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FASHION
May 17, 2023
By THEM MAGAZINE

Them Vintage Club Vol.3 BELLE JARDINIERE

今はなきパリの名百貨店《ベル ジャルディニエール》の軌跡

 

1813年頃、ピエール・パリソーは現在のバスティーユ広場近くのフォーブール・サン・タントワーヌ街の小間物屋で生地の販売をしていた。そして1824年、彼はノートルダム寺院の近くに店舗を獲得し、《ベル ジャルディニエール(BELLE JARDINIERE)》を創業。ラファエロの名画『ラ・ベル・ジャルディニエール(美しき女庭師)』から命名されたこの店では、生地の販売とともに既製服の販売も開始した。
ときは注文服が主流の時代。既製服は人々にとって “より安価で、お手軽な服”にすぎなかった。高い技術を売りにする仕立て屋からしても既製服ビジネスは技術の乏しい職人が始めるものとして軽視する傾向にあった。そんな中《ベル ジャルディニエール》は自社で既製服の生産から販売までを手掛ける画期的な事業を展開し、低価格で高品質でより大量生産できる服を提供しはじめた。産業革命以降のヨーロッパで多くの市民が《ベル ジャルディニエール》の既製服を買い求める必然があった。
1866年にはポン=ヌフ近く、パリ左岸における最高の立地に世界で初めて職人のアトリエと宿泊施設が併設された百貨店「ベル ジャルディニエール」をオープン。その後も支店や既製服工場を増設し、上品な紳士服、質の高いワークウエアなどを販売し確かな人気を獲得した。1851年に開店した世界初の百貨店「ル・ボン・マルシェ」、1855年開店の「ルーブル百貨店」、そして1865年開店の「プランタン」とともに《ベル ジャルディニエール》は大規模店舗のシンボルとして長くパリに君臨し、人々にファッションの楽しみを提供したのである。
1972年に惜しまれながらも閉店し100年以上続いた歴史に幕を閉じた。《ベル ジャルディニエール》が生んだ上品で質の高いアイテムは、今日のヴィンテージ市場においても特別な存在感を放っている。今回は老舗百貨店の作った至高のアイテムを紹介しよう。

late 1800s 《ベル ジャルディニエール》 フロックコート ¥99,000 6個の包みボタンがつくダブルブレストのフロックコート。ラペルの一部には拝絹が飾られ、構築的な肩には曲線を描く立体的なアームがつく。後身頃にはセンターベントが入りウエストの切り替え部分から裾にかけて美しい広がりを見せる。 大量に良質な生地を仕入れることで実現した低価格。そこに職人の確かな技術が合わさることで《ベル ジャルディニエール》の紳士服の地位は確固たるものになった。(SURR)

18世紀末から20世紀にかけてヨーロッパの男性の外出着として広く普及したフロックコート。前身頃、後身頃ともにウエスト部分に切り替えがあり、丈は膝まで及ぶのが特徴である。次第に馬に跨りやすいように前裾を省略したモーニングやテールコートなどの“カッタウェイ”が日常着として取って代わり、フロックコートは昼間の礼服として着用されるようになった。
20世紀以降はモーニングが昼間の礼服、テールコートが夜間の礼服として定着し、現在ではフロックコートが着用されることは滅多になくなった。

1910s 《ベル ジャルディニエール》コットン フロックコート ¥136,990 ピンストライプのコットンを使用したフロックコートはシングルブレストで共布を用いた4つの包みボタンがつく。小さなラペル、やや右上がりに付く胸ポケット、前振りの効いた立体的な袖の作り、フロントカットされた裾が特徴的。(MINDBENDERS & CLASSICS)

1900年頃になると特権階級だけでなく市民の中にも富裕層が広がり、服飾文化に大きな影響を及ぼすようになる。彼らの中には格式張った装いを嫌い、より自由な服装を求めた。ダブルブレストではなくシングルブレストのフロックコートも昼間の礼服として彼らの中には普及していた。ブラックやグレーのウール素材だけではなく、より手軽で夏には涼し気な柄ものの薄手のウールやコットンを使ったカジュアルな印象のフロックコートもこの時代には見られる。

〜1920s 《ベル ジャルディニエール》 リネン ジャケット ¥89,800 ラウンドする袖、胸に斜めに取り付けられた丸みを帯びたスクエアのパッチポケットなどユーロヴィンテージ特有の躰の線に沿った構築的な作りをしているチョアジャケット。弾力のあるリネン生地は軽やかで肌触りも優しい。(VIEUXE ET NOUVEAU)

ヨーロッパのワークウエアの素材として主流であるリネン。安価だが耐久性に優れていることがその要因だった。リネンの原料となる亜麻はヨーロッパやロシアなどの寒冷地で育つ。豊かな緑と水を有するフランス北部は古くから亜麻の栽培が盛んでフレンチリネンの名産だった。

フレンチリネンは独特の柔らかさとハリを併せ持ち上品な光沢があるのが特徴でリネンの中でも最高品質で最高級と言われる。ヴィンテージにおけるフレンチリネンは現代の技術を持っても再現することが難しいと言われ、独特の着心地はヴィンテージ市場においても人気が高い。

1920~1930s《ベル ジャルディニエール》ダブルブレスト ウールコート ¥93,500 “お台場仕立て”の丁寧な作り、重厚感のある肉厚なウール素材からも《ベル ジャルディニエール》の既製服の質の高さが窺える。(encore)

現在ほどジャケットやコートの裏地の耐久性が優れていなかった時代には表地よりも裏地の劣化が早かった。そのため、長く着用するためには定期的な裏地の張り替え補修が必要だった。その際に、内ポケットまで作り直さなくて良いように見返しを脇下までつなげ、内ポケットのまわりを表地で囲む“お台場仕立て”が仕立て屋によって編み出された。表地をたくさん使用する分、職人の手間と技術も要するディテールである。お台場仕立てをすることで裏地の補修が容易になるだけでなく、型が崩れにくくなり耐久性が高くなるメリットもある。
合成繊維の開発が進み裏地の耐久性に優れる現在、既製服の裏地を張り替えて着ることは皆無と言って良い。よって現在の既製服ないしビスポークにおいて“お台場仕立て”はかつての職人技の名残であり有機的な意味合いよりも装飾的なデザインとして、ひと手間かかった高級仕立ての服という印象になる。

1940s《ベル ジャルディニエール》テーラードジャケット ¥54,780 ラペルに隠れるディテールだが、襟ぐりからバストポイントに向けて“アゴグセ”と呼ばれるダーツを入れることで胸の膨らみに沿った綺麗なシルエットを生み出すことができる。 写真にあるジャケットには“アゴグセ”が入り、さらに右上がりにつく“ポッシュバトオ(ボート型のポケット)”によって胸の厚みを美しく見せる工夫がなされている。 (STRAY SHEEP)

第一次世界大戦さらには第二次世界大戦を経て人々の生活様式は大きく変化した。それに伴い服装も機能性の向上と構造の美しさを追求するようになった。交通機関は馬や馬車から、自動車、電車が主流となる。当然、動きやすさ、乗り心地などから上着の丈はどんどん短くなっていく。
かつてヨーロッパの男性の間で広く着用されたフロックコートやモーニングも次第に簡略化され、正式な儀式における礼服として着用される以外、民間の日常着としては丈の短いジャケットが男性のスタンダードな服装として定着した。

 

 

Photography_TORU OSHIMA.

 

 

 

SURR

Them magazine No.044 『EURO VINTAGE』の「The Precious Shops」にもご登場いただいたアンティークとデザイナーズアーカイブスが融合するショップ。
住所:東京都港区北青山3-15-13-202
営業時間:12:00~19:30(年末年始を除いて、無休)
TEL.03-5468-5966

Instagram:@surr_by_laila

 

 

MINDBENDERS & CLASSICS

Them magazine No.037『MODE or VINTAGE』の「VINATAGE TALKS THEIR STYLES」にもご登場いただいた京橋にあるフレンチヴィンテージに特化したショップ。
住所:東京都中央区京橋 2-6-8 仲通りビル6F
営業時間:14:00~17:00(火・水定休)
TEL.03-3564-1270

 

 

VIEUX ET NOUVEAU

実店舗を持たないオンラインショップ。ヨーロッパヴィンテージをはじめデザイナーズアーカイブスまで、ジャンルレスで現代に合う良質なヴィンテージアイテムを多数展開。定期的にポップアップなども開催する。

Instagram:@vieuxetnouvea

 

 

encore

Them magazine No.044 『EURO VINTAGE』の「Remember 8 Shops」にもご登場いただいた高円寺にあるユーロヴィンテージ・ショップ。
住所:東京都杉並区高円寺南 3-56-1 110
営業時間:14:00~20:00(無休)

Instagram:@encore_boutique

 

 

STRAY SHEEP

Them magazine No.044 『EURO VINTAGE』の「Remember 8 Shops」にもご登場いただいたユーロヴィンテージ・ショップ。有楽町店と川崎店の2店舗で展開。
有楽町店住所:東京都千代田区有楽町2-5-1 阪急メンズ東京 7F
営業時間:12:00~20:00(平日)11:00~20:00(土日)不定休
TEL.03-6252-5434
川崎店住所:神奈川県川崎市川崎区小川町 4-1 マッジョーレ棟 A201号
営業時間:11:00〜20:00(木曜定休)

Instagram:@straysheep_online

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