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FASHION
Jun 19, 2023
By THEM MAGAZINE

SAINT LAURENT MEN’S 2024 SUMMER SHOW IN BERLIN

研ぎ澄まされた美学が光る、新時代のエレガンス

 《サンローラン》は612日、ドイツの首都ベルリンで2024年春夏メンズ・コレクションを発表した。会場となったのは、かつてバウハウスの3代目校長も務めた建築家ルートヴィヒ・ミース・ファン・デル・ローエが設計し、1968年にオープンした現代美術館「Neue Nationalgalerie」。四方を囲む巨大なガラスと鋼の屋根が目を引く直線的な建物は、街を代表するランドマークの一つであり、  「Less is more(少ないほうが豊かである)」や

God is in the details(神は細部に宿る)」といった言葉で知られる近代建築の巨匠の美学が感じられる削ぎ落とされたデザインが特徴だ。ショーが行われた1階の広大な展示ホールには、深いグリーンの大理石で覆われた壁のような柱がそびえ立ち、天井から吊るされた真っ黒なカーテンの滑らかさとの対比を描く。そして、彼がデザインしたバルセロナチェアのオットマンが、客席として整然と並べられた。そんな今なお「モダニズム建築の傑作」として愛される象徴的な空間を舞台に、クリエイティブ・ディレクターのアンソニー・ヴァカレロは、メゾンの本質的なテーマを現代生活にふさわしいアティチュードと気楽さで再構築した。

 

 

 ドイツ人映画監督ライナー・ヴェルナー・ファスビンダーの作品『Querelle』(1982)に登場するフレーズにちなんで

Each Man Kills the Thing He Loves (人は愛するものを殺す)」と題されたコレクションの鍵は、「マスキュリン」と「フェミニン」というイメージを構成する要素の自由なインタラクション(相互作用)。かつて創業者イヴ・サンローランが女性のワードローブにメンズウエアの要素を取り入れたように、ヴァカレロもジェンダーの固定観念にとらわれないクリエイションに取り組んでおり、特にここ数シーズンのメンズはウィメンズ・コレクションとの共通性が強まっている。今季のキーアイテムとなった肩が広く誇張されたテーラードジャケットや極端に襟ぐりの深いサテンのタンクトップは、半年前のウィメンズを彷彿とさせるデザイン。そこにハイウェストのスリムなトラウザーやタキシードシャツ、先の尖ったパテントのヒールブーツを合わせ、《サンローラン》らしいシャープなシルエットを描いている。

 

 そのストイックなスタイルに軽やかさや柔らかさをもたらすのは、シアーなシフォンやモスリンなどのクチュールライクな素材で仕立てたトップスやブラウスだ。デザインは、ドレープを生かしたワンショルダーやホルターネックのデザインから、ボウタイやスカーフのような長い布を後ろに流したものまで。それらは、ウィメンズウェアを通じる艶っぽさを醸し出す。また、ポルカドットやレオパードといったメゾンの象徴的な柄の再解釈もあれば、ラグジュアリーに昇華したシンプルなTシャツやドローストリングパンツといったカジュアルアイテムもある。ヴァカレロは近年のコレクションで提案してきたアイデアにさらに磨きをかけ、フォーマルなテーラリングの軸にしながらもシルエットや剛柔の絶妙なバランスで、今を生きる男性に向けた新時代のエレガンスを示した。

 

  《サンローラン》のメンズは、これまでもファッション・ウィークから離れ、ロサンゼルスのマリブビーチやマラケシュ郊外の砂漠など、壮大な自然を生かしたロケーションでショーを開いてきた。それだけでなく、同メゾンはアートや建築とのつながりも深い。20217月には、ベネチア・ビエンナーレに合わせ、ヴァカレロがアメリカ人アーティストのダグ・エイケンに制作を依頼した建築物のようなインスタレーション作品『Green Lens』をランウェイにコレクションを発表。久しぶりにパリ・メンズ・ファッション・ウィークに参加した今年1月も、元証券取引所で建築家の安藤忠雄が内部の改修を手掛けたフランソワ・ピノーの私設現代美術館「Bourse de Commerce」でショーを開催した。その際に「アートと《サンローラン》は創業当初から密接な関係にある。だから、この空間は親密かつ削ぎ落とされたプレゼンテーションにとっての自然な環境だ」と語っており、今回の会場もその考えに通じる選択と言えるだろう。事実、ミース・ファン・デル・ローエが生み出した厳格でミニマルな空間は、ヴァカレロの研ぎ澄まされた美学と世界観を表現するのにふさわしい舞台となった。日が長い夏のベルリンの夕暮れを強調するオレンジがかった光を浴びながら歩くモデルの姿はただただ美しく、ドラマチック。世界を巡る《サンローラン》のメンズは、また一つ記憶に残るショーを作り上げた。

SAINT LAURENT

 

PHOTOGRAPHY_Courtesy of Saint Laurent

TEXT_JUN YABUNO

 

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