Aug 23, 2025
By THEM MAGAZINE
GO THERE いま行きたいニューショップ -2025 FALL- / +FURNITURE by Rapport antiques
+FURNITURE by Rapport antiques
アンティークを選ぶという意思
新宿に、静けさを思い浮かべる人は少ないかもしれない。だが、早稲田通りの裏手に位置する鶴巻町には、喧騒から離れた穏やかな空気が漂っている。2025年5月、この地にオープンしたのが「プラス ファニチャー バイ ラポール アンティーク」。アンティーク家具と雑貨、アートブックが織りなす空間だ。店内には、ミッドセンチュリーの木製家具や、1950〜60年代のアメリカ製スペースエイジ照明、静かに時を重ねた古書の数々がひっそりと佇む。これらのセレクトには、「空間づくりが好き」という店主・栗山 篤史氏の感覚が通底している。仕入れ先はヨーロッパを中心に、アメリカや日本各地にも及び、信頼関係の中で少量ずつ買い付けられている。集められた品々は、一見雑多でありながら、不思議な調和を見せている。「家具は腐らないし、時間が経つほど味になっていく」。そう語る店主の一言には、アンティークに宿る“生きた時間”への敬意がにじむ。戦後、鉄の解禁によって家具の素材が一変したこと。1950年代、英国G PLAN社によって生まれた、真鍮とブラックのコントラストが印象的なシリーズの魅力。そして、スペースエイジに見られる近未来的フォルムの面白さ——語られる背景には一貫して、時代と美意識への眼差しがある。一方で、現代におけるアンティークの立ち位置は決して楽ではない。「壊れそう」「機能性が心配」といった声も根強く、日本における文化の成熟度は欧州にまだ及ばない。だからこそ、この店では“背景”を丁寧に語ることを大切にしている。そこにこそ、価値を伝える鍵があるのだ。アートブックや古書のセレクトにも、独自の視点が宿る。書店から譲り受けた本や、ジャケ買いから始まった私蔵のコレクションが並ぶ棚は視覚的にも豊かで、撮影や企画のインスピレーション源としても秀逸だ。「読むというより、飾っておきたい本。そういう出合いがあってもいいと思うんです」。この感覚にも、日用品とアートの境界線を曖昧にするという美学が滲む。今後は、アーティストとのコラボレーションによるハンドバッグやポストカード、新品の雑貨類も視野に入れながら、ジャンルを横断するキュレーションを目指すという。異なる時代や価値観が交差し、今日的な感性で編まれていく。「プラス ファニチャー バイ ラポール アンティーク」は、過去と現在を往還しながら、価値を、今にそっと手渡している。
SHOP INFO
ADDRESS_東京都新宿区早稲田鶴巻町109
SHOP HOURS_12:00-18:30(不定休)
INSTAGRAM_@furniture_rapportantiques
PHOTOGRAPHY BY MITSUNORI IKEDA.