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ART
Apr 22, 2021
By KO UEOKA

POWER OF CURATION  キュレーションに特化したアート展

キュレーションで生まれるダイアログ

近年、ファッション・デザイナーやアーティストから「対話(ダイアログ)」という言葉をよく耳にする。それは文化と文化の対話を指すこともあれば、空間に配置したモノとモノとの対話を指す場合もあるが、その本質は、相互作用によって単なる“収まりの良さ”にとどまらない、有機的なナラティブが生まれることにある。アート展のキュレーションにおいて最も重要視されるのも、いかに作品と作品、そして鑑賞者まで巻き込んだ対話空間を生み出せるかであろう。ただカテゴリーでまとめるのではなく、異なる時代背景や要素を丹念に織り交ぜながら、展示という一個の生態系をつくりあげる。そしてその方法は、けっしてひとつではない。それぞれ独自の手法を用いて、キュレーションに焦点を当てた2つの展覧会を紹介する。

マチュウ・コプランによる福岡正信の「四季の食物マンダラ図」スケッチ

Exhibition Cuttings, An Exhibition By Mathieu Copeland

「銀座メゾンエルメス フォーラム」では、ロンドンを拠点にするキュレーター、マチュウ・コプランによる日本初の展覧会「エキシビジョン・カッティングス」が開催される。これまで、展覧会の伝統的な役割や枠組みを揺るがし、新しい展覧会体験や知覚の提案を続けてきたコプラン。本展は「カッティング(Cutting)」という言葉の持つ2つの意味から構想されるという。

ひとつは植物の「挿し木・接ぎ木」を示し、作品が一時的に元の場所から展覧会に移植され、その期間を通じて鑑賞者とともに育まれるつかの間の生態系を暗喩する。もうひとつは、新聞の切り抜きや映画などを彷彿とさせる編集作業の意味で、過去に行われた展示のアーカイブから文字通り「カッティング」して制作を続けるコプランの身振りを示すものだ。

 

《育まれる展覧会》展示風景 | 2021 | フィル・ニブロックによる6つの楽曲、福岡正信自然農園の土・甘夏の苗、木 の台座、 スピーカー、木のプランター、 アクリルケース、水、太陽光
《育まれる展覧会》展示風景 | 2021 | フィル・ニブロックによる6つの楽曲、福岡正信自然農園の土・甘夏の苗、木 の台座、 スピーカー、木のプランター、 アクリルケース、水、太陽光
Curator Portrait ©Chloe Tun Tun

アーティスト西原尚らとともに作り上げる会場の中心には植物が設置され、急進的なミニマル・ミュージックの巨匠の一人であり、持続音を多用する音楽(ドローン・ミュージック)で知られるフィル・ニブロックによる書き下ろし楽曲が流れる。また、フィリップ・デクローザの絵画で始まるもうひとつの空間では、ドキュメンタリー映像作品を通じて、コプランが過去に手がけた「閉鎖された展覧会の回顧展」を再訪できる。

挿し木や切断、編集といったキーワードを用い、ミニマルな美学で展覧会という場のもつ可能性を問いかけるコプラン。植物、音楽、映像といったそれぞれの作品たちが、豊かな生態系を育んでゆく環境はどのように体験されるのだろうか。

「エキシビジョン・カッティングス」マチュウ・コプランによる展覧会

TERM ~7月18日
PLACE 銀座メゾンエルメス フォーラム 8階
ADDRESS 東京都中央区銀座5-4-1
OPENING HOURS 11:00-19:00 
URL hermes.com/jp/ja/story/maison-ginza/forum/210423

MATHIEU COPELAND 

マチュウ・コプラン 1977年生まれ。ロンドンを拠点にするキュレーター。主な企画展に、「The Exhibition of a Dream」(カルースト・グルベキアン財団、2017)、「A Retrospective of Closed Exhibitions」(Fri Art クンストハレ・フリブール、2016)、映画のための映像特集としての展覧会『The Exhibition of a Film』(テートモダン、2015)がある。

小山穂太郎 《Cavern》 2005 photo:早川宏一 東京オペラシティ アートギャラリー蔵

Collection Exhibitions Curated By Ryan Gander All our stories are incomplete… / Colours of the imagination

本来はライアン・ガンダーの個展が予定されていたが、パンデミックの猛威により開催が延期となってしまった。その代案として、ガンダーが「東京オペラシティアートギャラリー」の収蔵品をキュレーションするというスペシャルな企画が実現。そして単なる収蔵品展にとどまらず、コンセプチュアル・アートの新騎手と呼ばれるガンダーらしく、前代未聞のポップな試みに昇華された。

展覧会はギャラリーのある建物3階と4階を分けた2部構成となっており、それぞれ異なるテーマで展開される。「色を想像する」と題された4階は、故寺田小太郎氏のプライベート・アイ・コレクションである当館収蔵品の成り立ちと、収集のテーマのひとつであった「ブラック&ホワイト」に呼応して、黒と白のみの世界で構成。ただモノクロの美学を堪能するだけでなく、そこから「色を想像する」という鑑賞者の能動性を引き出しているのはガンダーらしい。展示方法も工夫され、欧米の美術館でしばしば見られる、個人の邸宅における伝統的な美術品の飾り方にならって、大きな壁面の上下左右にびっしりと作品を並べる「サロン・スタイル」が採用される。

奥山民枝 《シリーズ迣:日尽》 1999 photo:斉藤新 東京オペラシティ アートギャラリー蔵
©Ryan Gander. Courtesy of TARO NASU Swan films / BBC, photo: Sam Anthony

「ストーリーはいつも不完全……」と名付けられたもうひとつの会場には、なんと照明がない。来場者は懐中電灯で自ら作品に光を当てて鑑賞するのだ。作品を見るという行いを再確認しながら、部分から全体を想像する、またとない鑑賞体験が可能となる。「怪我の功名」とでも言うべきか。アーティストによる奇異なキュレーション・アプローチが、収蔵品、そして鑑賞という行為に新たな気付きを与えてくれる。

ライアン・ガンダーが選ぶ収蔵品展 『ストーリーはいつも不完全......』『色を想像する』

TERM ~6月20日
PLACE 東京オペラシティ アートギャラリー
ADDRESS 東京都新宿区西新宿3-20-2
OPENING HOURS 11:00-19:00 
URL operacity.jp/ag

RYAN GANDER

ライアン・ガンダー 1976年、イギリス生まれ。コンセプチュアル・アーティスト。スイスの「クンストハレ・ベルン」での大規模な個展(2019)他、ドクメンタ、ヴェネチア・ビエンナーレなどの国際展での展示で知られる。日本では、 17 年に「国立国際美術館」(大阪)で個展およびガンダーのキュレーションによる同館の収蔵品展が同時開催された。

 

Edit_KO UEOKA.

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