FEATURE | 08, Nov, 2019

interview with Lim Sokchanlina“Wrapped Future Ⅱ”

 「nichido contemporary art」ではカンボジア出身のアーティスト、リム・ソクチャンリナによる日本で初の個展「Wrapped Future Ⅱ」が開催中だ。リムはカンボジアのプレイベンに生まれ、現在は首都のプノンペンを拠点にアーティスト活動を行い、カンボジアの今を様々なアプローチで発信している。展示されている作品は彼によって切り取られたカンボジアの郊外にフェンスが置かれた景色。中央に置かれたフェンスによって遮られた見えない“何か”、だけど確かにそこで起こっている“何か”が不穏な空気を感じさせる。

 カンボジアという国が歩んできた歴史を知れば知るほど、リムのが訴えるメッセージの大きさに胸を殴られたかのような衝撃がある。カンボジアで一体何が起こっているのだろうか? 今を知るためには過去を切り離すことはできないと、彼の作品を前にした瞬間感じるだろう。変わりゆく故郷を見つめ続けるリムに直接話を聞いてみた。

 

――日本に来るのは何度目ですか?

4回目ですね。レジデンスやエキシビションや…今回は初の個展で。日本はカルチャーも食事も気に入っています。日本には3ヶ月近く滞在していたこともありました。

 

――渋谷はかなり開発されたのですが、カンボジアもかなり開発が進んでいるようですね。

そうですね…渋谷の開発とカンボジアでの開発では背景にあるものがかなり違うので比較のしようがないのですが。特に今回の展示は都市ではなく郊外に目を向けて、自然をエレメントとして重視しているので。人工的なものはフェンスだけしか用意しませんでした。

 

――リムさんが生まれたプレイベンはどんなところだったのでしょうか。また、どんな幼少期を過ごされましたか?

プレイベンは田園風景が広がる田舎で、いろんなお米を作っている土地、そしてたくさんの寺院がある町として有名です。かつてはクメール・ルージュの支配下にあった土地でもあります。4歳までしかいなかったので、確かな記憶はないのですが絶対に忘れることができない故郷なので毎年必ず帰っていますね。
実際には、人生のほとんどを都市のプノンペンで過ごしていますが私は自然が大好きなんです。田んぼを歩いたり、カエルの声やバッタの鳴き声が記憶のどこかに残っていて、いつかここへ戻りたいという気持ちもあります。都市での暮らしよりも、田舎のゆったりした暮らしが自分に合ってるとも思いますね。なので、東京はちょっと苦手です。神戸や京都、沖縄などが好きです。東京は流れが早く感じます。

 

――プノンペンからプレイベンへ戻らないのはなぜですか?

引っ越しをしたとき私はとても幼かったので家族についていくほかありませんでした。何より家族と一緒にいることが重要だと感じていたからです。今は、国際的にコネクションするにはやはりプノンペンにいるべきだと考えています。プレイベンはまだ貧しい町ですから、インターネットも全地域が繋がるわけじゃないので。仕事をする上では都市にいた方が便利なんですよね。

 

――なぜアーティストになったのでしょうか。何かきっかけはありましたか?クメール・ルージュの支配下だったプレイベン出身であることは要因になっているのでしょうか?

幸運なことに、私の叔父がアーティストだったので写真を学ぶクラスを紹介してもらいました。平日はノートン大学で経済学を学び、週末は写真を学ぶという生活を送っていたんです。そのとき写真というものにとても魅力を感じました。現在、好きな写真を仕事にして生活できていることが幸せです。
クメール・ルージュが私に影響を与えたかというと、それはあるのだと思います。というのも、歴史をベースに考えるとどうしてもクメール・ルージュを切り離すことができないんですよね。作品の中で直接的な表現をしていなくても、背景を掘り下げていくとクメール・ルージュに行き着くのは避けられない。

 

――なぜ、写真に魅力を感じたのですか?

写真というものは、瞬間を記録しそれを見せることがきますよね。カンボジアで今、何が起こっているのかをダイレクトに表現できるのが魅力的でした。もともと、研究として記録を目的に写真を撮影していたのですがそれが写真の表現に広がっていって今の作品につながっていると思います。また、作品を作る過程で、経済を学んでいたことが無駄になっているとは思いません。

 

――写真にとどまらず、映像やパフォーマンス、インスタレーションまで表現が拡張して行ったのはなぜですか?

写真は表現に限界があります。映像は写真と同じ感覚、延長線にありながら音や動きを盛り込めますし、パフォーマンスも同様に写真にある限界を超えて発展させることができるので重要な表現方法の一つです。その場の風景を収めるだけではなく、今回展示している作品のように自然の中にフェンスを持ち込んで写真と同時に動画も撮影するなど様々なアプローチをしていくことで表現の幅を広げたかった。同じことを繰り返すのではなく、新しい表現を展開していってアーティストとして表現の領域を超えることは重要なんです。

 

――ボーダーを超えるというのは簡単なことではないですよね。

写真の延長線に映像があって、同時にパフォーマンスもあるのでテクニックとして難しいことはありません。ただ、時に写真は映像よりも強く、また逆も然りだと考えています。

 

“Bokor Palace Hotel and Casino, Kampot Province” 2017, 70 x 105 cm, Ilford Smooth Cotton Rag ©Lim Sokchanlina Courtesy of nca | nichido contemporary art
“Bokor Palace Hotel and Casino, Kampot Province” 2017, 70 x 105 cm, Ilford Smooth Cotton Rag
©Lim Sokchanlina Courtesy of nca | nichido contemporary art
“Areng Valley, Koh Kong Province” 2018, 70 x 105 cm, Ilford Smooth Cotton Rag ©Lim Sokchanlina Courtesy of nca | nichido contemporary art
“Areng Valley, Koh Kong Province” 2018, 70 x 105 cm, Ilford Smooth Cotton Rag
©Lim Sokchanlina Courtesy of nca | nichido contemporary art

 

――「Wrapped FutureⅠ」は設置されたフェンスを撮影し、「Wrapped FutureⅡ」では持ち込んで撮影していますがそれはなぜですか?

「Wrapped FutureⅠ」はまさにその場で行われていることを撮影したので、都市の移り変わりという意味では渋谷にリンクするものがあるのかもしれません。ただ、現在は都市だけでなく郊外の町が開発のターゲットになっている。都市だけでは済まなくなっているんですよね。なので、開発や変化の象徴であるフェンスを持ち込みました。毎回、綿密なリサーチをしたうえで場所を選んでいます。例えば「Wrapped FutureⅡ」の撮影場所の一つにゴム園があります。そこはもともとフランス植民地時代、フランス配下にあったゴム園なのですが今はまた別の資本がそこに手を伸ばしている。ここと同じように政治や経済によって揺らいでいる、そして誰もこの先どうなってしまうか分からないようなところにフェンスを置きました。

 

――展示された作品を観て、フェンスの周りの自然にとても動きがあると感じました。

そうですね、あえてそのように作品に取り入れました。フェンスは人工的で自然の中に置いたときに溶け込むことはないです。そして、人工物が自然に勝つことはできない。自然は常に動いていて力強くて、ミステリアスです。

 

――新しいフェンスを使用された中で、アーラング渓谷では使用されたものを撮影していますがそこに理由はあるのですか?

常に開発は新しいフェンスによって包まれているものなので、主に新しいフェンスを持ち込んで撮影しています。ただ一つだけ違うのはアーラング渓谷のフェンスはホワイトビルディングにあったものを使用したこと。これは、とても長く簡単な話ではないのですが……ホワイトビルディングはかつて有識者や文化人が住んでいたモダンな住宅地でした。しかし、そこに住む人々はクメール・ルージュによる迫害で追い出されてしまったのです。今ではほとんどゴーストタウンのようになり、取り壊されてしましました。また、アーラング渓谷周辺では開発計画の裏で先住民族と政府の間で土地の権利、少数民族の人権問題などさまざまな抗争が続いています。そこに、ホワイトビルディングの解体工事で使われたフェンスを設置しました。

 

――フェンスがなぜ、未来を隠しているものだと感じたのですか?

実際に町のいたるところでそれが行われているからです。町中がフェンスで覆われ、包まれてしまい私たちからは何も見えないんです。外国の投資家の土地だということはわかるけれど、どんな人物が所有しているのかわからないしそこで何が起こっていても分かり得ない。そんな状態がずっと続いているんですよ。それは私にとってとてもつらいことです。人権問題や土地の権利の問題だけでなく貧富によってヒエラルキーが存在し、開発というのは全くフェアじゃなくて。フェンスによる不透明さをずっと感じています。

 

――フェンスが外された未来はどうなると想像されますか?

うーん……簡単なことではないです。きっと、新しい建物が建って、景色が変わってしまうだろうし現状と全く違う未来になってしまうのではないでしょうか。もちろんそうなってしまうかわからないですが、悲しいことだとは確信しています。変化によって疲弊して街を出っていってしまう人もたくさんいるだろうし。
変化というのは捉え方によって、確かにいいものです。大きな道ができることで農作物が運びやすくなり、豊かになるでしょう。でも、その一方で無視されてしまうのが原住民族の暮らしや人権問題です。

 

――これからもカンボジアを見つめ、活動を続けていくのでしょうか?

はい。カンボジアはやはり私の作品のメインテーマですから。これから様々な国との関係を通してカンボジアを見つめていきたいですね。世界はとても広くて大きいですが、私にとってはカンボジアもまた、とても広くて大きい世界なんです。

 

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【展覧会情報】
Wrapped Future Ⅱ
TERM 11月1日~12月7日
PLACE nca | nichido contemporary art
ADDRESS東京都中央区八丁堀 4-3-3 DAIWA 京橋ビル B1
OPENING HOURS 11:00~19:00 (火~土)
URL nca-g.com

Lim Sokchanlina
リム・ソクチャンリナ 1987年、カンボジア・プレイベン州生まれ。2010年ノートン大学経済学部卒業。写真、映像、インスタレーション、パフォーマンスを用いてドキュメンタリーと実践的なコンセプトを超えた作品に取り組み、特にカンボジアの政治や文化、社会、そして環境の変化に焦点を当てる。11月22日から開催するシンガポール・ビエンナーレ2019に参加予定。

 

Edit_Marin Kanda