FEATURE | 18, Apr, 2019

【インタビュー】 Pius Fox “Der Trommler”

 ドイツ・ベルリンを拠点に活動するアーティスト、ピウス・フォックスによる日本初個展が、海外の若手現代アート作家を紹介する東京・池尻大橋のギャラリー「104GALERIE」にて5月19日(日)まで開催中だ。

Standtabrnd

  Stadtabend, 2019
    Oil on paper on aluminium
    24 x 18 cm

 

 小さな支持体に繊細に描かれるピウス・フォックスの作品は、色彩、画面構成とも絶妙なバランスを保ち、描かれている存在を把握しようとすればするほど理解が困難になるような不思議な世界をつくり出している。ベルリンにあるアートスクール「University of the Arts」を卒業した後、世界的に活躍する画家フランク・バドゥール(Frank Badur)やピア・フライズ(Pia Fries)の下で制作。現在ではニューヨーク、ベルリン、ロンドン、パリなどで個展・グループ展を意欲的に開催・参加しているフォックス。今回日本で初となる個展を迎え来日した作家本人に、彼が生み出す世界観について、そしてその意味について尋ねた。

 実際に彼の作品と対峙したとき、単に絵の具が重ね合わされた抽象的な世界ではないことは明らかだ。本展覧会のタイトルは「Der Trommer」。ドイツ語でグリム童話にある「太鼓たたき」を意味するものだが、なぜ抽象的な制作スタイルとは相まって、このような具象的なテーマを用いたのだろうか。「『太鼓たたき』に限らずグリム童話は幼いころから僕にとって馴染みのあるものだったんだ。1年ほど前、偶然久々にそれらに触れる機会があって、中でも今回のタイトルになっている『太鼓たたき』のストーリーや世界観はそのときの自身の意向に合っていた。今までは今回のように物語にインスピレーションを受けて制作することはなかったけれど、なんとなくその方法にも興味を持つようになり自然と取り組んでいたんだ」

 

Hutte

Hütte
   Oil and egg tempera on paper on aluminium
   28 x 20 cm

 

 確かに、「太鼓たたき」を読んだ上で鑑賞すると、物語に登場するガラスの山や魔女の小屋など、それらのイメージを彷彿させる要素を展示作品より捉えることができるだろう。しかし、実際に物語に登場するものが描かれていると言うより、物語の世界に存在する空間や空気が描かれている。「作品を描く上で、描く対象のディティールなどよりも、対象とそれが存在する世界をつなげるものに僕は注目しているんだ。例えば小屋を描くにあたっても、物語に登場する小屋を描きたいと言うよりも、それが存在するランドスケープやイメージできる色を描きたいと思ってる」と彼は語る。

 抽象的で比喩的なメッセージが存在しないイメージを、あえて物語性が強く分かりやすいグリム童話と組み合わせるという、興味深い取り組みを新作で行っているフォックス。今までの作品と新作群に共通するスタイルに注目してみよう。
「普段の制作では基本的に僕が実際で目で見た風景や物をモチーフにしていて、それは僕の制作の上でとても大切なプロセスだと思っているんだ。なぜなら、目に見えて認知できるものは誰にとっても共通するものだけれど、その対象から得られるイメージは人それぞれまったく異なるものだったりする。この重要な事実を元に僕の頭のフィルターを通すことによってみえてくるイメージは、きっと鑑賞してくれる人にとっては新鮮だし、その反応は僕にとっても新鮮なんだ」
 芸術作品が生み出す独特な間接的コミュニケーションに目を向ける彼の作品の効果は、今回の展覧会も同様に成り立っていて、作家と鑑賞者による豊かな空間を生み出している。

 

Der stein des die wand halt

    Der stein des die wand hält
    Oil and egg tempera on paper on aluminium
    28 x 20 cm

 

 では、現在のスタイルに行き着くまで彼はどのような作家に影響を受けてきたのだろうか。「イタリアのルネサンス絵画、特にピエロ・デラ・フランチェスカの作品はとても好きだね。僕自身の作品とは違って具象で説明的じゃないのが不思議だとよく言われるけど、モダンアートと言われるようなジャンルよりは繊細で歴史的、文化的深みがあるものの方が僕にとっては興味深いよ」と語るフォックス。実際に展示会場に足を運ぶと分かるが、天井の高い空間に並ぶ彼の作品からはサイズと比例しないパワーと優美さの交差を受け取ることができる。

 確かに、作風という視点からみたとき、抽象的な作品を描くフォックスの作品と、具象的な表現を代表するルネサンスイタリア絵画は異なるかもしれない。しかし、時代が流れるにつれて芸術もまた移り変わる。美術の教科書より我々が学んだ形式化された手法や様式は今や多くのアーティストらにより分解され、混ぜ合わされ、ラジカルでありながら新鮮なものとして進化している。彼の描く抽象絵画もそのひとつで、1910年代よりワシリー・カンディンスキーやピエト・モンドリアンが描きはじめた表現方法の視覚的原型はもはや失われ、制作スタイルの構築に向けたインスピレーションやカタルシスの素材という見方に近いのではないだろうか。

 「日本独特の文化や伝統には前々から興味があって、芸術作品はもちろんのことプロダクトや工芸品もそれぞれ奥が深い。僕の作品が日本人にとってどの様に受け取られるかはまだ分からないけど、この素晴らしいギャラリーで異なる文化が交わる素敵な空間が生まれれば嬉しいな」と日本初個展への期待を語るフォックス。彼の生み出す抽象と具象の間を行き来するかのような視覚的効果は、我々に刺激的で新鮮な体験を与えてくれるに違いない。

 

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Der Trommler

期間 – 5月19日(日)
場所 104GALERIE-R
住所 東京都目黒区大橋1-6-4 GARAGE
時間   12:00- 20:00 (水休)
電話番号 03-6303-0956
URL 104galerie.com

Interview & Text_Daiki Tajiri