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ART
Sep 17, 2021
By THEM MAGAZINE

「水」がもたらす内省の時間

「水」がもたらす内省の時間

 

水というのはなんとも不思議な現象だ。あるときは固体、あるときは気体になり、雨や川にも姿を変え、透き通っていながら反射もする。アメリカの現代美術を代表するアーティスト、ロニ・ホーンによる作品は「水」を想起させるものが多い。そもそもテムズ川の水面やアイスランドの温泉、水鏡を思わせるガラスなど、直接的に水に結びつくモチーフがありつつも、それ以上に、作品の削ぎ落とされたシンプルさがもたらす多義性こそが、ロニ・ホーンに感じる「水」の正体である。

 

神奈川・箱根の「ポーラ美術館」で開催される本展は、作家にとって国内の美術館では初となる個展だ。1980年から昨今の作品まで、40年にわたる活動の軌跡を余すことなく紹介する回顧展となる。自然をモチーフにした作品を多く手がけてきたロニにとって、国立公園内にあり豊かな自然に囲まれた「ポーラ美術館」はうってつけの展示場所だといえよう。

『あなたは天気 パート2』(部分) 2010-2011年

見所のひとつとして、近年の代表作である『ガラス彫刻』シリーズが挙げられる。巨大なガラスの塊は、ひたひたに満ちた水を錯覚するほどの透明度を誇り、ひとつ1トン、大きいものだと5トンもの重量になるそうだ。自然光の差し込む屋内スペースと野外遊歩道に計9点が設置され、変わりゆく風景の光を吸収・発散しながら見る者を引き込んでいく。

 

作家の代表作とも呼ばれる『あなたは天気』シリーズは、好んでよく訪れるというアイスランドの温泉にて、6週間にわたって撮られた同一女性のポートレート作品。今展では100点ものポートレートがスペースの四方をぐるっと取り囲むように設置されるという。天気のごとく移り変わる一人の女性の表情には、「連続と差異」という作家の追い求めてきたコンセプトが強く感じられる。そのほか、ドローイングや水彩のテキストをカットしコラージュした大型作品『または6』や、アルミニウムの棒にプラスチックの文字で、詩人エミリ・ディキンスンの詩を引用した『エミリのブーケ』など、メディアや手法にとらわれずに一貫した制作を続ける姿も紹介される。

『鳥葬(Cairngorms, Scotland) 』2014-2017 / 『エミリのブーケ』(部分)2006-2007年

本展のタイトル「水の中にあなたを見るとき、あなたの中に水を感じる?」が示唆するとおり、上から水面を覗いたとき、反射する自分の姿(外面)だけでなく、人間の身体の大部分を占める水(内面)まで見通せるのだろうか。水のようなロニ・ホーンの作品と対峙するとき、それまで気がつかなかった自分がうつしだされるかもしれない。

水の中にあなたを見るとき、あなたの中に水を感じる?

TERM 9月18日~2022年3月30日
PLACE ポーラ美術館
ADDRESS神奈川県足柄下郡箱根町仙石原小塚山 1285
OPENING HOURS 9:00-17:00
URL polamuseum.or.jp/sp/roni-horn

Roni Horn

ロニ・ホーン 1955年生まれ、ニューヨーク在住。写真、彫刻、ドローイング、本など多様なメディアでコンセプチュアルな作品を制作。近年の主な個展は、ポンピドゥー・センター(パリ、2003年)、テート・モダン(ロンドン、2009年)、ホイットニー美術館(ニューヨーク、2009-2010年)、バイエラー財団(リーエン、 スイス、2016年、2020年)、グレンストーン美術館(ポトマック、アメリカ、2021年)などで開催。

© Roni Horn

Edit_KO UEOKA.

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