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MOVIE
Nov 12, 2021
By THEM MAGAZINE

Go See a Movie : 映画館へ行こう! フレデリック・ワイズマン『ボストン市庁舎』

ボストン、これぞ民主主義

 

町の役所って、どのような仕事をしているのだろうか?

市井を支える縁の下の力持ちだが、日々の生活においてはどこか遠い存在でもある。

「『ボストン市庁舎』を私が監督したのは、人々がともに幸せに暮らしてゆくために、なぜ行政が必要なのかを映画を通して伝えるためでした」。

御歳91歳になるドキュメンタリー映画の巨匠、フレデリック・ワイズマンがスポットライトを当てたのは、カルマン・マキンネル&ノウルズ設計によるモダニズム建築が象徴的な、ボストン市庁舎だった。

トータル274分の長尺をたっぷり使い、ウォルシュ市長(現在は市長を退任)を中心としながら、警察、消防、保健衛生、高齢者支援、出生、結婚、死亡記録など、数百種類ものサービスを提供する市役所の仕事の舞台裏を次々と映し出す。

礼賛であることは間違いないが、あくまで冷静に被写体との距離感は保ち続けるワイズマン。筋道のたったストーリーはなく、感動を煽るために過度にカメラが寄ることもなく、音楽もなければナレーションもない。なのに、なぜここまで示唆に富んでいるのか?

ニュートラルな視座と実直さこそが、何よりもこの市庁舎の活動を輝かせることを彼は知っていたのだ。「ボストン市庁舎はトランプが体現するものの対極にあります」とワイズマンが語るよう、前大統領の非民主主義的主張への反発ともなった本作。アメリカ、そしてボストン特有の政治形態や概要を予習しておけばなお良いが、市政と市井を追うだけでも十分に楽しめる。

 

 

『ボストン市庁舎』

2020年/アメリカ/英語/274分
TERM 11月12日〜
SCREEN Bunkamuraル・シネマ他全国順次ロードショー
URL cityhall-movie.com

FREDERICK WISEMAN

フレデリック・ワイズマン 1930年、ボストン生まれ。イェール大学法学部卒業。67年、初監督であるドキュメンタリー『チチカット・フォーリーズ』以降、さまざまな角度からアメリカを見つめる傑作を次々に発表。本作までにドキュメンタリー監督作は44を数え、世界の最も偉大なドキュメンタリー作家と称される。2014年にヴェネチア国際映画祭で 金獅子賞(特別功労賞)、2016年にはアカデミー賞名誉賞、2021年にカンヌ国際映画祭特別賞キャロス・ドールを受賞。

 

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Text_Ko Ueoka.

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