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BOOK
Apr 07, 2017
By THEM MAGAZINE

【vol.3】INTERVIEW about「Styling Edition」 by UNITED ARROWS

なぜUNITED ARROWSはユニークな“カタログ”を作り続けるのか?

 

【vol.1】【vol.2】に引き続き、「Styling Edition」の制作を担当するUNITED ARROWSのチーフプレス渡辺健文さんへのインタビュー。

「信じられるフィクション」というU.A.S.E.の衝撃

 

Q そもそも、なぜ渡辺さんはU.A.S.E.が好きなのでしょうか?

 

U.A.S.E.に出てくるコーディネーションはいわゆるルック的なものとは違っていて、基本的なスタイリングも、まず着る人が決まって、この人だったらどう着るかとか、その人に合わせてスタイリングしていくわけですが、端的に言うとそこがU.A.S.E.の好きなところです。

 

僕はまずアルバイトでUAに入って、店舗ではなく宣伝部のプレスアシスタントとして配属されました。ある時、宣伝部の本棚にUAのカタログを発見して、手に取ってみたのが、Styling Editionを見た最初でした。22歳のときです。かなり衝撃をうけました。モデルがすべて日本人の号や、東京在住の外国の方という号もありますが、僕が最初に手に取ったのが7号目でした。学生寮で撮られた一冊です。気づいたら仕事中なのも自分の立場も忘れて、夢中でページをめくっていました。最初はカタログかどうかもわからなかったのですが、ページの隅っこに《HELMUT LANG》とか《DRIES VAN NOTEN》って書いてあるんですよ。どの服が《DRIES VAN NOTEN》なのかと(笑)それでも、挟まっていた別紙のクレジット表記一覧を見て、やっぱりこれはカタログで、ちゃんと商品着ているんだと気づきました。ほかにも、男の子が普通にギター弾いて、《RAF SIMONS》を着ているページがあって。こんなの見たことがなくて、かっこいいなと思いましたね。何を着ているか、とか、誰が着ているかとかいった部分的なことじゃなくて、いろんなことがきとんと写真に収まっていて、どうやって撮影したのか全然わからなかったですね。これが、UAが出している本だということに衝撃を受けました。

そのあとの8号目はキラキラ光る加工がされた表紙で、紙面ではコギャルたちがUAの服を着ているんですよ。彼女たちがギャルソンやマルジェラを着ていることがどうこうではなくて、もうこれ私服じゃないですか。私服に見えますが、実際は私服じゃないわけですよね。こんな似合わせ方、普通できないですよ。もちろんスタイリングをしているわけですが、そんなことを感じさせないリアリティがすごいなと思ったんですよね。コギャルをフォーカスしたってこと自体、圧巻でしたし。1996年に出していて、そのとき僕はまさに高校生だったってことなので、本当にリアルに感じられましたね。そして思ったのは、ここで描かれていることって服を買う前の話じゃなくて、買った後の話なんじゃないかということでした。あくまで僕の勝手な想像ですよ。でもそこを描けるというのは凄いなと思ったんですよね。それまで見たカタログってどちらかというとブランドのイメージとかを発信するものか、カタログ的なものが多かったと思うんですが、これは違いましたね。僕らが洋服屋さんとしてお客さまにできることは、いかにして洋服を通してお客さまの役に立てるかということです。そのような意味を含めてパーソナルトラッドって言葉を前回使いましたけど、そのお客さま一人一人にあったお洋服を提案させていただく中で、これはその最たるものだと思ったんですよ。これこそ洋服屋だからこそできるカタログなんだとさえ思いました。何の違和感もなくこの人たちに似合った服を着せている。スタイリングをしているので作られた世界ですが、そんなことはどうでもよくて、要はフィクションだけど信じられるという、その説得力がすごいなと思いました。それで、スタッフクレジットに康一郎さんのお名前を見つけてから、いつかこんなカタログを一緒に作れたらいいなという思いがずっとありましたね。

 

Q 1998年に発行した10号の後、Styling Editionは休刊し、2013年に発行をまた始めていますが、なぜ再開となったのでしょうか?

 

改めて作りたかったんですよね。個人的な本音はそうで、昔のStyling Editionを見ていつか康一郎さんに会いたい、一緒に仕事がしたいという思いをずっと持っていました。初めてStyling Editionを読んだときはまだアルバイトで、この会社に就職するのかもわからなかったほどなので、夢のまた夢の話でした。その後、社員として採用され、プレスとして働くようになりました。その頃は先輩方がStyling Editionとは違う名前でシーズンカタログを作っていて、しばらくして僕もシーズンカタログの制作に携わるようになりました。その間に、普段のリースで康一郎さんのご対応をさせていただく機会が何度かあったのですが、自分の存在、名前を覚えてもらうにはかなり時間がかかりましたね(笑)

 

U.A.S.E.を再開するきっかけになったのは平林さんとの出会いも大きかったと思います。あるキャンペーンの仕事で、そのアートディレクターとしてご一緒したのが平林さんでした。おそらく康一郎さんと平林さんもそこで初めて会っていると思うのですが、このキャンペーンでご一緒させていただいことがきっかけで、平林さんとカタログを一緒に作れないかという話になりました。それで作ったのがのが11号目です。この時に、「このメンバーだったらStyling Editionの名前を復活させてもいいね」という康一郎さんからのお言葉をいただいて、再開する運びになりました。「叶った!」と思いましたね(笑)

 

Styling Editionの名前を使わなくなった1999年から2012年まで14年と間が空いていているので、昔のU.A.S.E.と全く同じことをやっても今には響かないですよね。しかし、自分に中にあるU.A.S.E.の根っこは、やっぱり90年代に出していたStyling Editionにすでにあって、そこに感じた洋服屋だからできるもの、ほかではやらないもの、お客様に楽しんでいただけるもの、それを今やるならどういうものだろうということを考えました。着る人に似合っていることやその人の生活に馴染んでいることだったり、時代を感じられたり。そのカッコよさを踏襲していきたいという気持ちはありました。だから、どういう人が着るかから入る。誰に着せるのか、この人が着るからどういうスタイリングなのかということになるんです。

Q 過去にはU.A.S.E.でもYoutubeにティザー動画をあげられていて、今はU.A.S.E.紙面はWebにあげられ、載っている洋服はオンラインで購入出来るように導線付けられています。紙媒体とWeb媒体をどのように捉え使い分けていますか?

僕は、紙とWebは何もかもが違うと思っています。カタログのWebバージョンも作ってはいますが、紙に求めることとWebに求めることはおそらくイコールではないだろうなと思います。自分がそうなので。写真は紙面と同じものを使っていますが、Webは紙面の構成とは関係なく、Webだったらどう表現すればよいのかということを考えて全て再構築しています。カタログサイトに入っていただくとわかりますが、写真の順番も全て紙面とは違うんですよ。画像をクリックすると、この人は何を着ているのかという紹介があって、オンラインストアですぐに買うことができますよという仕組みになっています。載せる写真もひとつのストーリーにつき一枚ずつのみというシンプルな流れですね。WebでU.A.S.E.の全ページを掲載することは違うのかなと思うんですよ。例えばこの左ページ白、右ページ女の子の写真がばーんってきて、かわいいよねってなる。 そしてページをめくると6枚の連続写真が来ると。このうわーっという感覚はWebでは作れないのかなぁって。紙ならではの感動だと思います。インスタグラムで6枚写真を並べて解説するとか、そのようなコンセプトがあって完結するならよいとは思いますが、カタログのWebバージョンとしてこの6枚の写真を並べても紙と同じ効果は得られません。Webに関しては、プロセスをシンプルにする必要があると思うんです。というのも、Webの情報って扱われ方がスピーディーじゃないですか。時間をかけて読み込んでもらうというよりは、もっと明快にシンプルに見せて、その中でどのような見せ方がよいかということを考えます。紙と同じデータを流し込むのではなく、WebはWebで一から考えますね。同じコンテンツだとしても、掲載する媒体によって求められていることが違うので、そこは発想を思いきって切り替えて臨んだ方が、お客様にとって有効なものを作れるのではないかと思っています。

 

(FIN.)

 

過去のインタビューはこちらからどうぞ。【vol.1】 【vol.2】

 

 

 

渡辺健文

UNITED ARROWS チーフプレス
1979年生まれ。文化服装学院を卒業し、2002年にユナイテッドアローズにアルバイト入社。2006年よりプレス担当となり、2016年からプレスチーフに就任。

 

 

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