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MUSIC
Jun 14, 2022
By TORU UKON (Editor in Chief)

待ってました! T字路sの新譜『COVER JUNGLE 1』

T字路sが好きだ。

 

実は、つい最近好きになったばかりなので、それほど威張って言えるほどではないのだが。

半年ほど前、よく一人で晩飯を食いにいく恵比寿の「67餃子」でダミ声のヴォーカルの歌が流れていた。

「?!」。これは、(憂歌団の)木村充揮か? いや、違う。笠置シヅ子でもない。ジャニス・ジョップリンであるはずがない(日本語の歌詞だ)。

店の方に聞いてみると、「てぃーじろーす」です。

音と字が一致せず、3回聞き返した。店の方はアルファベットと漢字を使って教えてくれた。

「T字路s」。

その店の名物である「鉄鍋餃子(ニンニクあり」とニラ玉をやりながら、ハイボールをおかわりしている間に7〜8曲聴いた。全てカバーだった。

ズン!と来た。

12曲のカバー曲が収録される2015年のアルバム。必聴。

ヴォーカルは伊東妙子。篠田智仁のベース。デュオだ。

 

伊東のヴォーカルが圧倒的な存在感だ。木村、笠置、ジャニスと並べても、遜色ない。俺はそう思う。

 

餃子屋さんで聞いたのは、彼らのアルバム『Tの讃歌』だった。「銀座カンカン娘」で一気にハートを鷲掴みにされ、「トンネルぬけて」「時の過ぎゆくままに」に酔わされ、「ホームにて」で完オチ。

 

こんな歌手がいたことを今まで知らなかったなんて、本当に数年間損をした。

 

それから、取り憑かれたように彼らの曲を聴いた。どんなグループか、少しづつわかったきた。オリジナル曲や 主題歌となった映画も観てみた。

 

これぞ、ブルース。日本人が歌うブルースだ。木村充揮以来のブルースシンガーである。

聖母のダミ声、伊東妙子。なぜかいつもベレー帽。

「カバーは歌い手によって、新しい曲になる」とは敬愛する大瀧詠一の名言だが、伊東妙子の歌もまさにその通り。

 

中には「ただ、ガナっているだけ」とか、「抑揚がない」とかいう声もあるが、俺の耳には心地よい衝撃として鳴り響いた。

 

「泪橋」「これさえあれば」「夜明けの唄」などもいいが、どうしてもカバーばかりを聴いてしまう。一度、ライブで聴いてみたい。

 

もっと、伊東妙子の歌うカバー曲を、と願っていたところ、6月8日に新譜が出た! なんと全曲カバー(セルフカバーもあり)

『COVER JUNGLE 1』というタイトル。ということは、これはシリーズとなり、その後「2」「3」がリリースされることなのだろう。

うん、偉い! プロデューサーというか、レーベルというか、それとも本人たちが自覚しているのか。T字路sの真髄はカバーにある、ということをよーくわかってらっしゃる。ファンの心が通じているアーティストは長生きする(はずである)

 

新譜では、大瀧詠一の「熱き心に」が収められている。嬉しかった。

 

「星影の小径」は、ちあきなおみのカバーが大好きなだけに……。

 

「スローバラード」は永遠の名曲だけに、賛否両論だろう。

 

全体的には、ちょっとハードルを上げすぎたように思う。伊東妙子がカラオケで名曲を歌う、感じがしないでもない。アレンジの問題なのか。もっと伊東の歌にして欲しかった。『T の讃歌』の「トンネル抜けて」のような曲(そこ、来たか〜!と思わせる曲)をもう少し聴きたかった。

いや、俺が期待しすぎたのか。伊東妙子の圧倒的なヴォーカルは、確かにそこにある。それは何物にも変え難い。

 

ちなみに、『COVER JUNGLE 1』のジャケットは、あえて経年して色褪せたような加工が施されている。できればヴァイナルでもリリースしたかったのだろう(今は、ヴァイナルの製造希望が多く、工場が対応できない、という記事を本誌の6月号で紹介した。次号6月24日売りでは、ジャケ買いのためベスト・アルバム・カバーを企画。60枚のアルバムを紹介している。はい、宣伝でした)。

 

 

俺は、T字路sを知って以来、NHK紅白歌合戦の大トリはT字路sしかないと、思っている。MISIAの次は伊東妙子。そしたら、俺は何十年ぶりに大晦日は酒を控えて、終いまで観ます。

 

「2」では「沖縄ベイブルース」(ダウン・タウン・ブギウギ・バンド)とか、「夕陽が泣いている」(ザ・スパイダース)とかのカバーはいかがでしょうか?

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