FEATURE | 06, Dec, 2019

interview with Choi Jeong-hwa“Blooming Matrix”

韓国出身のアーティスト、チェ・ジョンファによる個展「Blooming Matrix花ひらく森」が「GYRE GALLERY」で開催されている。

うず高く積み上げられ、時に連なって捻れる我々の日常の中にあたりまえに存在する器や枕、やかんに鍋など。そんなとるに足らないものたちが、チェ氏を媒介することでいつもとはまったく違う姿でそこにある。生活の中に光を見出す彼の目には、日常的なものたちがどんな風に見えるのか知りたい。自らが手がけたオブジェの中でインタビューに応えてくれたチェ氏の言葉には生活や、土地やそこに住む人々などへの彼なりの向き合い方が滲み出ていた。

 

空っぽの
わたしが食べていたお皿、あなたを食べさせていたお皿
あなたに力を分け与え、他人と共に生きろという
ご飯
茶碗
地と空の間で燦燦と輝く光になりました。
食べさせ食べることの世話をする
お母さん
あなたにこの光を捧げます。

ーチェ・ジョンファ

 

 

ーーアーティストになる前のご自身について教えてください。なぜアーティストになったのですか?

学生の頃の私は、本当に数学ができない生徒で……テストではいつも0点を取るような生徒だったんですね。高校3年生のとき、試験が退屈で仕方なかったので問題を解かずにテスト用紙の裏に試験官の先生の顔を描いて時間を潰していました。それを見つけた数学の先生が「お前!試験中に絵なんか描いて!」と怒ったのですが、私のその絵を見た美術の先生が才能を見つけてくれたような感じです。そこから急に美術を始めました。もともと絵を描いていたわけでもないし、好きだったわけでもないのですが……まぁ、そのとき描いたものは芸術なんてものではなくただの絵でしたね。

 

ーー興味のなかった美術を始めようと決心したんですね。

その時確かに美術を始めましたが、それは美術というよりは技術だったかもしれません。なぜなら、私は市場のおばさんが作り出すものや死生に関することこそアルス(芸術)だと考えているからです。学校で習うようなことは技術であって芸術ではないと思います。大学3年生と4年生のときに韓国でも栄誉な賞をいただきましたが、それを受賞したときに「こうやって、こんな絵を描けば人に評価されるんだな」ということがわかってしまい、絵を描くことが嫌になったのでインテリアデザイン会社に就職しました。そこで絵をやめていなければ画家になっていたでしょうね。

 

ーーいつからアーティストだと自覚されたのでしょうか?

アーティストであったことは一度もないです。私は芸術とそうじゃない領域を行ったり来たりしている”芸術家に似ている人間”だから。芸術と非芸術、デザインとアート、そしてシャーマンを行き来していたいのです。これからも芸術家になりたいとは思いませんし、初めからそんな考えはありませんでした。だから、大学生のときも家から大学までの道のりは楽しかったのですが大学に着くとそんな明るい気持ちはなくなってしまったので「これはだめだな」と思ってしまって。インテリア会社に入ってからは、本当にいろんなことをしました。インテリア、グラフィック、美術や演出とあれこれやった結果、自分にはクリエイターに近いものがあるのではないかと気づいたんです。

 

ーーアーティストではなく、ご自身では何だと考えていらっしゃるのでしょうか?

メディエーター、つまり仲介者。霊媒師のようなものでしょうか。でも今はみなさんカメラやスマートフォンを持っていて誰でもデジタルメディエーターとなれる時代ですよね。でも、私はメディアを使わず、デジタルではできないことをしていると自負しています。人を泣かせたり感動させたり、揺さぶったり、何かを感じさせたり……。

 

 ーーこういった活動を始める前と後では何か変化はありましたか?

この活動を始めたから何が変わるというよりも、人生を歩んできた結果変わってきたことが多いです。20代、30代のときは物事の一面的な部分しか見えなかったけれど、今は両面が見える気がします。歳をとることで見える世界が変わってきました。キムチも熟した方がおいしいじゃないですか? 私は作家は歳をとるほどに良くなっていくものだと思うんです。いろんなものを見たり、知ったり、受け入れたりして、それらを返していくことができるので。私がいつも驚くのは、私よりも見てくださる方々がもっと私の作品を好きだということです。そういう方たちと話すことで自分の作品の新しい良さなどに気づけますし、作品について考え直すことができるのです。

 

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ーーチェさんは日常的なアイテムを使って、巨大化させたり積み重ねるなどの非日常的な表現をされていますがそれはなぜですか?

芸術というのは、あるものやないもの、今まで気づかなかったものなどを作ることだと思うのですが、太陽のもとではどんなものも結局は一緒なんです。平凡なものを掛け合わせることでみんなに新しいまなざしを提供し、とりとめのない普通のものたちをまったく違う視点で見てもらいたい。芸術家が作るからといって芸術作品とは限らないでしょう。私が作ったからといって、私の作品ではないのです。それは、土地や人や歴史などが混ざり合って自然と生まれ出てくるから。今回の展示も室内で行われてはいますが、人々に開かれているという意味ではパブリックアートと言えると思いますね。

 

ーー作品に一番影響を与えていることはなんでしょうか?

心です。それから、お母さんとおばさん。心を説明するのはとても難しいのですが……説明できないからこそ重要だということです。お母さん、おばさんというのは、太陽や私たちが感じることのできる光、母性。 

 

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ーー積み重ねたり、立体的な表現をするのはなぜですか?

山に登ると石を積み上げたりする遊びがあるじゃないですか、私はそれを真似ているだけなんです。なぜみんな石を積み重ねるのか知りたかったのでやってみたら、こうなっていきました。それに、山に積み重なる石と市場でおばさんたちが積み重ねているプラスチック用品に通じるものを感じて。そこから、私は自然や気持ちや希望を組み合わせていくことで、石や器とはまた違ったものを積み重ねていくことができるのではないかと思って始めました。幼少期から収集癖はあったんですよ。ネジやバスの切符、ボタンなどすごく収集する癖がありました。最初は母に怒られたりもしましたが、自分でも意識ぜず何かを集めることが習慣化していったので、ずっと続けてきた結果この作風にもつながったのだと思います。当時の私が収集することに魅力を感じていたのは、小学校生活6年間で8回転校したために友だちがずっといなかったので一人で楽しめることがそれだったんです。

 

ーー色彩豊かな作品とくすんだ色の作品がとても対極的に感じました。

陰と陽、そして月と太陽、影と光。世界は表裏一体で、人間はみんな表裏を持っているということです。そんなことを子どもの頃から考えていました。世界を信じることができす、すべて間違っているとも思っていましたね。でも、直せる世界と直せない世界があることをわかっていたので息苦しいと感じたことはありませんでした。世界に美しさを見出せる自分の前向きな性質と「自分が宇宙を救わないといけない!」という使命感に似たものがあるので、こういった作品を作っています。それに、器がカラフルだとみんな嬉しいでしょ? とってもシンプルなことです。

 

ーーどこからデザインを始めるのですか? また、活動も表現方法も多岐に渡っていますがそれはなぜですか?

人と地域と歴史が混ざり合うことで自然と生まれてくるんです。美術館よりも、ここ「GYRE GALLERY」のように人がたくさん来てくれて難しいことを求めてこない場所が好きですね。なぜなら、芸術はいつも現実をただ真似するものだからです。これはジャコメッティが言っていたことを引用しているのですが、かっこいいでしょ(笑)? なぜいろんなことをやるのかというと、私がそういう人間だからです。作品を作るときに自然と生まれてしまうのと同じように、様々な領域に私自身が引き寄せられ、導かれているのです。

 

ーー「生生活活」の意味を教えてください。

作品のように言葉を積み重ねたということもありますが、言葉遊びのような呪文です。それに、みなさんにとって生活が一番重要じゃないですか? 韓国には「생생활활(センセンファルファル)」という活を入れる言葉があるんですが、そこには「生生活活」の要素がありますし、私はもっと生活というものをモチベートしていきたいと考えているんです。

 

ーーチェさんの作品がアジアだけでなく世界中の人を引き寄せる理由はなんだと思われますか?

わかりやすくて説明がいらず、自分のストーリーを投影しやすいからじゃないですか? それに生活ってすべてに通じていることですよね。誰にとっても軸となっているものですから。

 

ーーチェさんにとって日常的なものとはなんですか?

眩しくて、くだらないもの。私はそういう世界の矛盾につき動かされてこういったものを作っているんだと思うんです。緻密だけど荒々しいとか、相対する言葉が好きですね。世界にあふれた相対する物事を突き合わせてみると調和が生まれたり、一つのものになってしまうという現象にいつも魅了されている。だからこそ、日常の中のありふれたものが私にとっては違って見えてくるのだと思います。

 

 

【展覧会情報】
「Blooming Matrix花ひらく森」
会期:〜2020年2月24日(月) 11:00-20:00
会場:GYRE GALLERY /GYRE 3F 東京都渋谷区神宮前5-10-1
主催:GYRE
ディレクション:HiRAO INC

 

Choi Jeong-hwa
チェ・ジョンファ 1961年生まれ。弘益大学校絵画科卒業。1987年にJooAng Fine Arts賞、1997年に5th Total Art賞、2005年には7th Ilmin Art賞を受賞している。「見えるものすべてをデザインし、見えぬものすべてをアート作品にするアーティスト」として知られ、キュレーター、 アートディレクター、プロデューサー、アマチュアアーティスト、インテリアデザイナー、クラフツマン、パブリックアーティ スト、インスタレーション、アーティスト、コレクターほか、活躍は多種に渡る。また、ほぼすべての国際ビエンナーレ、韓国内外の展示会に参加している。

 

Edit_Marin Kanda