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FASHION
Nov 24, 2016
By THEM MAGAZINE

VETEMENTS Interview with DEMNA GVASALIA

VETEMENTS Interview with DEMNA GVASALIA

 

デムナ・ヴァザリア 《VETEMENTS》インタビュー

 

フランス語で「洋服」を意味する言葉をブランド名に冠した《ヴェトモン》。
極端にオーバーシルエットなMA-1。
既存のブランドロゴをもとにデザインされたプリントのロゴスウェットパーカ。
色落ちの異なるものを組み合わせたかのように再構築されたデニムが、
ウィメンズのブランドでありながら、メンズを含めた世界中のファッショニスタを虜にしている。
普遍的なプロダクトに何故、最先端の「モード」を感じ、そして魅了されるのか。
《バレンシアガ》のアーティスティック・ディレクターにも任命された、
ヘッドデザイナーのデムナ・ヴァザリアにインタビューを敢行した。

 

“My feeling was telling that I have to do it, so I followed.”
「僕の心は“I have to do it”といっていたから、それに従ったんだ」

 

——《メゾン マルタン マルジェラ(現《メゾン マルジェラ》)》や《ルイ・ヴィトン》を経て、《ヴェトモン》を立ち上げたということですが、最初から自分のブランドを立ち上げたいと思っていたのですか?

 

もちろん「いつかは自分のブランドを」と思っていたけれども、こんなに早く実現するとは思っていなかったんだ。昔から考えていたこととはいえ、どちらかというと“夢”という感じだった。それが《マルジェラ》、《ルイ・ヴィトン》で仕事をしたことで、たくさんのことが開けて“夢”ではなくなっていき、「やらなくては」という気持ちに変わっていった。ブランドを立ち上げると決めたときには片手間にできるようなものではないと判り、《ルイ・ヴィトン》を辞めることにしたわけだけれど、ほとんどの人には理解不可能な行動だったみたいだ。自分の家族でさえ「そんないい仕事についていて、お給料もいいのに、なぜ!?」って(笑)。確かに理論的にはそのほうが全面的に正しいし、それも理解していたんだけれど、僕は理論より心の声に耳を傾けるタイプ。僕の心は“I had to do it”といっていたから、それに従ったんだ。

 

——でも結局は、大成功ですよね。自分としては満足していますか?

 

自分的には、一番素晴らしい決断をしたと思う。まあもちろん、この先のことはまだわからないけれども。

 

——2014年に立ち上げたのは、準備が整ったからということですか?

 

準備が整ったというよりは、他のメゾンで働いたことで充分必要なことは知った、という感じかな。ブランドを立ち上げるには、よりビジネス的な準備が必要であり、最初の2、3シーズンは色々失敗もしたけれど、そこからまた学びもあった。ビジネス関連に通じている自分の弟がブランドに参加してくれたことも、非常にラッキーなことだと思っている。彼がしっかりとしたビジョンを持っているので、会社としての構成がきちんと出来上がったんだ。


——かつて一度、2人組で《ステレオタイプス》という名前で、東京でコレクションを発表していたそうですね。

 

あはは! いやあれは、コレクションっていうよりはプロジェクトだったんだ。三宅一生氏が若いデザイナーを集めて展示会を行うということで、友達の日本人のフラットメイトが三宅氏に紹介してくれて。12の西洋のステレオタイプなスタイルを紹介するというものだったのだけど……すごい学生、アカデミックな内容だね。参加できて面白かったけれど……うーんでももう、昔のことすぎて(笑)。

——《ヴェトモン》がデビュー直後から歓迎されたのは何故だと思いますか?また、エディターやバイヤーといった関係者やエンドユーザーが《ヴェトモン》に求めていることは何だと思いますか?

 

顧客の需要は常に考えていて、例えば「このTシャツがどうして2日で完売したんだろう?」など、「どうして」を分析するようにしているのだけれど、たぶんわかりやすい“Vocabulary(言語)”があるからなんじゃないかと思う。丁度ニッチなマーケットにヒットしていて、埋められていなかった需要を受けている――コマーシャルユースでありながらも、ファッションであり、それと判りやすく、かつクールな感覚があるなど、そういった要素が重なり合って、ニーズにダイレクトに働きかけられているのではないかなと。幅広い年齢層に受けているというのもひとつかもしれない。クライアントには、20代の女の子から50代のマダムまでいる。その理由は“着られる”ものであり、難しすぎず、シンプルなアプローチであることが挙げられるんじゃないかと思う。服はあくまでも“着る”ものであり、美術館に展示するものではないと思っているから。

 

——シーズンテーマがなく、フラットなデザインチームとしてコレクションを製作しているようですが、具体的にどのようなプロセスを経てコレクションやプロダクトを製作しているのですか?

 

ブランドの立ち上げ段階から、シーズンテーマは作らないと決めてあったんだ。例えば「スクエア」とテーマを決めてしまうと、すべてはそのスクエアに沿わないといけない。でも例えば、スクエアはTシャツには良くても、パンツには難しかったりと制限されがち。だいたい人のワードローブを見たって「これらはこのテーマで」なんて分かれてなくてミックスされているよね? デザイン行程は、はっきり言って全くロマンチックなプロセスじゃないけれど、最初にするのはリストを作ること。皆で「ボンバージャケットは」「ピーコートは」「いる」「いらない」という話し合いを行って、カテゴリー別に必要なものを決める。次に、既存、ヴィンテージを問わずに服を買って解体する。僕らにとって服は3Dであることが大切なので、このプロセスを経てから2D、イラストに起こすんだ。その後のチームでの議論も非常に大事。僕だけじゃなく、皆の意見を総合して生み出されている。このブランドがうまくいっているのは“オブジェクティブ”な視点があるからだと思っているんだ。

 

——では、例えば5:5になった時はどうするんですか?

 

その時こそ、僕の出番だろうね。僕がジャッジする。といっても、まだ一度もそんな場面はなかったけれど(笑)。だいたい、9:1ぐらいで決まるから。

“For me, Vetements is very much about “Love”. I started this brand with love, and love for clothes and for this job…”
「僕にとって《ヴェトモン》は……LOVEかな。このブランドを、愛を持って始めたし、この仕事に対して、そして服への愛情」

——昨シーズン(2015-16A/W)では《THRASHER》、2016S/Sでは「DHL(運送業者)」、また《champion》など、ロゴをモチーフにしたアイテムが登場しています。こうした実在するロゴを使用することにはどんな意味が込められているのですか?

 

《スラッシャー》や《チャンピオン》のロゴは今の世代のアイコンで、その書体を見たら誰でもそのロゴだとわかるし、その裏にあるメッセージが非常に明確だから使った。《DHL》は、その頃本当に毎朝毎朝DHLが届きDHL症候群みたいになっていたため「DHLはもはや自分たちの生活の一部だな」ということになり、じゃあ使えるか電話してみよう、となったんだ。

 

——セックス・クラブや中華料理店といった会場、Clara 3000によるランウェイミュージックなど一風変わった演出も《ヴェトモン》の世界観をより強く反映していると思います。そういった場所を会場に選んだり、彼女のようなDJを起用する理由は何ですか?

 

Clalaは友達で、昨日もちょうどオフィスに来てくれてプレイしてくれたんだよ。彼女の音楽は絶対自分たちにぴったりだとわかっているから、例えばショーの前日まで音楽が決まってないなんてことしょっちゅうなんだけれど、急遽お願いしても結果は“Wow!”ということになる。セックス・クラブを会場にしたのは、現実的な問題として安かったし空いてたから(笑)。でも僕らは常にオーセンティックなものを求めていて、あの場所はすごくパリらしいと思ったからでもある。お洒落なレストランとかのように“シックなフリ”をするのではなく”すごくリアルなところがいいと思った。

 

——《ヴェトモン》を一言で形容するとしたら何ですか?

 

一言……うーん……僕にとってヴェトモンは……LOVEかな。このブランドを、愛を持って始めたし、この仕事に対して、そして服への愛情。

 

——デザインチーム名義や、ショー会場、構築的なシルエットやディテールなど、メンバー全員の古巣でもある《メゾン マルタン マルジェラ》の影響が強く表れています。自身のクリエイションにとって《マルジェラ》というメゾン、または一人のデザイナーとしてマルタン・マルジェラ本人はどんな存在ですか?

 

マルジェラは川久保玲やヘルムート・ラングのように現代ファッションに影響を与えた天才だと思う。彼のところで働いたことで、クリエイティブなアプローチや、服は服であって、着られるものであるべきということを学べた。そして、服に対して恋すること、リスペクトを持つ、そういった気持ちも知ったと思う。

 

——では《ルイ・ヴィトン》で学んだことは何ですか?

 

逆に全く違うことを学んだね。ラグジュアリーで、技術、資金面などにおいてなんでもできる状況で、マーク・ジェイコブスやニコラ・ジェスキエールとも短い間だが仕事ができて、学ぶことも多かった。ただ、感覚としては僕と全く違うので、《ルイ・ヴィトン》で働いて一番よかったのは「自分のブランドを絶対作らなくては」と思えたことかな(笑)。

 

——《マルジェラ》での経験がなければ、《ヴェトモン》はまったく違ったものになっていたと思いますか?

 

もちろんそう。でも、それを言えば、アントワープに行かなかったら違っただろうし、《ルイ・ヴィトン》で働かなくてもそうで、今までの全ての積み重ねがあるから今の《ヴェトモン》が成り立っている。どれをとっても欠けていたら、今とは違うものだったと思う。それに《ヴェトモン》は僕だけのものじゃないから。最初のシーズンから今までを見たら、その変化をわかってもらえると思う。非常に客観的で、パーソナルなブランドではないから、時と共に進化し続けるものなんだ。

 

——アントワープ王立芸術アカデミーでは、メンズウエアを学んでいたそうですが、レディスのブランドとして立ち上げたのは何故ですか?

 

卒業してからヴォルター・ヴァン・ベイレンドンクのところで働いてメンズウエアを作ったけれど、知っているとおりあのブランドはかなりクレイジーなデザインも作るが、それでもかなり制限があるなと感じた。もっと色々発見をしたいと思い、興味本位でウィメンズを始めたという感じかな。まあ、正直言ってちょっとメンズには飽きていたところもある。

 

——今後、メンズ単独での発表をする可能性はありますか?

 

実は3月のコレクションでは、メンズを発表するんだ! レディスと一緒になんだけれども。

 

——それは楽しみです! “オーバーサイズ”は《ヴェトモン》の大きな特徴だと思いますが……

 

3月までは、ね(笑)。でも、オーバーサイズはヒップホップなどの影響で昔から好きで、《ヴェトモン》のDNAの一部だと思うから、今後もいくつかのアイテムでは取り入れるけれど、でも3月からは短い袖が出て来たりするよ。

 

——《ヴェトモン》には、ストリートカルチャーの要素が見られますが、自身の価値観やクリエイションに大きく影響を及ぼしたカルチャーはなんですか?

 

ヒップホップ、スポーツ……全部かな。90年代のレイヴパーティに来てた人たちとそのスタイルとか……すべてがミックスされていると思う。

 

——それは子供の頃からですか?

 

子供の頃はそんなものが存在するって知らなかったよ、環境的に。ソヴィエトが崩壊した14歳の時に、突然世界が開けたんだ。そりゃもうびっくりして、すべてを消化するのに大変だったよ。すごく大きなインパクトで、そして今でも僕をインスパイアし続けている。

 

——自分でも《ヴェトモン》をよく着ていますか? 普段のワードローブは?

 

Tシャツやフーディはよく着るけれど、3月以降はもっと色々着るようになるだろうね。普段はTシャツとスウェット、あとは501が多い。(《リーバイス®》の)501は色違い、ウォッシュ違いで25本は持ってる。僕は半年ぐらい同じ格好でいるタイプ。自分がコンフォータブルであれば、何を着なくちゃいけないかとかで煩わされたくないんだ。Tシャツはヴィンテージのを色々持っているけれど、別にレアなものとかじゃなくて、その辺のヴィンテージショップで2€ぐらいで買うようなものばかり。でもそれが最終的にコレクションのソースとして登場したりすることもあったりするけれどね。

 

——《ヴェトモン》が男女問わず支持を得ていることからもわかる通り、現代のファッションにおいて“ジェンダーフリー”というのが、一つのメインストリームになっています。こうした状況をどのように分析していますか?

 

自然な必要性から生まれたトレンドだと思う。ただ、僕は立体感にこだわりがあるから、ユニセックスというものはあまり評価していない。もちろんフーディやTシャツならありだけれど、例えばユニセックスのパンツはあり得ない。男と女では身体の造りが違うし、僕らにとっては着心地の良さが大切なのであって、ジェンダーフリーの裏側にあるステートメントには興味がないから。

 

——現在、モードファッションはストリートのスタイルから大きな影響を受けていると言えますが、こうしたシーンについてはどう思いますか?

 

それも自然の成り行きだと思う。僕がインスピレーションを得るのも、スーパーや店で見かけた女性のコートだったりする。普段の生活を観察して、そこからヒントを掴む。でも最近ストリートがトレンドとなっているのは、より多くの人にaccessibleだからだと考えてられているからだろう。でもそれでは正直足りていなくて、本当に必要なのはストリートカルチャーに対してどう真っ向に取り組むか。街で見かけるのと同じようなフーディでいながら、どこまで人を惹き付けられるかどうか。それこそがチャレンジだと思う。

 

——カニエ・ウエストからG-DRAGONなどが《ヴェトモン》を着用しているのも取沙汰されています。こうしたティーンにとってのファッションアイコンから支持を得ていることをどう思いますか?それがブランドにとってプラスになっていると思いますか?

 

彼らは顧客ではあっても、こちらからアプローチしたわけではない。そのファンが《ヴェトモン》を着ても、それは彼らに憧れているからであって、《ヴェトモン》を評価したからではないし、正直こういったメディアへの出方は、イージーすぎて、あまり嬉しくない方法だと思っている。もちろんビジネス的にはありがたいけれど、それよりも、カニエはどうしてこの製品が好きなのか、どんなアティチュードを感じているのか、そういったことを理解することのほうが大切だと思うしね。僕らの服は強さがあるから、別にビヨンセに着せてアピールする必要はないんだ(笑)。

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