Aug 21, 2020
By THEM MAGAZINE
土取郁香 『骨と皮(火を灯す・薔薇をみつけて来なければ)』
私とあなたの見る景色は違うから
「誰かに、何かに触れるということは許されているということだと思う。そのことをたびたび忘れている」。
1995年生まれのペインター、土取郁香の個展に寄せられたアーティスト・ステイトメントにハッとされられる。他者との触れ合いには、肉体的な接触、心的な繋がりだけでなく、何かを見て何かを感じ取る感覚の交信も含まれる。他人のパーソナルなことや秘密を知るのは特別なことだが、作家の言うとおりその尊さは忘れがちだ。ステイトメントはこう続く。
「大事なものひとつも取り零さないで抱きしめたいけれど、そんなにたくさん持てるだろうか? それともひとつだけを選び取るのだろうか」。
東京・神楽坂にあるギャラリー「WAITINGROOM」で開催されている『骨と皮(火を灯す・薔薇をみつけて来なければ)』は、作家にとってキャリア初となる個展だ。2人の人物を描いた『I and You』、風景の中から色やかたちなどの要素を抽出した『a scene』の2つのシリーズから、新作十数点が展示される。
土取は人と人のあいだにある距離や、「見る」ことの多様性、そして、特定の対象をかけがえなく思うことについて考えをめぐらせながら描くという。油絵具とラッカースプレーを用いて、言葉で明確に表現できない朧げな感覚をキャンバス上に塗り重ねていく。人肌に触れるようにキャンバスに相対する土取のアプローチは、必ずしも繊細で優しいタッチだけじゃない。ストロークにはときに激しさが篭もり、街中のグラフィティをも思わせるスプレーワークは瞬間的でいささか乱暴でもある。誰かと親密さを生む長い時間を共有する中で、人は常に優しくはいられない。それを許容することこそが美しいのだと、土取の作品は示している気がする。
TERM 8月22日~9月13日
PLACE WAITINGROOM
ADDRESS 東京都文京区水道2-14-2 長島ビル1F
OPENING HOURS 12:00-19:00(水-土)12:00–17:00(日)
URL waitingroom.jp
つちとりふみか 1995年、 兵庫県生まれ。京都を拠点に活動。2020年、京都芸術大学大学院 美術工芸領域修士課程修了。主なグループ展に「SUBJECT」(2020/アンテルーム京都)、『A-Lab Artist Gate 2020』(2020/ A-Labあまらぶアートラボ)など。今展が初の個展開催となる。
Edit_Ko Ueoka.