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FASHION
Mar 20, 2023
By THEM MAGAZINE

Them Vintage Club Vol.1 ARNYS

今はなきパリ左岸を代表するメゾン《アルニス》

 

 

 

 

「フォレスティエール」のタグ。後期「フォレスティエール」には、アイテムのモデル名、誕生年が記されている。

《アルニス(ARNYS)》はかつて、「右岸の《エルメス(HERMÈS)、左岸の《アルニス》」と呼ばれ、パリ左岸を代表するメゾンであった。ソルボンヌ大学があるカルチェ・ラタンな左岸は権力の中枢であり、保守的な気風を有する右岸に比べて前衛的かつ文化的な雰囲気を持っている。

ロシアからフランスに亡命したウクライナ系ユダヤ人のジャンケル・グランベールがパリ左岸セーヴル通り14番地に店を構えたのが1933年。メゾンの1階ではプレタポルテ、2階ではビスポークのシャツやスーツを扱い、カシミヤやシルクなどの素材を贅沢に使い、個性的なカラーリングやデザインで左岸のエレガンスを体現していた。モンパルナスに近いことから、顧客にはヘミングウェイ、コクトー、ピカソ、サルトルなどの多くの文化人を抱えていた。しかしながら、2012年にLVMHグループの傘下になり、商標権を《ベルルッティ(BERLUTI)》に売却。現在ではブランドとしての実態はなくなってしまった。決して大衆的とは言えないメゾンだった《アルニス》。よって、今日のヴィンテージ市場でも、アイテムが出回ることは滅多にない。当然プレミアがつき、欧州を舞台に活動する古着バイヤーたちの垂涎のターゲットとなっている。ユーロヴィンテージ人気が過熱する今日にあって、最も注目されるメゾンである《アルニス》の神髄を語っていこう。

2000sフォレスティエール コーデュロイ ジャケット。キャメル×ボルドーの配色は当時、メゾンのカタログにも掲載されていた。(國立外套店)

《アルニス》のアイコンともいえる「フォレスティエール(森の番人)」ジャケット。1947年に、当時ソルボンヌ大学で教鞭を執っていた建築家のル・コルビジェが、《アルニス》2代目のレオン・グランベールに、黒板に文字を書く際に腕の動きを妨げない上着をオーダーした。父、ジャンケル・グランベールがデザインしたゆったりしたアームホールの袖「ピヴォ」と、猟区監視人が着る作業着をもとに「フォレスティエール」は作られた。スタンドカラー、なで肩でゆったりとした肩周り、胸の変形スクエアなパッチポケット、表地と同素材のエルボーパッチがオリジナルの「フォレスティエール」の特徴である。その他、細かく彫られた飾りボタンなどのディテールにも《アルニス》らしい繊細さとこだわりを感じる。ボディはコットン、リネンからウール、カシミヤ、さらにレザーまでが用いられており、ライニングも表地に合わせてさまざまな素材が採用される。

フォレスティエール カウレザー ジャケット。(coussinet)

コットンコーデュロイから始まった「フォレスティエール」は、のちに上質なウール、カシミヤなどの高級素材へと発展していく。1950年代にはスラックスとともにスーツとして販売され、ラグジュアリーで個性的なカジュアルウエアとして親しまれた。ビスポークで作られていたこともあり、さまざまな素材や色のものが存在する。こちらは、なかなか目にする機会がないレザーの「フォレスティエール」。しっとりと柔らかいカウレザーに、マスタードとレッドオレンジのライニング。

《アルニス》 ラムスキン ジャケット。サイズ52。(coussinet)

レザーといえば《エルメス》の印象が強いが、《アルニス》のレザーアイテムもかなり高品質であることはまちがいない。
モーパッサンの小説に由来するかは不明だが、「BEL AMI(美しい友人)」というモデル名のジャケット。ダークブラウンレザーは、生後1年未満の子羊を使用し、極上の柔らかさを誇る。ボタンホールのない1つボタンのカフスからは遊び心を感じる。折り返すとマスタードのキルティングとは異なる、上品なオリーブのライニングが現れる。細工が施されたボタンはもちろん、ボタンホール一つとっても繊細な仕事が伺える。前身頃の5つ目のボタンホールは外すことを想定し、上の4つとは仕様が異なる。

《アルニス》 100% カシミヤジャケット。サイズ50。(國立外套店)

《アルニス》はプレタポルテにおいて、シャツは《ルイジ・ボレッリ(LUIGI BORRELLI)》、ジャケットは《イザイア(ISAIA)》など、アイテムごとに工場を使いわけ高いクオリティを保っていた。こちらのテーラードジャケットもイタリア製で、おそらく《イザイア》が請け負ったもの。カシミヤ100%で軽くて柔らかい。裏地は背抜き仕様。衿はフレンチテーラリングを象徴する“フィッシュマウス”(上衿と下衿の継ぎ目が魚の口の形状を思わせることから命名)に3つボタン。袖は本切羽。ネイビーにボルドーのボタンが映える。

2004~2005年頃の《アルニス》×《ロロ・ピアーナ》100% カシミヤ チェスターフィールドコート。(國立外套店)

こちらは、《ロロ・ピアーナ》の100% カシミヤを用いた《アルニス》のイタリア製チェスターフィールドコート。上質な素材をふんだんに使った一着は、着ていることも忘れるような極上の着心地。《アルニス》のダブルネームのアイテムはそれだけでも貴重である。

 

 

Photography_TORU OSHIMA.

 

國立外套店

出色の審美眼によるセレクトで話題を集める“夢と陶酔の洋服商”。
実店舗を持たず、オンラインやイベントにて、ヴィンテージアイテムを販売。

 

coussinet

オンラインにて、色味、素材、形、歴史にこだわった選りすぐりのユーロヴィンテージを販売。都内近郊に限り試着も可能。

 

 

 

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