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FASHION
May 26, 2017
By TORU UKON (Editor in Chief)

疑問・お洒落の流儀 其の二 肩掛けニット

朝晩はちょっと肌寒く、日中は夏のように暑いこの時期になると、街でよく目にするのが、ニットの肩掛け。主に薄手のカーディガンやVネックセーターなどを肩に掛け、袖を胸の前あたりに垂らしたり、縛ったりするあの着こなしだ。90年代にはテレビ局のプロデューサーの典型的スタイルとして、お笑い芸人にネタにされて以来、いつの間にやら「プロデューサー巻き」と呼ばれるようになった。この着こなし、やはりダサいのか?

 

僕がこの着こなしを初めて知ったのは、1975年。IVYの伝道師であるくろすとしゆき氏が著した『トラッド歳時記』だった。

 

この歳時記の中で、くろすさんは「3月 ショッピング」というテーマのスタイリングで、ベージュのコットンスーツにタイドアップして、その上に黒のスエターを肩掛けしている。さらにその記述の中で「スエターはぬいで腕にかけたりするのはヤボ。首に巻くか、腰に巻くものであります」と説いている。

 

これを目にした時は、ショックだった。そんな着こなしがあるのか? しかもスーツの上にセーターを巻くって⁈ 《VETEMENTS》のデカ過ぎるMA−1などをはるかに超える衝撃だったと思う。

 

それ以来、僕もパール編みのカーディガン(《トロイ》だった)を肩に掛けて、得意がっていたものだった。

 

実は、くろすさんは首に巻くか、腰に巻くことを勧めていたのだが、腰にはあまり巻くことはなかった。首に巻くほうが、断然カッコいいと感じていたからだ。

 

そのうち90年代になって、テレビで「プロデューサーか!」とツッこまれるようになってからは、さすがに恥ずかしくなり、ニットを肩に掛けるのやめた。自分があれほどカッコイイと信じていたものが、時代とともにダサくなってしまったことにかなり傷ついたりもした。どうしても暑い時は腰に巻いた。腰なら、まだ許されるような気がしたから。また、デビット・リンチの『ツインピークス』の中で、高校生がスタジャンの下にネルシャツを腰に巻くスタイルを観てからは、腰に巻くほうがカッコイイと信じるようになった。ただ、ニットよりも、ネルシャツのほうが決まるのだけど。

 

その後、ニットを肩に掛ける人は少なくなった。石田純一さんくらいだった。これもネタになり、「プロデューサー巻き」に加え、「石田純一巻き」という異名もできた。

 

ところが、2013年ころ、にわかにニットを掛ける着こなしが男女問わず流行り始めた。特にメンズではローゲージのカーディガンが流行ったことも影響して、ファッション誌でも取り上げられうようになった。

 

「プロデューサー巻き」とバカにする人を、逆にバカにする。ファッションによくある一周回って「今はアリ」のお洒落な着こなしとして復活したかに見えた。

 

それでも、僕はやはり、「プロデューサー巻き」のネガティブなイメージを払拭できず、ニットを肩に掛けることはできなかった。僕の中ではニットを肩に掛けるのは、もう思い出したくない過去だった。

 

今回、この着こなしを50年代、60年代のアメリカの映画スターたちがやっていたかどうか、調べてみた。ほとんどそんな格好をしているスターは見つからなかった。アンソニー・パーキンスが何かの作品でやっていたかも、とすがる思いで探したが、やはりなかった。

 

ただ、気がついたことがある。

 

くろすさんが説いたのは「スエターを首に巻く」だ。

 

断じて「肩に掛ける」ではない。似ているが、着こなしとしては微妙に違う。

 

さて、あなたはニットを首に巻くか? 肩に掛けるか? 腰に巻くか?

 

僕の知人で襷掛けしているお洒落な人がいる。

 

僕? 僕はもう、ニットは脱ぐか着るかしかない。

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