKA」での展示は、建築がテーマ。白のファイバーグラスを素材とする作品は同素材の会場の壁と同化し、建築そのものを作品の一部に取り込んだ。一見わかりづらいが、ダニエルは作品によってそれぞれ異なった素材を使用している。例えば黄鉄鋼、セレナイト、火山灰、ガラス、黒曜石、氷岩石といった素材のバリエーションがあり、作品にさらなる非現実性を生み出している。ダニエルに素材へのこだわりについて尋ねると、意外にも素材そのものに深い興味はないと語った。
 「素材はあくまで作品ありきだからね。例えば『NANZUKA』での展示作品はファイバーグラスで制作しているが、これは壁と同素材を使うことで作品と建築を融合させるというコンセプトに基づいた素材選びなんだ。この場合は、マテリアルそのものは重要ではないね。だけどバスケットボールの作品は、基本となる素材と埋めこんだクリスタルの組み合わせが、何か新しい感覚を生み出すと思った。このような場合は素材そのものが重要だ。僕は多くの作品に地質物資を使うことで、現代のアイテムをあたかも1000年前の物のように見せている。そのような自然な時間的変位が、作品に真実味を与えているんだ」

 

 一つひとつの作品に込められた意味を問うと、ダニエルは作品に特別な主張はないとする一方で、アーティストとしての狙いはあると話す。
 「すべての作品に共通している狙いは、見る人を日常とは違った世界に引き込むことだ。『ペロタン東京』に展示しているテディベアは、鋳造型の元になった素材の質感が残ってソフトに見えるけれど、実際はブロンズ製だから硬く驚きがある。『NANZUKA』では“建築は固定されているもの”という常識を覆そうとしている。見る人の先入観を振りほどいて、物事について改めて考えることを促しているんだ」

 ミニマルな手法で制作され削ぎ落とされた作品は、シンプルであるがゆえに人々から多様なリアクションが見られるという。ダニエルはその実例を教えてくれた。
 「以前の香港の展示では、手を水平に広げている人型のスカルプチャーは『仏陀』を思わせると現地の人はコメントした。しかしその後のヨーロッパでの展示では、人々は同じものを『聖母マリア』のようだと言うんだ。同じ作品でも、見る人のバックグラウンドによって捉え方が違い、その意味も変わってくる。とても面白いよね。今回の『ペロタン東京』での展示では、日本人に馴染みの深い日本庭園をモチーフにした作品を展示している。他の国とはまた違った角度から解釈をしてくれるだろうから、その反応が楽しみだよ」

スクリーンショット 2018-05-14 19.03.32スクリーンショット 2018-05-14 19.03.25

DSC_0239 DSC_0218「ドーバー ストリート マーケット ギンザ」で行われている、《ハンティング ワールド》とのコラボレーションイベント。

 「Fictional Archeology」というコンセプトに至ったのも《ルイ・ヴィトン》がきっかけであり、その後の多数のブランドとのコラボレーションを見ると、ダニエルとファッションは蜜月の関係にあると言っていいだろう。過去にダニエルは、かつてエディ・スリマンが手がけていた《ディオール オム》のロサンゼルス店舗のフィッティングルームをデザインし、《パブリック・スクール》のランウェイセットデザインや《カルバン クライン》では映像ディレクターも手がけてきた。また《アディダス オリジナルス》とはスニーカーを、《KITH》とは「ARSHAM STUDIO STANDARD」と題したウエアのコレクションを制作している。
 そして今注目したいのは、《ハンティング ワールド》とのコラボレーションだ。ブランドにとって初となるアーティストとのコラボレーションでは、定番モデル「バチュー サーパス」に、オリジナルメタルワッペンとラベルでデコレイトした「ダッフル」と「キャリーオール」バッグ、さらには、Tシャツやキャップ、パーカーなどもラインナップ。それらすべてがオールホワイトに塗り替えられた画期的なコレクションだが、実はバッグの内面はミントグリーンの“ダニエル・アーシャム カラー”で彩られている点も注目したい。「ドーバー ストリート マーケット ギンザ」では、6月12日までポップアップイベントを開催中。1Fのイベントスペースにはインスタレーションも設置されている。仕事で世界中を飛び回るダニエルは、「旅」というコラボレーションコンセプトに共感を得てデザインしたという。さて、ファッションブランドのコラボレーションの際に、アーティストとしてのコンセプトをプロダクトに落とし込もうとするのだろうか?
 「それはまだしたことがないな。でもチャンスがあれば『Fictional Archeology』の要素を取り入れたコラボレーションもやってみたいね。僕はファッションブランドと一緒に働くことは好きだし、アーティストとしても意味があることだと思っている。なぜならコラボレーションは、普段ギャラリーに訪れることのない人にも、商品を通して僕のことを知ってもらえる機会にもなるから。それが僕のアートの世界への入り口になってくれたら嬉しいね」

 

カラー・シャドウ
TERM  ~ 6月30日(土)
PLACE  ペロタン東京
ADDRESS  東京都港区六本木6-6-9
OPENING HOURS   11:00- 19:00 (日月休)
TEL  03-6721-0687
URL  perrotin.com/exhibitions/daniel_arsham—color-shadows/6540

 

アーキテクチャー・アノマリーズ
TERM  ~ 6月30日(土)
PLACE  NANZUKA
ADDRESS  東京都渋谷区渋谷2-17-3 渋谷アイビスビルB2F
OPENING HOURS  11:00- 19:00 (日月祝休)
TEL  03-3400-0075
URL  nug.jp/jp/exhibition/2018danielArsham.html

 

HUNTING WORLD x Arsham Studio Standard Collection Pop Up Shop
TERM  ~ 6月12日(火)
PLACE  ドーバー ストリート マーケット ギンザ
ADDRESS  東京都中央区銀座6-9-5 1F
OPENING HOURS  11:00- 20:00 

 

Edit_Ko Ueoka