Them magazine

SHARE
FASHION
Apr 20, 2023
By THEM MAGAZINE

Them Vintage Club Vol.2 YVES SAINT LAURENT RIVE GAUCHE “HOMME”

《サンローラン リヴゴーシュ》“オム”の存在価値

 

 

1969年に《サンローラン リヴゴーシュ》“オム”のブティックがオープンした。初期〜中期ごろのアイテムのタグには“YVES”が付かず“SAINT LAURENT rive gauche”の文字にピンクとレッドのスクエアが入る。(SURR)

1958年、わずか21才でフランスの名門《クリスチャン・ディオール》の主任デザイナーになったイヴ・サンローラン。61年には独立し、自らのシグニチャーブランドをスタート。そして66年、パリ左岸を意味する“リヴゴーシュ”を名前にした、クチュリエとして初のプレタポルテのブティック《サンローラン リヴゴーシュ》をオープンした。モードといえばオートクチュールという時代にあって、プレタポルテは若者へ積極的にアピールし、ファッションはサブカルチャーの中心へと躍り出た。当時のメンズファッションはロンドンが中心だったが、サンローランは1965年、“リヴゴーシュ”の店内でわずかながらメンズウエアの展開を始める。日本でもほんのひと握りの人にしか知られていなかったため、今日のヴィンテージ市場に流通することは稀。しかし確かに“オム”は存在し、今日へと続くメンズモードの始まりを告げていた。それを証明する逸品をここに紹介し、神秘に包まれた《サンローラン リヴゴーシュ》“オム”の魅力に迫りたい。

 

1970s《サンローラン リヴゴーシュ》コットン×リネン スタンドカラーシャツ。サイズ3。生地の質感から、おそらくまだ水に通していない状態だと考えられる超希少な一着。(SURR)

北アフリカのモロッコに隣接するアルジェリアで幼少期を過ごしたイヴ・サンローランが初めてモロッコのマラケシュを訪れたのが1966年。以来、パリの喧騒から離れ、休息を求めて度々この地を訪れていた。マラケシュの豊かな自然、文化、街を行き交う人々は彼に多くのインスピレーションとエネルギーを与えた。
程よくゆとりのあるシルエットのコットン×リネンシャツは、ホワイトパンツにシャツを合わせてマラケシュの地に佇むリゾートスタイルのイヴ・サンローランの姿を連想させる。“メイド・イン・イタリー”の表記には、イタリアのシャツ職人の高い技術力によって《サンローラン リヴゴーシュ》のハイクオリティが実現していたと想像がつく。ヨークの細かなギャザーからも質の高さは一目瞭然。

 

1970s 《サンローラン リヴゴーシュ》サファリジャケット (國立外套店)

“サファリ”とはアフリカでの狩猟や探検のための旅行を意味する。1920年代にイギリス王室がアフリカに狩猟旅行に行ったことで、西洋の貴族たちの間でもアフリカへの狩猟旅行が流行した。そして、彼らが狩猟旅行のために誂えた機能性に優れたスポーツウエアを“サファリルック”と呼ぶようになった。北アフリカのモロッコで幼少期を過ごしたイヴ・サンローランにとって、こうした貴族の嗜みに親しみや憧れがあったことは容易に想像できる。
1967年の《イヴ・サンローラン》のランウェイショー、翌1968年の『VOGUE』に掲載された《イヴ・サンローラン》のフォトエッセイによって人々は、“モードとしてのサファリジャケット”に注目するようになった。1969年に《サンローラン リヴゴーシュ》のブティックで販売が始まると、たちまちサファリルックの人気に火がついた。かつての貴族階級の男性のためのラグジュアリーなスポーツウエアは、彼の手によって男性はもちろん、女性をも魅了するシックなウエアへと変化を遂げたのだ。それは、今日に至るまで、解放感あふれる《イヴ・サンローラン》のスタイルを体現する伝説のアイテムとして語り継がれている。
シャツカラー、エポレット、シャツカフスの仕様など、《サンローラン リヴゴーシュ》“オム”のサファリジャケットには、そうしたトラディショナルなディテールを残しつつも、日常でのシックな装いを体現すべくモダンでシンプルなデザインに昇華されている。

 

1970s《サンローラン リヴゴーシュ》サファリジャケット。上記の個体にはタグがないことから正確なサイズこそ分かりかねるが、グッドサイズ、グッドコンディションであることは間違いない。 (SURR)

ベージュのサファリジャケットに身を包みブティックの前でポーズを決めるイヴ・サンローランの写真を見たことがある人も多いだろう。彼の名前を聞くと、真っ先にその姿を想像する人もいるはずだ。そんな彼のイメージにリンクする《サンローラン リヴゴーシュ》“オム”のサファリジャケット。前身頃のあわせをボタンからジッパーへ変更し、エポレット、ポケットのフラップなどを排することで、より洗練された印象に仕上がっている。《イヴ・サンローラン》のスタイルを体現するアイコンとして、また、女性のファッションを解放したその象徴として《サンローラン リヴゴーシュ》のサファリジャケットが、ファッション史において持つ価値は計り知れない。

 

1980s《サンローラン リヴゴーシュ》 チャイナジャケット(國立外套店)

イヴ・サンローランのデザインへのあくなき探求心の向かう先は、西洋だけにとどまらずアフリカや東洋など様々な国の文化や人々へと向けられていた。そのひとつが、中国の伝承に想像力を掻き立てられて1977年に発表した“シノワーズ コレクション”である。これまでの西欧のファッションにはないエキゾチックなスタイルに人々は魅せられた。
マオカラー、レザーと樹脂からなるチャイナボタンなどオリエンタルな要素と上品なオリーブの太畝コーデュロイがマッチしたチャイナジャケットも、おそらくこの“シノワーズ コレクション”と同時期に作られたアイテムだと考えられる。

1970s 《サンローラン リヴゴーシュ》ラムレザー トレンチコート。しなやかで色気のあるラムレザーの表地に、ジッパーで取り外し可能なライナーが付く。リアルムートンのライナーは重厚で温かく、単体としても比類なき存在感を放つ。(國立外套店) 

サファリジャケットのほかに《イヴ・サンローラン》のスタイルを語る上で欠かすことのできないアイテムといえば“トレンチコート”ではないだろうか。それまで男性のワードローブだったトレンチコートを女性にとっても必要不可欠なアイテムにしたのは他ならぬ、“モードの帝王”イヴ・サンローランである。そのため、現在でもメゾンにとって、トレンチコートは特別な価値を持つアイテムとして受け継がれている。プレタポルテの最初期、しかも“オム”のトレンチコートともなれば、メゾンのみならず、モード史においても貴重なアイテムであることは疑いようがない。

 

 

Photography_TORU OSHIMA.

 

 

國立外套店
出色の審美眼によるセレクトで話題を集める“夢と陶酔の洋服商”。
実店舗を持たず、オンラインやイベントにて、ヴィンテージアイテムを販売。

 

 

SURR
Them magazine No.044 『EURO VINTAGE』の「The Precious Shops」にもご登場いただいたアンティークとデザイナーズアーカイブスが融合するショップ。
住所:東京都港区北青山3-15-13-202
営業時間:12:00~19:30(年末年始を除いて、無休)
TEL.03-5468-5966

SHARE