Mar 20, 2026
By THEM MAGAZINE
COMING UP Vol.06_04 『太陽に撃ち抜かれて』by GEOVANI MARTINS
ブラジルの暗部ファヴェーラから生まれた新たな才能
映画『シティ・オブ・ゴッド』の衝撃から約四半世紀、またしてもブラジルの貧困層地帯ファヴェーラから、鋭角的な才能が現れた。ファヴェーラで生まれ育ったジョヴァーニ・マルチンス。彼が記した13の短編は、そこに生きている若者たちの絶望の中の日常をリアルに描いている。常に命のやり取りが背景にある暮らしの中での緊張感。そこから逃れる唯一の術であるドラッグ。精神の崩壊→ハイになることでの解放→警察や組織による圧力、そうした負のループによって毎日が連なっていく。小学校に入学したてのころに見たサッカー選手やパイロットになる夢は、日々の出口のない暮らしの中で虚しく消え去ってしまう。灼熱の太陽に焦がされるような毎日で、誰もがタフでいられるわけじゃない。みんなエスケープするしかない。ビーチでの大麻。銃による犯罪。そんな悪の行為が夜のテレビドラマでも観るように、ありふれた風景として過ぎていく。絶望と不条理。10ページほどのショートストーリーのベースに根を張る狂った現実を、筆者は激しく怒るわけでもなく、悲嘆に暮れるわけでもなく、どこかスケッチするみたいなタッチで綴っていく。だが、目の前では妊婦の少女や信心深い老婆に銃が突きつけられ、金持ちも貧乏人も、役人マフィアもドラッグに呼吸ができないほど浸かりきっているのだ。この短編集のどこかに、微かな希望を見いだすことが、読者(あなた)にはできるだろうか。
太陽に撃ち抜かれて
AUTHOR ジョヴァーニ・マルチンス
TRANSLATOR 福嶋伸洋
PUBLISHER 河出書房新社
ジョヴァーニ・マルチンス
1991年ブラジル・リオデジャネイロ北の郊外バングーで生まれ、南部にあるリオ最大のファヴェーラ、ロシーニャで育つ。サンドイッチマン、飲食店のウェイター、ビーチテントの販売員などとして働く。2018年にデビュー作となる『太陽に撃ち抜かれて』を発表し、ブラジル本国や英語圏で高い評価を得る。2022年長編小説『Via Ápia(アピア通り)』を刊行。
ふくしま・のぶひろ 1978年新潟県生まれ。共立女子大学文芸学部教授。クラリッセ・リスペクトル『星の時』で第8回日本翻訳大賞を受賞。他の訳書に、マリオ・ヂ・アンドラーヂ『マクナイーマ』、クラリッセ・リスペクトル『ソフィアの災難』(共訳)、『水の流れ』など。著書に『魔法使いの国の掟』『リオデジャネイロに降る雪』『ニコの海』など。
Photography_TORU OSHIMA.
Text_TORU UKON(Righters).