Mar 25, 2021
By THEM MAGAZINE
Go See a Movie : 映画館へ行こう!『ノマドランド』
また、道の途中で。
前作『ザ・ライダー』があまりにも衝撃的だったゆえに、そのクロエ・ジャオ監督がフランシス・マクドーナンド主演・製作で撮った『ノマドランド』も傑作でないはずがない。作家ジェシカ・ブルーダーによるノンフィクション書籍『ノマド:漂流する高齢労働者たち』を原作に、現代アメリカで生きるノマドーー建物としてのホームを持たず、季節労働をしながらキャンピングカーで暮らす人々を描いた今作。ノマドは完全な世捨て人ではない。日中は働き、SNSもやって、コミュニティもつくる。劇場の言葉を引用すると「ホームレスじゃない。ハウスレス」。自動車が彼女らのホームであり、好き好んでそこで暮らしているというだけなのだ。キャストの多くは役者ではなく本物のノマドたちであり、フランシス・マクドーナンドがノマド役として実際の彼らの生活に身を投じて制作された、半ドキュメンタリーな作品でもある。
中国生まれのクロエ・ジャオは、そんな個人主義的なアメリカらしい現象を新鮮に、そして誠実に捉えた。『ザ・ライダー』に引き続き、今作でもジョシュア・ジェームス・リチャーズの撮影が作品の叙情的な魅力を最大限に引き出している。特に、印象的に挿入される風景のショットでは、アメリカという国のイメージと登場人物の心情を美しく描き出すことに成功した。今作は、アメリカ政治を痛烈に批判するような映画ではない。ノマドに、そして現代アメリカのオルタナティブな人生に、優しい眼差しを向けた作品だ。だからこそこんなにも静かで、こんなにも美しく、こんなにも人間味に溢れている。
2020年/アメリカ/英語/108分
TERM 2021年3月26日〜
SCREEN TOHOシネマズほか全国ロードショー
URL searchlightpictures.jp/movie/nomadland.html
クロエ・ジャオ 1982年、中華人民共和国、北京生まれ。北京と、その後イギリスのブライトンで育つ。アメリカ移住後、マウント・ホール ヨーク・カレッジで政治学を、ニューヨーク大学で映画制作を学ぶ。脚本家、監督、プロデューサーを務めた初の長編映画『Songs My Brothers Taught Me』(15・原題)は、 2015年のサンダンス映画祭でプレミア上映される。17年、長編 2作目『ザ・ライダー』(17)を発表。 待機作に、マーベル・スタジオの『The Eternals』( 21・原題) がある。
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Edit_Ko Ueoka.