Mar 25, 2020
By THEM MAGAZINE
Interview with non alcohol bar 「Bar Straw」
酒に酔わずに、気分をアップさせるノンアルコールバー「Bar Straw」。
若者のアルコール離れが話題となっている昨今、神出鬼没なノンアルコールバーが静かな人気となっている。飲食の概念に囚われない幅広い活動で、新たな集いを生み出している「Bar Straw」だ。昨年から「かもめブックス」「PIZZA SLICE」などさまざまな場所でコラボレーションしてきた。彼らがこの度新たな場として選び、毎週月火の夜営業しているのが、渋谷PARCOの1階「THE LITTLE BAR OF FLOWERS」。昼間は遊び心とセンスのある花々が揃うフラワーショップなのだが、毎週月曜と火曜の夜に「Bar Straw」はオープンしていると聞き、新たなカルチャーを探りに行った。
——ノンアルコールバーを始めたきっかけを教えてください。
もともとは渋谷にあるお茶を提供するお店で働いていましたが、どんなに味が美味しくてもお茶を1杯500円で売るのってなかなか難しいなあと思っていました。飲食業はその店が初めてでしたが、そこの繋がりでバーテンダーや料理人の知り合いができ、その方たちから、カクテルやお酒の考え方・テクニカルなことまで教えてもらいました。仕事とは関係なくただただその時間が楽しかったんです。何百年と積み重ねられたスピリッツの歴史に加えて、バーテンダーが注ぎ込んできたクリエイティビティーの歴史がアルコールにはあります。ノンアルコールにはそこがごっそり抜け落ちていると感じました。もちろんコーヒーとかお茶にも素材の素晴らしいものが揃っています。しかしカクテルのように複雑に構成されたものは少なく、クリエイティビティーが積み重なっていない。僕も永遠にお酒飲めるタイプではないこともあって、お酒じゃなくてもいいタイミングとか、お酒は飲めないけど美味しいものを飲みたいときに、使えるノンアルコール専門店がないことが不思議に思っていました。そこで周りの支えなどもあって、自分でやってみようと始めました。
——ロゴのデザインはレトロでかわいいですね。
相楽さんというアートディレクターの方に、老舗のバーのような雰囲気で作ってもらいました。今っぽくとか、スタイリッシュにというよりも、流行で終わらないという想いがデザイン的にも表れていて、とても気に入っています。
——近頃若者のアルコール離れが話題になっていますよね。
世間で騒がれているほど急に飲まない人が増えたという実感はないですね。僕らの世代はお酒を飲むのがかっこいいみたいなカルチャーが最初からなかった。飲めない子もいるし無理矢理飲ませることもなくて、僕らにとってはそれが普通だと思います。今僕が20代でこういうことをやっているのも普通というか、特別なことだと思っていません。必要なものがないので、当たり前にやっているだけです。
——ニューヨークにもノンアルコールバー「getaway」がありますが、何か参考にされていますか?
ネット上でニューヨークやロンドンのノンアルコールバーが流行していると話題ですよね。昨年11月にニューヨークへ10日間ほど行ってきました。ノンアルコールバー「getaway」にも行きましたが、実際のところノンアルコールバーが流行っている印象はなかった。そもそもノンアルコールバーは「getaway」一軒しかないんです。(2019年11月時点)ニューヨークは日本のバーカルチャーと全然違って、週末には世界トップレベルのカクテルを出すバーに若者が集まって店は溢れ、賑わっていました。基本的に混んでて入れないんですよ。そういうものを目の当たりにすると、ノンアルコールバーが流行っているという感じはしなかったし、特に参考にしたこともありません。
——ではニューヨークの飲食業界にどんな印象をもちましたか?
ニューヨークのちゃんとしたレストランやバーには、カクテルのようにこだわったノンアルコールメニューがたくさんありました。選択肢として当たり前に存在していて、それはすごく豊かなことだなと思って、そういうことを僕はやっていきたいと改めて思いました。例えばランチのワンプレートと一緒に、コーヒーや紅茶よりももっと丁寧に作られた飲み物が飲みたい層もいると思います。ランチやレストランでもそうやって飲み物の選択肢が増えたらいい。ノンアルコールのペアリングなども多くなり、美味しい飲み物の選択肢が増えてそれによって豊かにできる隙間ってたくさんあると思います。ランチからお酒を気にする人もいるし、その後仕事しなきゃいけないからお酒を飲みたくないこともありますよね。スポーツや車とか、お酒と相性が悪いシーンだって結構ある。そうした日常のあらゆるシーンにもっと多くのノンアルコール飲料をプリセットさせていきたい。ただムーブメントに消費されたくはないですね。
——日本でのノンアルコールバー市場や、今後さらにノンアルコールを広めるためにどのようなことを考えていますか?
実際に市場は広がりつつあって、ノンアルコールバーはこれから増えると思います。シーン自体が盛り上がって色々な形が出てきてほしいですね。「Bar Straw」としては今後蓋開けてすぐ飲めるプロダクトを作りたい。素材の掛け合わせから丁寧に作られた飲み物がコンビニとか自販機にあって、それを手軽に買える未来もありなんじゃないかなって思う。飲食店やカフェはノンアルコールにこだわることができないかもしれません。高級なレストランだとドリンク専門の人がいますが、普通のお店でカクテルや手間のかかる飲み物を出そうと思うとそのために人が必要になる。それはコスト的にはできないんですね。缶を仕入れて蓋開けて注ぐ形であれば、オペレーション的も簡単だし人を雇う必要もない。飲み物の可能性は限りなくあります。
——今年2月には都内だけでなく長野県にも活動を広げていますよね。今後どのようなコラボレーションを展開をし、差別化を計っていこうと思いますか?
最初は「かもめブックス」それから「笹塚ボウル」「PIZZA SLICE」などとコラボレーションを行ってきました。感度の高い人が集まるのは楽しいけど、僕は飲食の外側の人ともいろいろやりたいし、できることがたくさんあると思っていて。例えばインテリアだと廃材を燻製の材料に使ったり、人のパーソナリティーやバックグラウンドまで飲み物に反映し、表現することもできる。そういった飲食を超えた活動で可能性を見出しつつ、自分たちにしかできないことをやっていきたいですね。
——初回は神楽坂の書店「かもめブックス」で出店していましたが、感触としてはいかがでしたか?
お酒を飲んでいるのと変わらない賑わい、盛り上がりを感じました。開催するその場がどういう空気感になっているのかは毎回気にしています。その場の楽しさやワイワイする雰囲気は——ドリンクにアルコールが入っているか、いないかというだけで——変わらないんですよね。それは参加してくれた多くの方から直接耳にした嬉しい感想です。お酒が入ってないから盛り上がれないとか、その場で会った人と仲良くなれないわけではない。お酒がそういうコミュニケーションに絶対的に必要ではなくて、本当に必要なのは美味しい飲み物とその場所。そこに人が集まって楽しそうにしてくれるっていうのが肝心なんです。
——現在主な客層は20代から30代の若年層ですが、上の年齢層に向けた活動は意識していますか?
年齢層のターゲットはあまり意識していませんが、海外でも思ったよりチャンスがあって、今後ソウルとニューヨークでポップアップイベントの予定があります。
——「Bar Straw」が今後どのような存在になることを期待しますか?
世の中的にノンアルよりアルコールの方が値段高いみたいな風潮があるけど、それはいつの間にかみんなが信じているだけのこと。そもそもノンアルコールでも仕込みに時間をかけたり良い材料を使っていて、アルコールより値段が高いものも十分あり得る。なぜか常識として定着している感覚がもう少しフラットになってほしいですね。ノンアルコールを作る手間やクリエイションに対してちゃんと対価が支払われて持続可能的になることで、飲食のシーン全体が成熟してほしいし、そのひとつの構成要素に「Bar Straw」もなれたらいいですね。