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CULTURE
Dec 24, 2020
By MARIN KANDA

コルソン・ホワイトヘッド『ニッケル・ボーイズ』

鮮烈な描写が光る、実力派作家の長編最新作

 

小誌のアメリカ文学特集でインタビューしたコルソン・ホワイトヘッドの最新作が2019年に発行され、またもピュリツァー賞を受賞。長編7作目にして、早くも同賞を2度受賞した史上4人目の作家となった。黒人奴隷について彼独自の緻密なリサーチと、とんでもない発想力によって描いた『地下鉄道』と同じく最新作『ニッケル・ボーイズ』もまた、彼の手練手管を存分に感じられる作品となっている。本作の舞台となるのは1960年代、まだ黒人に向けた差別が根強く残る時代。主人公のエルウッド・カーティスはマーティン・ルーサー・キング・ジュニア牧師の教えに倣い、堅実にそして志を持って生きる少年だ。しかし、ある日無実の罪によって「ニッケル校」と名のついた少年院に送られてしまう。そこは建前では罪を犯した、もしくは身寄りのない少年たちの更生施設とされていたが、実際には体罰やレイプ、人種 差別などが横行するまさに地獄といえる監獄だった。「ニッケル校」で過ごす過去とそこを出てから社会生活を送る現在を行き来するストーリーテリングによって、だんだんと浮き彫りになる物語の真実や思わぬ結末には誰もが脱帽するだろう。さらに、本作はフィクションでありながら実在した少年院「アーサー・G・ドジエ少年学校」が物語の着想源となっていることで、随所に嫌な生々しさを宿している。今作は未だ解決されていない事件や、約60年前のアメリカを舞台としながら現代にも通ずる差別問題を提起し、 多くの有色人種が抱えた経験をクリティカルに描き出した作品だ。決して一過性のムーブメントではない真実がここにはある。

『ニッケル・ボーイズ』

AUTHOR コルソン・ホワイトヘッド
TRANSLATOR 藤井 光
PUBLISHER 早川書房

COLSON WHITEHEAD

コルソン・ホワイトヘッド 1969年、ニューヨーク州出身。 ハーバード大学を卒業後、『ビレッジボイス』で働き始め、本や音楽のコラムを手がける。2016年に刊行された第6長編にあたる『地下鉄道(』ハヤカワ文庫)は、ピュリツァー賞、全米図書賞、アーサー・C・クラーク賞など7つの文学賞を受賞し、多数の有力紙の年間ベスト・ブックに選出。バリー・ジェンキンス監督による映像化が決定している。

藤井 光

ふじいひかる 1980年、大阪府生まれ。現在は同 志社大学文学部英文学科准教授を務め、現代アメリカ小説の研究と翻訳に取り組んでいる。著書に『ターミナルから荒地へ「アメリカ」なき時代のアメリカ文学(』中央公論新社)、訳書にサルバドール・プラセンシア『紙の民(』白水社)、ダニエル・アラルコ ン『夜、僕らは輪になって歩く(』新潮社)などがある。

 

Edit_MARIN KANDA.

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