Sep 27, 2019
By THEM MAGAZINE
【インタビュー】 潘逸舟個展「不在大地」
【インタビュー】 潘逸舟個展「不在大地」
天王洲にある現代美術ギャラリー「ANOMALY」にて、中国・上海出身で東京を活動拠点にするアーティスト、潘逸舟の個展「不在大地」が開催中だ。彼の作品が魅せる、時間とともに変化する環境、社会、文化とその中に存在する我々人間の距離感を視覚化したような世界観は、どの様に生み出されているのか。国内での個展が2年ぶりとなる本展覧会開催のタイミングで潘逸舟本人に尋ねた。
1987年に中国・上海で生まれ、9歳の時に青森へ移住。幼い頃から絵を描くことを趣味にしていた父親の存在もあり、自然と芸術の世界に興味を持つ様になったという潘逸舟。現在、なぜ現代美術というフィールドに身を置き表現活動する様になったのだろうか。
「高校生になって将来のことを考えた時、画家になるのかなって漠然に思っていました。しかし、当時僕の住んでいた青森に国際芸術センターというものができて、そこでは現代美術を扱った展覧会が数多く開催されていました。また、展示している作家さんともコミュニケーションを取る機会もあって、そういう人との会話や作品をみているうちに現代美術が面白い世界だと思う様になったんです。その後高校2年生ぐらいの時には自分でもパフォーマンスをして展覧会を開いたりなど制作活動をし始めました。」
絵を描いていた時期から、現代美術の場で制作をするようになった時、彼の中の表現することへのマインドはどの様に変化していったのだろうか。「絵を描くことの意味から脱するというか、絵に治らないことをしたいと思ったんです。今回展示している作品でもあるのですが、僕自身が風景の中でパフォーマンスを行いそれを記録し映像作品として発表するというスタイルはその頃から生まれました。絵の具を使ってキャンバスに描くのではなく自分自身を使って自分がいる場所で描く。要するに自分がメディウムになることで表現の自由度が広がると思ったんです。そして、そう制作をしているうちに、中国に生まれ日本に移住したという自らのアイデンティティを考えるようになり、その結論として自分の存在自体は自分の身体が一番把握していると思い、自然とパフォーマンスで表現する様になったんですよね。」
自分自身を考え理解するために、自分自身を用いて作品をつくる。その姿は絵画や彫刻といったビジュアルアーツに芸術のイメージを置く場合、表現の根源的な意味を感じることができる。彼の作品と向かい合ったとき、鑑賞者は自分自身が何故ここにいて、この作品を鑑賞しているのかを改めて考えさせられるのだ。本展覧会で展示されている新作のひとつ「取り除かれた風景」も彼独自のプロセスに基づいた作品のひとつだ。福島原発事故により飛散した放射性物質によって汚染された土壌を収納・保管するために使用されている袋に彼自らが入り彷徨する姿を、袋内の音とともに記録したこの映像作品は、彼が福島まで足を運んだときに、元あった風景の一部である土を削り取り、そこにいる人々から離れた場所へ運ぶという場をみて、インスピレーションを得たという。この作品は彼の最新のパフォーマンスである。
では、そのマインドをもった上で彼の手から生み出される作品にはどの様なコンセプトが付随するのだろうか。「自分が男性であるとか、中国人であるとか、潘逸舟という名前であるとか、自分が産まれる時もしくはそれよりも前から存在する、必然的に決まった選択できないものから今の自分を分離しては見ることはできません。そんな、自分を定義づけることと今生きている自分の存在が、どの様に関係していくかを考えることは、僕の制作では重要な要素だと思っています。例えば、僕の作品には海が登場することがよくあります。これに理由はいくつかあるのですが、海は他者との曖昧な境界でありながら、わたしたちの社会を反射している場所のように思います」
彼が語るように、今展覧会でも今までと同様に海を作品の一部に取り入れているのがわかる。新作の「Quick Response」がそのひとつで、上海で彼自身がみたという二胡を路上演奏する盲人の首に「投げ銭」代わりにぶら下がっていたQRコードからのインスピレーションに、海の波を映した記録映像を掛け合わせている。デジタル化した波の動きと共に変化するいくつかのQRコードを映した本作は新鮮なビジュアルであると共に、自然とテクノロジーの組み合わせからどこかシニカルさも感じることができる。
また、興味深いのは会場を見渡すと壁に掛かった他の映像作品とはまた異なる、平面の作品が見受けられることだ。「制作をするとき、コンセプトの後にどのメディアで制作するかを決めているので、自身で僕は映像作家だとは思っていなくて、統計的に風景を後ろにアクションをするという表現方法が多いので自然と映像媒体が多くなっているんです。なので、他のメディアで表現することも勿論ある。今回の展示にある平面作品『1ピクセルの象徴』は国をも形成する思想のひとつの社会主義の象徴である金槌と鎌を用いて制作したものです。この作品を作ろうと思ったとき、最も適したメデイアは平面だと思ったんですよね。なので、購入してきたそれぞれにヤスリで鉄の箇所を削り粉状にし、それが塗れるだけの正方形の平面を用意して接着させることによって現代におけるデジタル化した象徴のかたちを1ピクセルとして制作しました。
ひとつの手法に留まることなく多様な手法を用いて表現する現代美術作家は世界に多く存在するが、潘逸舟による作品はあくまでも等身大の個人の視点から、今存在する社会、環境、思想に目を向け表現を行い、我々に芸術に対する新しい視野を与え、その可能性を示してくれるのだ。
最後に、今後の展望について尋ねた。「来年の2月に神戸のアートビレッジセンターにて展示を控えているのでそれに向けた制作物のコンセプトを考えています。今リサーチしているのは日本国内にある外国人実習生と日本人が一緒になって行う単純労働について。日本から海外へ移住した移民の歴史も深い場所である展示会場の神戸にある神戸港には、その様な人々が多くいるので、実際に訪れリサーチを深めつつ新作が作れればと思っています。」
様々なレジデンスプログラムでの経験より得たという、実際に足を運び自分の目でものを見ることの重要性も合わせて語ってくれた潘逸舟。彼の豊かな創造性と芸術への真摯な姿勢により生み出される作品は今後も我々を驚かせてくれるだろう。
『不在大地』
TERM – 10月5日(土)
PLACE ANOMALY
ADDRESS 東京都品川区東品川1-33-10 Terrada Art Complex 4F
OPENING HOURS (火)・(水)・(木)・(土) 11:00 a.m. – 6:00 p.m.
(金) 11:00 a.m. – 8:00 p.m.
(日)・(月)・(祝祭日) 休館
TEL 03-6433-2988
URL http://anomalytokyo.com/top/
Interview&Text_Daiki Tajiri