Aug 30, 2025
By THEM MAGAZINE
GO THERE いま行きたいニューショップ -2025 FALL- / LAYYER
LAYYER
文脈で選び、思想でつくる服の解釈
畳敷きの部屋に、ハンガーラックが整然と並ぶ。時代の付いた古民家の2階——この一室が、そのまま古着屋として開かれている。奥の間には撮影スペース、本棚には、店主・市川航也氏が影響を受けた雑誌や写真集が並べられている。一見すれば、静かに服と向き合う古着屋の主。だがその実、古着のセレクトから服のデザイン、撮影、出版までをすべて一人で手がける、異彩を放つ存在だ。「デザインとはコードであり、それをどう接続するかが思想だ」と語る彼の仕事には、明確な軸と知性がある。だからこそ、時代やブランド名だけでなく、本質的な“構造”や“パターン”に着目して服を紐解いていく。構造としてのデザインがどう継承され、どこに影響を与えたのか——その系譜を読み解きながら、服を選び、編集する。「80年代の《マリテ・フランソワ・ジルボー》も、《イッセイミヤケ》も。好きで集めていたら、それとデザインが繋がる服が現代にもあることに気付くんです」。「《イッセイミヤケ》のイカコートは、《トゥーグッド》に受け継がれている。身幅と袖丈のバランスなど、親和性が高いんですよね」。シルエットやパターン、ディテール——そうした“構造的特徴”を手がかりに、ブランドや時代を超えたデザインの系譜が浮かび上がる。それはもはやセレクトではなく、ひとつの「考古学」のような営みだ。そんな彼がいま動き出そうとしているのが、自身のブランド《カラダン》である。だがそれは、ゼロからの立ち上げではなく、自身の収集した服のデザインと美意識の延長線上にある、必然的なものだ。「着る人の身体と価値観が変わったとき、服の姿も変わってくれる。そういう“変化を成熟として肯定してくれる服”がつくりたいんです」。パーツを取り外すことでシルエットが大きく変わるジャケットは、2wayというよりも、「美意識の切り替え装置」だ。その思想は、服づくりにとどまらない。スタイリングや撮影、出版に至るまで、一貫したまなざしで貫かれている。自ら撮影・編集し発行しているアーカイヴ誌『LAYYER』では、集めた古着を最も美しく見せる画角と光で捉え、服そのものの声を引き出す。「このプリーツの線の良さって、口で説明しても伝わらない。だから自分で撮って証明するんです」。服の中に込められた構造的な意味、美意識の重層性。それらをどうやっていま“肯定”するか。今後も、その繊細な解釈と再提示を通して、彼の店と服は静かに、だが力強く、思想を発していく。
SHOP INFO
ADDRESS_東京都中野区大和町1-21-9 2F
SHOP HOURS_13:00〜19:00(火・水・金曜は予約制)
INSTAGRAM_@layyersby
PHOTOGRAPHY BY MITSUNORI IKEDA.