FEATURE | 28, Jun, 2018

【インタビュー】NAOHIRO HARADA “The Third Room”

都市を彷徨い、現実と夢想の狭間に探し求める未知の感覚。

 

 東京のストリートを拠点に活動する写真家・原田直宏氏が、第二作目となる新写真集『The Third Room』を発表した。その刊行に合わせ、東京・六本木の「禅フォトギャラリー」にて、写真展『The Third Room』が7月14日まで開催されている。

 都市の狭間に差し込むスポットライトのように強い光を利用し、行き交う人物の姿を幽玄に写し出す原田氏。ハイコントラストの白黒で統一された処女作『泳ぐ身体』から一変し、今作はすべてカラー写真で構成された。さらに、作家にとって新たな試みであるレイヨグラフ(印画紙の上に直接物を置いて感光させる技法)を制作し、マーク・ロスコを思わせる抽象表現にも挑戦。移り変わる色彩、そして現実と夢想の間に、作家が表現したい「自分の感覚」を描写したという。これまでモノクロームの表現にこだわってきた写真家が、なぜ色彩に答えを求めるようになったのか。そして写真集を通して表現したい「自分の感覚」とは。展示設営を終えたばかりの原田氏を訪ね、話を伺った。

 

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——2011年に発表した前作『泳ぐ身体』に引き続き、今作『The Third Room』も大半がストリートフォトで構成されていますね。なぜストリートを拠点に撮影するのでしょうか?

 たしかに前作今作ともにストリートで撮っていますが、実は絶対にストリートでなければならないわけではありませんでした。私は街行く人々のパーソナリティを撮りたいのではなく、作品を通じて「自分の感覚」を表現したい。その求める瞬間は、ストリートと私の感覚を擦り合わせて見つけるやり方が楽なんです。「自分の感覚」を研ぎ澄まして表現するために、写真技法で街並みなどの余計な情報を削いだり、時には焼き込んで黒く落としてしまうこともありますね。

 

——今作『The Third Room』の制作はどのように始まったのでしょうか?

 前作『泳ぐ身体』での黒と白のミニマルな表現は、利用する差し込む光の関係上、撮れる時間や場所が限られるので撮影行為の幅が狭く、制作中は常に息苦しさを感じていました。そのカウンターとして自由な制作への欲求が高まり、今作は撮影コンセプトを設けずフィルムもカラーに切り替えて制作を始めたことで、当初はさまざまな方向に興味が向かいました。ただの道を撮っていた時期もあったくらいです(笑) しかし、心のどこかで一作目『泳ぐ身体』の存在の大きさを感じていて、それをないがしろにして次の作品には進めないと思い、最終的な全体の作風は前作を継承しています。

 

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——今作ではレイヨグラフを用いた抽象的な作品がストリートフォトの間に差し込まれているのが印象的です。なぜレイヨグラフの使用に至ったのでしょうか?

 6年に及ぶ制作をまとめる作業に入ると、それぞれの写真がうまく繋がらないことに気がつきました。自分の求める世界観が、写真を組み合わせる中でうまく浮かび上がってこなかったのです。求めるイメージは漠然とありつつも、具体的にはわからず、街中に答えを求めて彷徨ってもついに出会えなかった。そこで、その目に見えないイメージを自分で作り出すことを思いつき、レイヨグラフという手法に結実しました。そうして暗室にこもって頭の中の感覚を印画紙に焼き付けたのです。

 

——では、自身の感覚が投影されたレイヨグラフと、投影しきれていないストリートフォトを結びつけようとする試みにはどのような意図がありますか?

 現実にはない「自分の感覚」をレイヨグラフで作り出し、ストリートの写真と交差させることで、制作中に街を彷徨う中で生まれた感覚を再現しようとしています。例えば、イヤホンで音楽を聴きながら街を歩くと、なんてこともない道がエモーショナルに見えることがある。レイヨグラフはその音楽のような役割を果たすわけです。僕が育った時代はフィジカルCDなどそこにあるものがすべてという時代でしたが、今はApple Music等のクラウドサービスのおかげで、いつでもどこでも数多くの未知の音楽にアクセスできる。つまりスマートフォンを持ってさえいれば、いつでもそこにない感覚と接点を持つことができる。そういった「今そこにいる/ある」という限定性を否定する、ネット社会がもたらした概念も表現しているつもりです。

 

——現代ならではのインスピレーションを作品に取り入れながらも、デジタルではなくフィルムカメラを使い続ける理由はなんでしょうか?

 まず、フィルムカメラにはフィルムを装填しなおす際にどうしても「撮れない時間」が発生し、その隙にシャッターチャンスが過ぎ去ってしまうことがあります。しかし「撮れない時間」は決してマイナスではなく、逃したイメージが自分の中に蓄積されることで次なる想像力の源になるのです。デジタルが主流になったからこそ、フィルムならではの隙間の時間を前向きに捉えるようになりました。デジタルには常時社会と接続されているような感覚を覚えますが、フィルムを扱うときは世の中から孤立している感覚がある。その孤立の時間が、私にとっては重要だと思います。今回もカメラはフィルムで、レイヨグラフはマン・レイやモホリ=ナジも使用していた古典的な手法ですので、特に新しい技術は使っていません(笑) しかし私は、写真表現やクリエイティブプロセスを要素分解して再構築することで、新しい表現を生みだせると思っています。

 

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DSC_0416写真集『The Third Room』。グラフィックが印刷されたトレーシングペーパーによって写真の見え方が変わる

 

——では、写真集『The Third Room』の構成についてお聞かせください。

 私とデザイナーの柿沼充弘さん、「禅フォトギャラリー」のボニーさんの3人で、3ピースバンドのような形でアイデアを出し合いながら一緒に考えて作りました。写真集は、ストリートフォトやレイヨグラフ、グラフィックなどを境界なく織り交ぜることで、流れるような色彩を表現すると同時に、具象と抽象、現実と非現実を行き来するような構成となっています。特徴的なのは、見開き一枚で配置された写真の間にカラー印刷されたクロマティコ紙という厚めのトレーシングペーパーを差し込み、そこに光を模したグラフィックデザインが施されていることです。これは他の写真集では見たことが無い構成になっていると思っています。私は写真を形で捉えているので、写真が横転したり、上下逆さまにレイアウトされているのもありますね。構成に関しては、既存の写真集の概念を破るかなり挑戦的なものにしたつもりです。

 

——巻末には、原田さんによるテキストが付属しています。この文章は、写真集においてどのような役割を果たすのでしょうか?

 自分の作品に対して、作家としての文脈を提示しないと無責任な表現になると思ったので、私が制作中に描いていた作家視点からのストーリーを添えました。テキストでは、写真や視覚について考えたことを「3つの部屋」に分類した小説のようなストーリーを書いています。一つ目は「見える部屋」という、光が入るいわゆる現実世界。二つ目は「感じる部屋」、目を閉じた想像の世界です。3つ目は「想像すらできない部屋」。並列させている英文訳では、meditation=瞑想という言葉を使っています。瞑想のように、いかに無心になって、想像できないものに対して行動を起こしていくかという世界の話です。しかし、テキストはあくまで「自分の感覚」を補足的に説明するもので、見る人には自由に写真を捉えていただきたいと思います。写真は物質的に捉えられた光でしかないので、見る人によって無限のストーリーを組み立てることができる。ですので、今作ではテキストブックは写真集から外れるようになっています。

 

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DSC_0362展示風景、オブジェのインスタレーション。

 

——7月14日まで東京・六本木の「禅フォトギャラリー」で行われている写真展について教えてください。

 今回の展示では、写真集に掲載されている写真とは異なる、プリントの上にレイヨグラフの手法で色を焼き込んだミックス版を展示することで、終わりのない色の連鎖やグルーヴ感を生み出しています。写真集の構成が出来上がった後に展示用のプリントを作り始めたのですが、その際にまた新しい解釈が出来ることに気づいたのです。物事を幾度となく捉え直すことで、クリエイティブのレイヤーが深まっていく。まるで水の入った器を替えていく作業のようで、本質である水そのものは変わらないのに、器が変わる度にその見え方が変わってくる。また会場では、インスタレーションもあったら面白いかもと思い、街中で収集した「自分の感覚」に似た色彩や形を持ったオブジェも展示しています。私は「自分の感覚」を提示したいので、それが伝わるなら写真じゃなくてもいい。想像力を乱反射させる試みをしています。

 

——「水の入った器」のお話がありましたが、展示に向けて水を入れ替える中で次なる作品の構想は生まれましたか?

 自分の表現は少し観念的すぎると感じることもあり、次はストリートを一度離れようかと思っています。そして、今回は黒からカラーに対してのアプローチだったので、次は白とカラーの関係性を探ってみようかと。制作中に、自分の根底にはいかにも日本人らしい無常観があることに気づきました。イメージは確固としていなく、ブレながら流動的に存在している。その無常観の上で、色彩と白を混ぜ、東洋的な表現を目指したいと思います。以前はストリートで撮らなくてはならないという強迫観念がありましたが、今はそうじゃなくてもいいという許容を自分の中で持てています。何かに固執せず新しいアプローチをしていきたいと思えるようになったのが、今回の制作での一番の収穫かもしれませんね。

 

 

【書籍情報】
原田直宏『三つ目の部屋へ』
300部限定| 5,000円
プリント付きB4変形サイズスペシャルエディション有り(限定30部)
お問い合わせ  info@zen-foto.jp、写々者(www.shashasha.co)

 

【展示情報】
三つ目の部屋へ
TERM  ~2018年7月14日
PLACE  禅フォトギャラリー
ADDRESS  東京都港区六本木6-6-9 ピラミデビル2F
OPENING HOURS  12:00~19:00 (火〜土)
TEL  03-6804-1708

 

原田直宏
はらだ なおひろ 1982年、東京生まれ。2010年、早稲田大学芸術学校空間映像科卒業。2011年に新宿と大阪の「ニコンサロン」で初の個展『泳ぐ身体』を開催。2014年に「BankART Studio NYK」にて開催された『Group exhibition vol.2 HAKKA』に参加し、同年「禅フォトギャラリー」で個展『泳ぐ身体』を開催した。2016年には「東塔堂」にて行われたAndile Buka との共同企画展『REMIXING GROUND 混在する都市 ヨハネスブルグ×東京』に参加。

 

Edit_Ko Ueoka