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ART
Aug 06, 2018
By THEM MAGAZINE

【インタビュー】PIETER VERMEERSCH at Perrotin Tokyo

 ベルギーのアーティスト、ピーター・ヴェルメッシュによる日本初個展が、9月12日まで東京・六本木のギャラリー「ペロタン 東京」にて開催中。

 

ギャラリーを訪れるとまず目に飛び込んでくるのが、アーティストがギャラリーのガラス壁に直接ペインティングした黄色の抽象作品。ペインティングの上から日光が透過することで、黄色に変色した光がギャラリー内に差し込み、真っ白の空間に色彩を加えている。この展覧会では、計3種の代表作を見ることができ、その内容の充実度はアーティスト自身が「私の宇宙」と例えるほどだ。

 

展覧会のオープニングに合わせて来日したピーターに会いに行くと、まずその高身長でスタイリッシュな風貌に驚かされた。それもそのはず、実は過去に《エルメス》のキャンペーンヴィジュアルのモデルを務めたこともあるという。そんな彼に、公に話すのは初めてというモデル時代の話から、独特の抽象表現を作り上げるコンセプトについてまで、さまざまな質問を投げかけてみた。

「ペロタン 東京」の外側と内側から見た作品「Work in progress」

———以前は、ファッションモデルとして活躍されていた時期もあるそうですね。そのころのお話をお聞かせください。

 

よく知っているね(笑) 2005~06年ごろ、私は完全に一文無しだったので、現在の妻である当時の彼女と、素早く金を稼ぐ方法について話していた。彼女はもともとパリでモデルの仕事をしていたので、私にもモデルの仕事を勧め、カップルでモデル事務所に登録した。運良く《エルメス》などからオファーをもらうこともあったけれど、モデル業はあまり長くは続かなかったね。モデルとして働くには、容姿のみならず、良いポージングをとったりする素質が必要なんだ。僕にはそれがなく、現場ではただ棒立ちしているだけだったから、常に居心地の悪さを感じていた。すぐにお金が稼げるから助かる仕事だったけれど、ずっと続けられる道ではなかったんだね。

 

 

———そうだったのですね。ご家族にはアーティストが多いそうですが、ピーターさんはどのようにしてアートと触れ合い始めたのですか?

 

私の祖父、父、父方の姉妹、そして私の2人の兄弟はみんなアーティストなんだ。いわゆるアーティスト一家だね。幼い私は毎日のように父の制作スタジオで遊んでいて、日常に当たり前のようにアートがある環境で育った。だからもちろん自然と絵を描き始め、父や祖父の絵や彫刻を真似して作ることもしていた。正直、その頃から絵は上手だったと思うよ。でも家族は私を無理にアーティストにさせようとはしなかった。いつも選択の自由が与えられていたんだ。私も将来アーティストになるとは考えていなかった。5歳のくらいの時は石工になりたくて、次は考古学者、14歳の時は建築家に憧れていた。しかし、今でもはっきりと思い出せる瞬間だが、学校のベンチに座っていたときに、ふとアートの道に進むことをひらめいたんだ。そのひらめきに理由やきっかけはなく、言葉では説明できない宇宙的な現象だった。そこからアートの世界にのめり込み、私はアートの大学に進むことを決めたんだ。

 

 

———初めての個展をベルギーのギャラリー「off the hook」にて開いた2000年当時、あなたはまだ学生でした。どのような学生生活を送っていたのでしょうか?

 

私は2つのアート学校に通った。まず18〜22歳はベルギーのGhentにある「Higher Institute for Visual Arts」で学び、その後アントワープの「Higher Institute for Fine Arts」の大学院教育課程に入学した。「Higher Institute for Fine Arts」の大学院教育課程には、みんな一緒に教室で学ぶようなかしこまった授業はない。そもそも入学の時点でアートの基礎過程を受け終わっていて、すでに駆け出しの“アーティスト”であるからね。教授も存在せず、生徒それぞれが自身のスタジオを持っているんだ。学校側は2ヶ月おきに10人ほどのキュレーターやギャラリスト、ミュージアムディレクター、哲学者、批評家、執筆家といった人々をスタジオに招き、生徒はそれぞれフィードバックをもらう。彼らにも、素質あるアーティストを早い段階で発見できるメリットがある。なので、キュレーターが求めているイメージと合致すれば、学生でも大きな企画展に呼ばれるチャンスがあるんだ。私も在学中に何度も企画展に作品を出したし、2000年にはベルギーのギャラリー「off the hook」で個展も開いた。

———「ペロタン 東京」でも見られるガラス面の黄色の作品は、その「off the hook」で発表したウォールペインティング作品「Work in progress」のシリーズですね。この作品にはどのような狙いがあるのでしょうか?

 

この作品を制作した当時は、“抽象画における自律性の再構築”というテーマについて取り組んでいたんだ。抽象画を“常にホワイトキューブの中にある”というコンテクストから逃れさせ、厳しい現実世界に晒すことを試みた。あのようにガラス面にペイントすることで、作品はホワイトキューブと現実の間にある“膜”のような存在となり、その自律性が失われる。なぜなら作品はそのコンテクストに加えて、膜という働きも負うことになるから。膜となった作品に光が差し込むことで、ギャラリー内の空間にその色が投影される、つまり“現実”の光がホワイトキューブ内に影響する。そして、作品も空間も内も外も、すべてが連結し切り離すことができなくなる。

 

 

———ギャラリー外の現実がホワイトキューブに影響する一方で、目を引く作品の存在によって、現実そのものも変容していますね。

 

そう、この作品は公共の空間との関わりがある点もポイントだ。つまり、現実側のたくさんの情報と作品が触れ合う。現実世界と作品を会話させるようなものなんだ。また多くの場合、私のウォールペインティングは一時的なもので、エキシビションが終わると取り去られてしまう。まるで自然の法則のようで、面白いと思う。

 

 

———ウォールペインティングは、展示する場所を考慮して制作するとのことですが、なぜ今回の「ペロタン東京」では黄色を用いたのでしょうか?

 

実は、当初はピンクを使うつもりだったんだよ。しかし、展示構成のスケッチなど準備作業を進めるうちに、「ペロタン東京」には黄色を使う方が効果的だと思った。それは展示する他の私の作品に対しても、またギャラリーの外側の環境にとってもね。そのようなバランスは、作品のコンテクストにおいてとても重要なんだ。私は心理学的な考え方で色を選んではいないし、また色を攻撃的な要素としても用いない。私にとっての色とは、未知の領域のもの、理性を超えた領域のものなんだ。例えば、もし「赤とは何か」と問われても人は何も答えられないだろう。光の一種とも言えるけど、それは本質的な答えではない。色は言語で表現できる世界ではなく、ヴィジュアル世界のものなんだ。これが私が色彩に対して特に興味を持っている点で、そのような意味で色を捉えて使用している。

———そうなのですね。今回の展示では、ウォールペインティング含む、3シリーズの作品を見ることができます。展示全体の構成についてはどのように考えていますか?

 

展示のコンセプトは制作前から決めているわけではなく、スタジオにこもって作業を続ける中で自然に浮かび上がってくるものなんだ。方向性が決まってからは、パズルのように、あらゆることをコンセプトに沿って行う。しかし今回に限っては、コンセプトは後づけだったね。このエキシビションの展示作品3種類が同じ空間に並ぶ構成を重要視し、作品同士のコントラストが生み出すダイナミズムは不可欠だったからだ。今展は私自身の宇宙のようだと言えるかもしれない。

 

 

———大理石をキャンバスのように扱い、その上に直接ペインティングをしている作品がありますね。大理石を使用することに、どのような意味があるのでしょうか?

 

大理石は、気の遠くなるほど長い時間をかけて自然の中で生まれるもの。まるで時間という概念が結晶して、マテリアルになっているようだ。それを考えると、私のペインティングのイメージとの高い関連性を感じると同時に、所用時間については対照的な存在であることにも気がついた。なので、一緒に並べてみるのは面白いと思った。私はペインティングによって、有形であるものに反撃したかったんだ。

 

 

———使用されている大理石はそれぞれ種類が異なり、綺麗なスクエアに切り出されたものもあれば、歪な形をしている無加工のものもあります。大理石の選択はどのように行っているのでしょうか?

 

私が取引を行っている会社は、いつも3日はそこで過ごしてしまうほどに膨大な数の大理石を取り扱っている。また商品の入れ替わりも激しいので、行くたびに新しい種類の大理石を発見できる。私は必要以上に選びすぎないように興奮を抑えなくてはいけない(笑) その会社は破損してしまった大理石も扱っているが、それもまた興味深いんだ。綺麗な長四角形にカットされていないので、作品ではそのマテリアル感がより強調される。

———大理石にもさまざまな色がありますね。ペインティングと大理石の色の組み合わせについてはどのようなことを考えますか?

 

これはとても直感的なプロセスで、幾度となくテストを重ねることで、正しい色の組み合わせを見つけ出すんだ。ペインティングと大理石をどのように関連づけ、そこからどのようなコンテンツを引き出すことができるのか。この作業は、作品における重要なプロセスだ。テストを繰り返す中で突然ショックのような瞬間が訪れ、私は何かを見出す。直感的な感覚だから口では上手く説明できない。

 

 

———他にも、グラデーションの一部が剥がされたようなペインティング作品がありますね。こちらはどのようなことを考えて作ったのでしょうか?

 

この作品では、イメージに対する挑戦を試みた。私のペインティングは、グラデーションを作るために常に絵の具をミックスさせ続けていかなければいけないので、時間をかけずに一気に終わらせる必要がある。12~18時間の1テイクのみだ。そして絵の具が乾ききる前の絵は、定着していない“液体状態”なので、そこに手を加えることでさらにイメージを変化させることができる。私はそれを利用して、ペインティングの一部を抉りとってみたんだ。

 

 

ピーター・ヴェルメッシュによる多角的な抽象表現を存分に堪能できる今展は、訪れるたびに異なる表情を見せる。陽の高さや差し込む光量によって、ウォールペインティング作品がギャラリー内に与える色の影響が大きく変わってくるのだ。ギャラリーに何度も訪れることで、作品の繊細な移ろいも楽しみたい。

 

 

 

PIETER VERMEERSCH

TERM  ~ 9月12日(水)
PLACE  ペロタン東京
ADDRESS  東京都港区六本木6-6-9
OPENING HOURS   11:00- 19:00 (日月休)
TEL  03-6721-0687
URL  perrotin.com/exhibitions/pieter_vermeersch/6295

 

 

Edit_Ko Ueoka

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