Nov 26, 2019
By THEM MAGAZINE
【インタビュー】Stephen Mann and Taro Ray as AFFIX
「新しい活用性(New Utility)」というテーマを掲げ、衣服における“機能性”を創造的に模索するブランドがある。ロンドン拠点の《アフィックス》。機能性と言っても、彼らがつくるのはガチガチのテックウエアではなく、デイリーで着られるカジュアルさと、(インタビューで後述される)機能性へのクレバーなアプローチが魅力だ。ブランドに集うのは、デザイナーであるキコ・コスタディノフ、タロウ・レイ、スタイリストのスティーブン・マン、「GIMME FIVE」のマイケル・コッペルマンというドリームチーム。年に一度コレクションを発表する、スローペースで活動している。
この度《アフィックス》は、日本が誇るスポーツウエアブランド《アシックス》とのコラボシューズを発表し、それを記念したイベントを東京コレクション期間に開催。合わせて来日したスティーブン・マンとタロウ・レイに、《アフィックス》が考える「新しい活用性」について聞いた。
——《アフィックス》が、機能性に着目している理由はなんでしょうか?
スティーブン・マン(以下、S):元々俺らは、“ある目的のためにデザインされた機能的なアイテム”に注目していた。機能的アイテムとは、ワークやスポーツ、ミリタリーウエアなどを指す。それらの開発やデザインの前提には、とある解決すべき問題があって、その解決方法がそれぞれ特殊だからこそ、ユニークなプロダクトが生まれているんだ。切り替えのラインやシェイプ、色など、すべてのデザインが機能面を念頭において考えられ、装飾的な狙いがない。そこに予想しなかった美しさや面白さが生まれる可能性があり、新しい感覚を覚えるんだよ。
——では、機能性についてどのようなアプローチを行なっていますか?
タロウ・レイ(以下、T):《アフィックス》のデザインアプローチは、ワークやスポーツ、ミリタリーウエアなど既存の機能的な服からその開発の経緯などを学んで、自分たちのプロダクトへと落とし込むことだ。ある目的のために開発されたアプローチを、その元来の目的ではない新しいフィールドに持ち込むことで、機能の新しい活用性が生まれるんだ。
——それが《アフィックス》が提唱している「新しい活用性(New Utility)」ということですか?
S:まさしくその通り。ある一つの問題を解決するために生まれた機能が、別の問題を解決することもあるし、そこから別の機能性が見出されることもある。街を行き交う人々を見れば、彼らが機能に新しい活用性を見出して、別の用途で使用している実例をみることができるよ。その一例が、人々がランニングシューズを履いて仕事に行くようになったこと。当初ランニングシューズを展開していたメーカーには、「仕事用のシューズ」として打ち出すマーケティング計画はなかっただろう。しかし、ワークシューズよりランニングシューズのほうが仕事にも快適だと消費者が決めたわけだ。デザイナーである俺らの考えも同様で、ある機能を別の用途に適応させて、ライフスタイルに落とし込むということを実践している。
T:これは新しいイノベーションだと思うね。俺らは自身で技術を開発するイノベーターではないけれど、既存のコンテクストやスマートさ、アイデアを抽出してウエアに落とし込むことで、デイリーライフをもっと理にかなったものにしようと試みている。つまり既存の技術のコンテクストを変換して、現代社会における新しい使い道を探すこと。服のデザインもその理念に則っていて、何かをクリエイティブにつくるというより、より良いプロダクトを追求する感じなんだ。
——なぜそのコンセプトにたどり着いたのですか?
S:通りを歩く人々を注意深く観察するという、日々のルーティンからかな。ブランドの原理は、そのシンプルな活動の集積にあるはずだ。
——デザインプロセスはどのように進むのでしょうか?
T:多くの場合は、アトリエのテーブルに服を置いて、そこからみんなで話し合いながら考えるんだ。その服の持つ機能性の、どこが面白い点で、それをどのように進化させることができるか、どのような素材に置き換えればデイリーなシチュエーションに適しているか。そういった会話の中で、機能に対する新しいコンテクストが見えることもあれば、ある機能性を求めた結果として生まれた面白いシェイプを、シェイプだけ生かして楽しむこともある。要素の再構成によって、プロダクトに潜む未知の美しさが見えてくるんだ。
——《アフィックス》にはベーシックでシンプルなアイテムが多いですが、機能的なディテールを詰め込みすぎないことを意識していますか?
S:一つの固定された理念でやっているわけではないから、一概には言えないかな。ある機能のコンテクストを変えたときに、ディテールを削いだ方がシンプルでわかりやすくなっていいときもあるし、逆に大きくしてディテールを目立たせたほうがいいこともある。他には遊び心をもたせたり、シリアスな面に落とし込んだり、さまざまなアプローチも考えられるし……。ミニマルである必要はなくて、コンテクストをいかに見せるかが大事なんだ。
——さて、その「新しい活用性」という観点から、今回発表した《アシックス》とのコラボシューズについて聞かせてもらえますか。
S:原型となっている「GEL-KINSEI OG」は、当初はランニングシューズとしてリリースされたシューズ。このコラボレーションでは現代の都市生活で履かれることを想定し、アッパーにゴアテックスを採用することで、シューズにおけるコンテクストの変換を行った。ランニングシューズとしての機能性は残したままだが、ゴアテックスのような全天候に対応する素材はとても便利でモダンだ。既存の型の外見に大きな変化は加えず、機能性を高めているところも《アフィックス》らしいアプローチだと思う。
——ブルーやダークブラウンの特徴的な配色は、どのように決めましたか?
S:工業地帯に見られる標識や、そこで働く人々のユニフォームの色から引用したんだ。これは《アフィックス》のコレクションとも連動したカラーリングとなっている。
——《アフィックス》の今後のプランについてお聞かせください。
S: 2019Winterが3回目のコレクションだけれど、ここまでプロダクトが充実したのは初めてだ。今は2020Winrerコレクションに取り組んでいて、俺とタロウは今やフルタイムでハードに働いている。まあ、地道にやっていくかな。まだここでは言えないけれど、新しいプロジェクトも企んでいるから、楽しみにしておいて。
Edit_Ko Ueoka