Jan 31, 2018
By THEM MAGAZINE
【インタビュー】セントマーチンズ教員 HYWEL DAVIES (アーカイブ)
【インタビュー】セントマーチンズ教員 HYWEL DAVIES (アーカイブ)
(2017/08/24発売のThem magazine No. 015 「BRIT youth」に掲載されたアーティクルです。)
世界最高峰のファッション教育とは
数多の有名デザイナーを排出し、Buisiness of Fashionの「Global Fashion School Ranking 2017」でもぶっち切りでトップにランクインする、セントラル・セントマーチンズ (以下CSM)。そこでは、いったいどのような教育が繰り広げられているのだろうか。同学OBであり、教師を勤めるハイウェル・デイヴィス氏に訊く、CSMの秘密。
——お名前と経歴、CSMでどのような職務についているかを教えてください。
ハイウェル・デイヴィスです。プログラム・ディレクターをしていて、BAとMAそれぞれのファッション学科、ファッション・コミュニケーション学科のすべてのコースを統括しています。私自身もCSMのファッション・コミュニケーション学科で学び、ジャーナリストとして10年間雑誌などで執筆していました。その後教員として戻ってきて、今年で10年目になります。
——なぜ教員として戻ってきたのでしょうか?
学校を離れてファッション業界で働いていたとき、恩師が教員として戻ってこないかと誘ってくれたのです。当時はまだ出版社に勤めていましたが、プロジェクト単位で週に半日ほどのペースで講義を始めたのがきっかけです。CSMはこうして卒業後に生徒が講師として戻ってくることがよくあるんです。ここで教えている講師のほとんどはCSMの卒業生です。これは私たちの基準や文化、哲学を受け継いでいく上でとてもよいことなんです。
——実際のカリキュラムについて教えてください。
基本的にはどのコースも、プロジェクトベースで授業が進んでいきます。それがファッションデザイン、ファッション・コミュニケーション、ファッション・ヒストリーでもすべて同じです。デザイン学科だとシャツ作りかもしれないし、コミュニケーション学科だと文章の書き方やファッションシューティング、といったようにいずれもプロジェクトに沿って組み立てられています。というのも、こうしたプロジェクトは生徒が卒業した後実際に仕事としてやっていくことだからです。彼らにはおよそ1カ月のスパンでひとつのプロジェクトに取り組んでもらい、それを繰り返していきます。
——年度によってカリキュラムを変更することもあるのでしょうか?
はい。ですが生徒たちが必ず理解しなければならないような基礎的なプロジェクトを変えることはありません。例えばデザインコースなら、シャツやジャケット作りなど。もちろんコースによってそれぞれ異なりますが、今世界で起こっていることによって授業の内容を見直しています。今ではサスティナブルにフォーカスしたプロジェクトを設定することが多いですね。ファッション・コミュニケーションではフィルムやeコマース、ソーシャルメディアに重点を置いています。ファッションの基礎は押さえながらも、現代では何が求められているのかを授業に反映しなければいけません。
——CSMのポリシーや哲学はどのようなものなのでしょうか?
個々を尊重し、サポートすることです。また新しいアイデアと才能を称賛し、歓迎することです。そして大切なのは、常に優秀であることを期待することです。私たちの仕事は協力的な方法で、生徒が最もクリエイティブで実験的でいられるように彼らの背中を押してあげることです。私たちの哲学は彼らのアイデアを発展させること。常識にとらわれて考えてはいけない、常にチャレンジをしていくということを伝えなければなりません。生徒たちにこうしなければいけないといったことは決して言いません。
——CSMにはどのような生徒たちが集まってくるのでしょうか?
セントマーチンズのファッションには長い歴史があり、これまでたくさんの成功を収めてきました。卒業生の中にはファッション業界で活躍している生徒が大勢います。そういった中で、個を大切にし、自分らしさを発揮し、新しいことにクリエイティブな方法で挑戦していくことを重要視してきました。異なる歴史を持つ他校のことはわかりませんが、私たちのところにはそういったDNAを持つ生徒が多いと思います。
——これまでに沢山の著名人を輩出していますが、それは何故だと思いますか?
私たちは常に成功をおさめてきたという自負があります。ハイレベルな取り組みを期待して、才能ある生徒たちがやってくるのだと思います。入学してくる生徒たちは、ここでの競争がとても激しく、クリエイティブで野心家である必要があることを理解しています。優秀な生徒がここで学び、卒業していくことで、同じように才能ある学生を惹きつけているのです。セントマーチンズの文化は、クリエイティブな業界で成功することなのです。もちろん私たちは生徒たちが自分のビジョンを持てるようになるまでサポートしています。それが時には自分のブランドを立ち上げるという結果に繋がったりします。ファッションデザイナーを目指すことがすべてではありませんが、多くの生徒が自分のブランドを持つことを希望します。彼らは自分たちが何をやりたいかをしっかりと理解していて、それに対して非常に意欲的なのです。
——では、あなた自身はどのような学生生活を送っていたのでしょうか?
私が学生のころは今より入学へのハードルは低かったと思います。現在とはまったく違っていて、当時は授業料を払わなくてよかったんです。今では考えられないことですが(笑)。そしてロンドンで生活すること自体も難しいことになりました。生徒たちが大きな成功を手にすることも、非常に困難になっています。そして生徒たちへの期待も、現在のほうが大きいでしょう。セントマーチンズのファッション学科からたくさんの著名人を輩出したので、世界でも有名になったからです。今の生徒たちは自分たちにより大きなプレッシャーをかけていますが、実際に成功するのには時間がかかります。ただ、私の学生時代と似ているところもあります。学校の環境だったり、クリエイティブで優秀な仲間、素晴らしいコミュニティは今も変わらず、また講師たちも昔と同じ哲学を持っています。今でもみなが同じ考えと哲学を共有しているのです。学外の環境は変わりましたが、生徒や職員がそれぞれ協力しあうこと、セントマーチンズのDNAや学校内の雰囲気というのは今でも変わっていないと感じていますし、素晴らしいことだと思っています。
——あなたの在学中には、どのような人たちがいたのですか?
私の在学時にはサラ・バートンがいましたね。彼女は1年間ギャップイヤーをとって《アレキサンダー・マックイーン》で働いた後、学校に戻ってきました。そして卒業してまたすぐ《マックイーン》で働き始めたんです。ステラ・マッカートニーは私が2年生のときに卒業しました。他にもフィービー・ファイロもいましたね。当時はまったく理解できませんでしたが、マックイーンの最初のコレクションを見たのもこのころでしたし、あのころを振り返るといろいろありました。当時のロンドンは今よりもずっと小さかったように感じます。インターネットもなかったし、Instagramでみなが何をしているかをチェックすることもありませんでしたから。かつてはソーホーに校舎があって、あのころは本当に集まりの小さなコミュニティという感じでしたね。みなが知り合いで、ファッションウィークになるとほとんど全員でバックステージを手伝ったりと、業界自体がとても小さな規模でした。当時はお金を生み出したり、ビジネスライクなものではなかったのです。90年代は本当にただ、クリエイティブなことを追求していた時代で、世界中のプレスがファッションウィークになるとやってくるということもありませんでした。メインストリームになるようなカルチャーもなく、小さなものが少しずつ成長していく感じがしていましたね。
——最近でもキコ・コスタディノフなど、CSMから話題のデザイナーが登場していますが、在学中から注目していた生徒はいますか?
ジョン・スケルトンと兄弟のライアン・スケルトンは面白いですね。ライアンはファッション・コミュニケーション&プロモーションコースに在籍していて、ジョンと一緒に働いています。これがセントマーチンズの面白いところで、優秀なデザイン専攻の学生まわりには同じく優秀なスタイリストやフォトグラファーを目指す生徒たちがいて、お互いに助け合っているのです。グレース・ウェールズ・ボナーもファッション・コミュニケーション学科の生徒と一緒に取り組んでいましたし、チャールズ・ジェフリーもそうでしたね。これはファッションの魅力のひとつでもあります。単純にプロジェクトだけでなく、一緒にアイデアを発展させていくことが大切なのです。デザイナーも単に洋服を作るだけではなく、コミュニティに語りかけていく必要があるのです。現代のファッションではそういう点が昔に比べて変わってきているのだと思います。有名なデザイナーだけにかかわらず、すべてのデザイナーに言えることなのではないでしょうか?
——最後に、セントマーチンズへの入学を志す日本人へアドバイスを送るとしたら何でしょうか?
セントマーチンズは常にコンセプト重視です。そしてそのコンセプトを新しい考え方や方法で、どうやってデベロップしていくかが大事です。もちろん技術的なことも重要です。ものづくりを行う上で必要なことですからね。もしファッションフィルムを作りたいなら編集方法、洋服を作りたいならパターンメイキングなど、技術は基礎的なことです。ですがクリエイティビティが技術を動かしていかなければいけません。逆ではならないのです。アイデアがあるなら、それを作るためのやり方を見つければいいだけですから。何よりもまず初めに、コンセプトから始めなければいけません。もし技術からスタートしてしまうと、自分が今作れるもしか作れなくなるからです。だから絶対にアイデアが先行しなければいけないのです。それがクリエイションというものですから。
CENTRAL SAINT MARTINS Fashion Programme; Programme Director; Course Leader, BA Fashion Communication.
Interview_Takaaki Miyake
Edit_Junichi Arai