May 02, 2025
By THEM MAGAZINE
To be honest Vol.1_Mindbenders&Classics

フレンチヴィンテージの雄に訊いた“マスターピース”とは?
「To be honest」
東京を代表する古着屋の名店に「今一番売りたいもの、売りたくないもの」を訊ねる連載企画。第一弾は「Mindbenders&Classics」。東京の地下鉄京橋駅から徒歩数分に位置するビルの5階まで手動式エレベーターを上がり、さらにその上のペントハウス部分まで登る。そこには半世紀以上前に異国の地で作られ、使用されていた物語のある服が数多く立ち並ぶ。20世紀初頭のアイテムを中心に、フランスの生活着や仕事着をセレクト。「大量生産以前の服は、古いものになるほど、手間がかかっていることが当たり前なんです。テーラリングの要素が色濃く出て、立体的なカッティングで仕上げられているものが多いです」と語るオーナーの横見浩士氏に「Mindbenders&Classics」のマスターピースを聞いてみた。
「売りたいもの」
「今売りたいもの」として一つ目に挙げてもらったのが、1900年代初頭に幅広く着られていたナイトシャツ。当時のフランスでは、夜は綺麗なまま着て、汚れてきたら作業着にすることが多かったという。フラックス素材で、家庭用の織り機で織られることが一般的だった。フランスの気候的にコットンよりもリネンが育ちやすい土壌だったため、フランスの古いナイトシャツは基本的にフラックス素材のものが多い。夏に素肌にボタンを外して着ると風が入って気持ちいい。パンツにインしてもさまになる。肌触りが柔らかく、薄めの生地感のナイトシャツが横見氏にとって理想と言えるものだという。ここにピックアップしてもらったシャツは小ぶりな襟やフロント部分の装飾が美しい。ナイトシャツは買い付けでもまだ見つかることが多く、比較的手頃な価格でクラシカルな味わいが楽しめるという。
2点目はジョッパーズパンツ。狩猟の時や、乗馬用など基本的に野外活動時に活動しやすいように作られたワークアイテム。 腿回りにはゆとりがあり、膝から裾が細いシルエットが特徴的。サスペンダーで吊って履くタイプのもので、ベルトループがなく、腰回りにはメタルボタンが付属する。裾のディテールはブーツに裾口を入れやすくするためのもので、これはボタン留めだが、レースアップのものや、年代が浅くなるとファスナーのものも存在する。こちらの素材には薄手のコットンが使用されていて、シルエットはクラシカルだが、どことなくモードな雰囲気が漂う。動きやすく、裾を擦る心配がないことから、横見氏も買い付けの滞在中はジョッパーズパンツを履いていることが多いとのこと。ヴィンテージの中でもまだ出てきやすく、「Mindbenders&Classics」では定番の一本。
「売りたくないもの」
ペンキ汚れが模様となり、手縫いの修繕が刺繍のように見える服。1930sのリネン・コットン素材のオールインワンは、「Mindbenders&Classics」らしいアート的な襤褸(ボロ)だと言える。フロントのボタンは、圧縮された紙にラッカー染料でペイントしたヴィンテージのディテール。インディゴを用いて染められ、とても綺麗な色落ち具合である。「フランスのワークウェアは、シンプルで無駄がなく美しさがある」と横見氏は語る。ペンキが付く位置も、手を下ろした時に太腿の部分でペンキを拭くため、リアルワーカーが着ていた物だと推測できる。同じものは二度と見つからず、奇跡的と言えるバランスに仕上がったつなぎを、「売りたくない」アイテムの一つ目に挙げてもらった。
古いコットン・ツイルのセットアップでダブルブレストのワークジャケット。修繕に修繕を重ねることで出来上がったセットアップからは、実際に当時の人が大切に着ていたことが想像できる。非常に優れた美的感覚によってパッチワークが施されている。この辺りのフランス人のリペアの感覚も、横見氏がフランス古着に魅了される理由の一つだそうだ。40年代以前のワークジャケットは鎌底が上がっており、アームホールが小さく、シルエットが綺麗なAラインになる。また、肩線が後ろに振られることが多い。古いフランスのワークウェアは前身頃が背中の両サイドまでまわったパターンのため、前から見ると縫い目が見えない。横見氏はフレンチワークウェアが持つ、体に沿うシルエットの美しさに魅了されたという。
シックなトーンで柄が配された、1920年代に作られたハンティングジャケット。珍しい素材と配色だが、さらに気になるのは、袖が外されアームホールが縫われており、かつフロントのポケットが全て取られていること。「恐らく想像ですけど、両腕がない人が着ていたのではないでしょうか」と横見氏は教えてくれた。前所有者や時代のことを想像することができ、際立って物語が感じられる一着だ。横見氏は一際異彩を放つハンティングのジャケットを、その唯一性から「売りたくないもの」として挙げてもらった。
「Mindbenders&Classics」
Adress:東京都中央区京橋2-6-8 仲通りビル6F
Business Hours:14:00~17:00(土曜日のみ~18:00)
Regular Holidays:火曜・水曜・買付時不定休
Instgram:@mindbendersandclassics