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MOVIE
Jun 15, 2020
By THEM MAGAZINE

Go See a Movie : 映画館へ行こう!『その手に触れるまで』

普通の子供が突如イスラム教に熱中し、その急激なヒートアップと未熟さゆえに安易に聖戦(ジハード)に走ってしまう。

 

近年の欧州テロ事件を思い出すと、ありえそうで恐ろしい話だが、ムスリム人口が多く過激派の潜伏も噂されるベルギーが舞台となればなおさらだ。

 

 

6月12日より公開中の、ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ兄弟による『その手に触れるまで』は、ときに温かくときにドライに、適切な距離を保ちながら、イスラム教過激派に感化された少年アメッドの物語を丁寧に描き出していく。

 

怪しげなイマームによるモスク通い、崩壊する家庭、背教者と見立てた先生の抹殺計画……カメラは終始に渡って少年の姿を追い、萌芽した狂信的思考が育まれる過程に胸が痛むが、これは決して断罪のストーリーではないことは強調しておきたい。

監督たちはこう語る。
「脚本を書き終わったとき、若き狂信者アメッドが殺人計画を思い留まるように、さまざまな登場人物たちが不毛な挑戦をする物語を書いたのではないかと思った」。
周囲から差し伸べられるぬくもりを知ったとき、少年の心はどう変化し、成長するのだろうか。

 

 

本作に余分な演出はなく、上映時間は84分とコンパクトに絞られた。
シンプルな構成が作品の静かな力強さを強調し、これぞ過去二回にもわたりパルムドールを受賞した監督の成し得る技といえよう。
胸を打つラストシーンは、アメッドの魂の救済となってほしい。世界の平和は、その小さな救いが連なることで成されるのだ。

 

 

 

 

Edit_Ko Ueoka.

その手に触れるまで

2019年/ベルギー=フランス/フランス語/84 分
ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国上映中
bitters.co.jp/sonoteni

Jean-Pierre & Luc Dardenne

ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ 兄のジャン=ピエールは1951年、弟のリュックは1954年にベルギーで生まれる。78年に初のドキュメンタリー映画『Le chant du Rossignol』を監督。86年、ルネ・カリスキーの戯曲を脚色した初の長編劇映画『ファルシュ』を監督。『ロゼッタ』(99)『ある子供』(05)はカンヌ国際映画祭でパルムドール大賞を受賞。

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