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ART
Jun 25, 2021
By KO UEOKA

Rita Ackermann, Andro Wekua : CHAPTER 4

呼応する破壊と創造

キャンバスに積み重ねられた多様なイメージの層に、何を見るだろうか。乳白色の窓から柔らかな光が回るギャラリー空間に、極彩色のペインティングが浮かび上がる。寓話的描写やコラージュ、筆致の激しさが醸す無惨さ、追憶と憧憬…特異な色彩による抽象と具象が入り混じり、破壊と創造の相反する衝動とともに、多面的なイメージが立ち上がっていく。東京・表参道のギャラリー「ファーガス・マカフリー 東京」にて開催中のリタ・アッカーマンとアンドロ・ウェクアによる二人展は、きっと、簡単な言葉で解説することはできない。しかしウィレム・デ・クーニングやマーク・ロスコといった巨匠が引き合いに出され、理屈以上にパワフルで無二の作品は、現代作家にして「クラシック」と形容されうるような恒久性を確かに宿している。

今回、二人展となったのは偶然ではない。リタとアンドロは、約20年に渡って対話を続けながら、何度もコラボレーションを行ってきているのだ。二人の関係は、2002年にバーゼルの美術館で行われた展覧会にて知り合い、意気投合したことに始まる。リタはハンガリー、アンドロはジョージアと、共に東欧に生まれ、ソヴィエト理想主義の崩壊、体制下における抑圧、祖国からの亡命、移民としての経験を共有し、また90 年代に祖国を去り、異国での創作活動を始めているというも共通項も、仲を深めるのに一役買ったことだろう。03年には、二人による初のアウトプットとなるコラボレーション・ジン『Chapter1』を自費出版。現在のようにスマフォで手軽に写真や画像でやりとりができる時代ではなく、電話やファックス、郵便でのやりとりで紡がれたイメージの対話は、100ページの作品集となった。以降、『Chapter2』『Chapter3』と継続され(これらはスイスの出版社「NIEVES」より発行)、そして今回、『チャプター4』の刊行とともに、初の二人展の開催に漕ぎ着いた。作品は、二人展を念頭に置いて制作されているわけではないが、この「あるべくしてある」ような不思議なシナジーはどうして生まれるのだろう。今回、COVID-19の影響で来日が叶わなかったのは残念だが、ギャラリーからリタとアンドロへのショートメールインタビューを行った。

リタ・アッカーマンとアンドロ・ウェクア。ファーガス・マカフリー東京「Chapter 4」展の展示プラン話し合いの様子

 

リタへの質問

――特に近年の作品は、ウィレム・デ・クーニング、フィリップ・ガストンといった抽象表現主義の作家たちと共鳴すると指摘されています。また「Kline Rape」シリーズも制作されていますね。このような巨匠たちから影響を受けていますか?

リタ:確かに、抽象表現主義の作品に共鳴する部分は多くあるかもしれないけれど……完成してからあまり時間の経っていない自分の作品について、客観的に語るのはどうも難しいね。過去の巨匠たちの作品を導入のポイントとして再考し、制作をしたいと思うこともあるけれど、結局は一つ一つの作品が独自の道を辿っていく必要がある。

Do’s and Don’ts Nurses (Picnic at the Hanging Rock) 2009

 

――今回展示されている4作品は2つのカテゴリーに分けられると思います。1つめは「Nurses」シリーズで「DO’S AND DON’TS」というタイトルがつき、雑誌のコラージュの上に鮮やかな色が重なり、さらにその上に大胆な線やイメージたちが配されている2008年から2009年にかけての2作品。そしてもう1つのグループは「Mama」シリーズの最新作で目を見張るような鮮やかさながら、不思議と流れるような穏やかさが感じられる色の中で、女の子や人物のイメージが見え隠れする2作品。これらの作品が同じ部屋に展示されるのを見て、制作のプロセスやあり方がどのように変化・進展したと思われますか?

リタ:作品をカテゴリーに分けることはしたくないの。それぞれの作品はお互いの特徴を形作りながら有機的に発展していくものだから。私は作品を海の波のように捉えている。群をなして打ち寄せられるけれど、ひとつとして同じものはなくて、同時にそれぞれが完結している。作品も同様で、それぞれが今まで描いてきた中で最高の作品になる、というミッションを持って生み出されているの。

 

Mama Yamaka 2021

――作品「Mama, Yamaka」には(古い時代の衣類を身につけているようにみえる?)人物のイメージが見られます。Yamakaとはユダヤ教徒のかぶる帽子を意味しますね。アメリカン・アートカタログから先日出版になったスケッチブック「For Mama」に登場する古代の戦士のようにも見える人物のドローイングとも関連性があるように見えるのですが、いかがでしょうか?
リタ:そうね、各作品にはそのベースとなるドローイングが存在している。そしてスケッチブックに描かれているドローイングが、作品に描かれているイメージの源になっているわ。

 

 

アンドロへの質問
――今展には2017年以降の作品が展示されています。すべての作品はアルミニウムのパネルを支持体に、版画のシルクスクリーンの技術が使われ、それが絵画作品に強い物質性を与えているように感じます。このテクニックはいつから使い始めましたか? どのような効果を期待したのでしょうか?
アンドロ:アルミニウムパネルを使いはじめたのは2016年。今展でも見られる黄色いポートレートの作品が、初めてこの方法を用いた作品のひとつで、それ以前につくったコラージュ作品がベースになっている。僕の制作過程はいつもコラージュから始まるんだ。それは一定のステップを保ちながら、足す・重ねるというプロセスとも言えるね。アルミニウムの上にイメージが築かれていくという点はイコン画(キリスト教の聖像画。多くは金属や木の板上に描かれ、中世、現ロシアを中心に発展)と類似している。硬い表面の上に足す・重ねるというプロセスを踏む点が共通しているんだ。

LEFT: Cherry Blossoms 2020 / RIGHT: Fans 2019

――「Cherry Blossoms」「Fans」と題名が付いている作品があり、なぜこのタイトルになったのか気になります。
アンドロ:2つとも春に作ったので。

W.Portrait II 2017

――「W. Portrait Ⅱ」と「A. Portrait Back」に描かれる人物はどことなくミステリアスで、物思いにふけっているように感じます。これらは具体的にあなたが知っている人物をイメージして作られているのでしょうか。または、あなたの過去の作品がそうであるように、現実と非現実の両方が混在しているのでしょうか。
アンドロ:その両方だね。

Chapter 4

リタとアンドロがそれぞれのスケッチブックから作品を抜粋。グラフィックデザインを務めたダン・ゾルバックとともに、リズムと順を考慮して制作された。Fergus McCaffreyとCase Publishingにより共同出版。

SUPECIAL FAIR in SKWAT/twelvebook

青山の「SKWAT/twelvebook」にて、本展と連動したスペシャルフェアが開催中。『Chapter4』の他、両作家の作品集の販売、すでに絶版となっている書籍の展示などが展開されている。

Rita Ackermann, Andro Wekua : CHAPTER 4

TERM ~7月31日
PLACE ファーガス・マカフリー 東京
ADDRESS 東京都港区北青山3-5-9

Rita Ackermann

リタ・アッカーマン 1968 年、ハンガリー・ブダペスト生まれ。1990年代半ばに渡⽶、現在はニューヨーク在住。ドローイング、コラージュ、ペインティング、インスタレーションなど幅広い表現で現れる、ファンタジーと現実が混在する独特の世界は国際的評価を受ける。ソニック・ユースのサーストン・ムーアによるソロアルバム『Psychic Hearts』のカバーアートワークや、《シュプリーム》や《クロエ》とのコラボレーションなど、ジャンルを横断した活動でも知られる。

Andro Wekua

アンドロ・ウェクア 1977 年、ジョージア・フスミ生まれ。ジョージア、スイス・バーゼルでビジュアルアートを学び、現在はベルリン在住。歴史的事実、人物、動物、風景など記憶の破片のようなイメージやフィクションの世界が交錯する不安定で掴み所のない作品は、固定されたストーリーを否定しながらも、見るものの記憶や感情に直接訴えかける親密性を持つ。絵画、彫刻、コラージュ、アッサンブラージュなど様々なスタイルで生み出される作品は彼自身の経験から生み出されたイメージを取り込みながら、主観と客観の境界に現れる、曖昧で固定された定義づけをすり抜けるような歴史・個⼈史を語る。

 

Edit_ KO UEOKA (Righters).

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