Them magazine

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FASHION
Jan 15, 2018
By THEM MAGAZINE

【インタビュー】Y/PROJECT (アーカイブ)

(2016/10/24発売のThem magazine No. 012 「Don’t kill the vibe」に掲載されたアーティクルです。)

 

メンズとウィメンズのコレクションを一度のショーで同時に発表する“ワン・シーズン・ワン・ショー”を行うブランドが増えている。共通した世界観をより強く打ち出すことができ、またビジネス的にみても効率のよいシステムだ。しかしそれ以上に、昨今のモードにおいてメンズ、ウィメンズという概念を越えた、ノー・ジェンダーという考えがひとつの潮流として巻き起こっている。今でこそ、多くのコレクションでノー・ジェンダールックが提案されているが、《Y/PROJECT》というブランドは、いち早くこの流れを捉えていたブランドのひとつといえる。2008年に創業者ヨハン・セルファティによって生み出され、2013年にクリエイティブ・ディレクターにグレン・マーティンスを迎え、今では新時代の到来を予感させるブランドとして注目されている。今年の「LVMH PRIZE」のファイナリストにも選出された彼の、クリエイションの秘密をひもといてみたい。

 

 

“A reality of everyday is important for one side of the brand, but then the reality of the history, like past or paintings, is another story like

a fairy tale. For me, all these things are just like one big Disney land,

and the dream comes from a bit like there. And I’d love to make a dream with the reality.”

 

「日常のリアリティはブランドのひとつの側面において非常に大事だけれど、過去、絵画など、歴史からのリアリティも、僕にとってはおとぎ話のような、ディズニーランドのようなもので、そこからくるドリームも大事だと思っている。」

 

 

 

————まだ馴染みの薄い日本の読者のために、《Y/PROJECT》というブランドについて教えてください。

 

僕にとって《Y/PROJECT》は、大都会、パリやNY、東京といった場所でのリアリティを反映しているもの。歴史、文化、人種など、本当にいろいろなものから影響を受けていて、たくさんのことをひとつにまとめた“melting pot”であり、それは僕にとって非常に大切なこと。影響を受けるのに“NO”というものはないし、ある意味現代の社会を反映しているようでもある――今、人々はさまざまな場所へ旅して、例えば、僕はベルギー出身で、君は日本から、だけどパリで今こうして会っている――こういったことを、楽しみ慈しむべきであると思うんだ。《Y/PROJECT》の服は誰にでもオープンであり、もちろんショーではステイトメントとなるものを作るけれど、実際には誰にでも取り入れてもらえるものを目指している。スーパーセクシーからソフィスティケイトされたもの、エレガントなものまで、エクレクティック(折衷主義)なコレクションプランを作り、とにかくすべてのタイプをひとつのコレクションにまとめて、何かこうと決まったスタイルを押し付けるつもりもない。自由で、多彩であり、取り入れやすい、チェンジャブルなもの。《Y/PROJECT》の最も大事なことは“FUN”であるということ。僕ら自身も楽しんでいるし、着る人も楽しんで、エンジョイしてもらいたいと思っているんだ。

 

————《Y/PROJECT》は以前、別の方がクリエイティブ・ディレクターだったそうですが、あなたがブランドを引き継ぐようになったいきさつは何だったのですか?

 

クリエイティブ・ディレクターであり創業者のヨハン・セルファティ氏が亡くなって、当時僕は他のブランドのアシスタントをしていたんだけれど、CEOからクリエイティブ・ディレクターに就任できる人を探していると連絡があったんだ。10人の候補者がいて、インタビューやプロジェクトの説明、絵を描いたりという非常にクラシックなプロセスがあったんだけれど、他の人より僕のことが好きだったみたいだね。まあ、僕が彼らより安かったのかもしれないけれど(笑)。ただ、最初は大変だったよ。ディレクターが亡くなってしまったことで、スタッフはもちろんクライアントも悲しんでいたし、だからこそ最初のコレクションは彼へ、そして彼が作ってきたものに対してのリスペクトを込めて、非常にゆるやかな変化に留めたんだ。もちろんクライアントにとっても変化を受け入れるのに時間が必要だと感じたし。ゆえに、最初のコレクションは本当にもともとの《Y/PROJECT》に近い形で行い、1年半をかけてゆっくりと変化するようにし、今のスタイルに至っている。

 

————幼少のころはどこで育ち、どんな少年時代でしたか?

 

ベルギーのブルージュ出身なんだけれど、父方の祖父はアーティストだったので、非常にアーティスティックな感覚を持っていた一方、母方の祖父はベルギー軍の大佐で、超保守的であり伝統的なマインドの人。つまり、僕はふたつの相反する世界観の中で育ったんだ。さらにブルージュも、ゴシック建築が非常に荘厳な、世界で一番美しい街のひとつでありながら、日本人にも非常に人気な一大観光地であり、あちこちにキャンディーやアイスクリーム、土産物のショップなどがあったり……。エレガントでロマンティックな雰囲気とネオンやマスツーリズムといったチープな感覚が共存している。そういったさまざまな二面性が、僕に強い影響を与えたと思う。

 

2016-17A/W

 

————ファッションに興味を持ったきっかけは何ですか?

 

実を言うと、すごく遅かったんだ。子供の頃から絵を描くのが大好きで、特に歴史の中の人物の姿を描くのに夢中だった。父は僕を教会などに連れて行っては歴史を聞かせてくれたので、マリー・アントワネットや、イギリスの王、女王の姿、そして彼らのコスチュームを想像しては描いていた。それが、洋服というものを考えた最初のときかな。ファッションという感じではないけれど。その後、大学では建築を専攻し21歳で卒業したものの、仕事をするにはまだ早いと感じ、また何か他のことを学ぼうと思いついた。で、「アントワープ王立芸術アカデミーはすごくいい学校らしい」というのを聞いて、その頃全くファッションのことなんて知らなかったけれど、じゃあ受けてみようと受験したら合格して。あとから、世界中から集まった400人くらいが受験して80人しか通らないと知ってびっくりしたよ。自身のポートフォリオを提出するんだけれど、人のシルエットなんて描いたことないから、僕のは椅子とか建物とかの絵ばかり(笑)。でも「これが僕の作品です」って堂々と見せたけどね。

 

————そんな過去があったとは(笑)。アントワープ王立芸術アカデミーでは何を学びました?

 

メンズとレディスの両方を学んだんだけれど、入学時がそんな感じだったから、遅れを取り戻すのがすごく大変だったよ。周囲のほとんどはすでに何かしらのファッションを勉強してきた人たちだったし。最初の2年はすごくハードだったけれど、でもあっという間にファッションに夢中になり「これをずっとやっていきたい」と思うようになった。で、最終学年の時に《JEAN PAUL GAULTIER》からリクルートが来たんだ。

 

————自分でブランドを立ち上げようと考えたりはしなかった?

 

いや、まずは経験を重ねることが大切だと思っていた。僕はその点すごくラッキーで、最初は《JEAN PAUL GAULTIER》、次に《YOHAN SERFATY》(《Y/PROJECT》の前身)、《H&M》の「WEEKDAY」と、3〜4年の間にクチュールからカジュアル、会社の規模も個人デザイナーから大会社までと、大きく異なる内容を見れたので、非常にたくさんのことを学べたよ。

 

————さまざまなサブカルチャーや時代に影響されているとのことですが、インスピレーションソースは、自身がユースのときに体験したものが多いのですか?

 

さっきも話した通り、僕にとっては二面性というものがすごく大事で、だから今のストリートやメトロで見るものから受ける影響が多いんだ。嫌いだっていう人が多いけれど、僕はメトロの中にいるのが本当に好き。なぜなら、その中では人を見る以外にすることがないから。どんな服を着ているか、どんな行動をしているかを見ていると、すごく学ぶことが多い。日常のリアリティはブランドのひとつの側面において非常に大事だけれど、過去、絵画など、歴史からのリアリティも、僕にとってはおとぎ話のような、ディズニーランドのようなもので、そこからくるドリームも大事だと思っている。

 

————もし過去に戻れるとしたら、どの国のどの時代に過ごしたいですか?

 

え、それは住んで生活するということ? それだったら、どこにも行きたくない、今がハッピーだから今がいい(笑)。単に2週間くらい行くだけならば、1890年とかのヴィクトリア朝で、王や貴族の姿が見られる時代がいいね。

2017S/S

“We have so many different personalities, and I think it’s very nice to reflect it to the clothes.”

 

「世の中には多くの違った人々がいて、実にさまざまなパーソナリティがあるから、それを服にも反映させるのが面白いと思うんだ。」

 

 

————裾が長すぎて何重のクッションになったデニムなど、他のブランドにはない極端なシルエットのディテールやデザインが目をひきますが、コレクションやデザインはどのように生み出されているのでしょうか?

 

建築、建設学から得ているものは多いね。僕は何かを組み立てることが好きなんだ。洋服というものを、建築の実験的な感覚で捉えて創っている。そして洋服の中の要素は、メトロなどで得る日常からきている。

 

————一方で、コレクションではチャップスのような“ファッション”アイテムではないものも披露していますが、どうしてチャップスを作ろうと思ったのでしょうか。

 

チャップスは、非常にクラシックなブリティッシュブレザーなどに合わせることで、また繰り返しになるけれど、二面性ができる。世の中には多くの違った人々が居て、実にさまざまなパーソナリティがあるから、それを服にも反映させるのが面白いと思うんだ。またチャップスは、加えるだけで普通の何気ないスタイルにひねりをプラスできる。難しくなくルックを全く違うものに変えてくれる、それも理由のひとつだね。

 

————自分でも《Y/PROJECT》のピースを着ますか?

 

もちろん着るよ! 今日の服装で《Y/PROJECT》のものはベルトだけだけど……(笑)。あ、でも、あそこにあるニットもだよ、最新作のじゃないけど。着るよ着るよ着るよ(笑)。僕は何かひねりがあるものが好きで、シンプルすぎるものは着ないんだ。絶対に、コンセプトがあるものを選ぶ。そこは、すごくベルギーのデザイナーらしいと言われるよ。

 

————メンズとウィメンズそれぞれでコレクションを発表していますが、メンズにもウィメンズルックが登場したり、同一の(ような)アイテムを男女が着用しています。これは現在の風潮であるノー・ジェンダー的な意味を含んでいるのでしょうか。

 

現在確かにそれは大きなトレンドだよね。僕は《Y/PROJECT》に着任した2013年のメンズウェアにウィメンズを加えたから、その頃から僕はジェンダーフリーだったけれど、特に謳いはしなかった。それが普通だと思ったし、もともと創業者のヨハン氏はユニセックスなアイテムを多く作っており、男性コレクションのみだったにもかかわらず、たくさんの女性が買っていたんだ。だから僕が2013年に初めてウィメンズコレクションをローンチした際も、40%はメンズアイテムだった。3年経った今はすっかりジェンダーフリーが大人気だけれど、僕らはもうずっとやっていたこと。でも、その考えが浸透したのはハッピーだよ。3年前は僕らくらいしかいなかったから、女性客の「でもこれ、男性のスーツじゃない?」「はい、そうです」「……うーん、難しいわね」みたいな会話が多くて(笑)、「でも僕らはこの方向がいいと思っているんです」「服に自由を与えたいんです」と、顧客に意図を説明しなくてはならなかった。でもトレンドのおかげでその必要もなくなったし、売り上げも伸びたし(笑)。

 

————最後に、時代や国を問わず、《Y / Project》が一番似合うと思うような人は誰ですか?

 

“Everybody”だね。僕の祖母も、大佐の祖父も、家族皆が着てるんだ。で、クラブに行けば、そこでも着ている人がいる。本当にいろんな人が着てくれて、それこそが、僕が一番求めていること。皆が自分を反映させて、自分の好きに着こなしてくれるのが、すごく嬉しいんだ。

 

 

 

 

Interview & Text_Mamiko Izutsu
Edit_Junichi Arai

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