Them magazine

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CULTURE
May 19, 2023
By THEM MAGAZINE

LP RECORD JACKET COLLECTION Vol_01

手元に置いて眺めても良し、針を落として聴いても良しのレコード。

「過去から最新のモノ」へと大逆転したメディアだが、残念ながら1990年代以前のLPの価格も急騰。手軽に聴けなくなっている。そこで編集部では、独断と偏見で「目と耳で満足させられるLP」を定期的に紹介。あらゆる手を尽くして入手したいヴュジュアルコレクションだ。

 

 

 

 

Spiritualized® Ladies and gentlemen we are floating in space (1997)

1990年代、音楽業界はCD全盛期。レコード会社はCD制作に力を入れ、レコードを作らなくなった。多くの人がレコードやテープを捨て、こぞってCDを買った。そんな中、元スペースメン3(※1)のメンバーだったジェイソン・ピアース率いるイギリスのサイケデリックロックバンド、スピリチュアライズドは1997年に市場から見放されたレコードをCDと共に発売した。

このアルバムのアートワークは医薬品がコンセプト。バンド名にはレジスターマークをつけ、LPの枚数を”2 tablets”と表記している。このレコードに同封されているライナーノーツは医薬品の添付書にそっくりだ。

このジャケットで個人的に注目してほしいポイントは書体。通常、サイケデリックという言葉で頭に浮かぶのはカラフルで歪んだイメージを想像するが、このバンドはあえて、古くからあり一番スタンダードで洗練されていると知られる、ゴシック体のヘルベチカにこだわっている。

CD限定版では、プラスチックケースではなく紙製のBOXパッケージを使用。薬を密閉するPTPシートを模したものにディスクが密封されており、開封するのが惜しい仕上がりだ。去年にリリースされた『Everything Was Beautiful™』ではジャケットを切り取るとピルボックスを作ることが出来るという手の込んだ工夫も。

デザインクレジットにはイギリスのデザイン会社Farrow Designとジェイソン・ピアースのアーティスト名であるJ・スペースマンと記載。彼はアートワークに対して自身の考えをかなり入れ込んでいる。なお初期メンバーはジェイソン・ピアース以外脱退しており、彼がスピリチュアライズドのフロントマンだ。

 

またジェイソン・ピアースと下記で紹介するリチャード・アッシュクロフトには因縁がある。

リチャード・アッシュクロフトはスピリチュアライズドのキーボード担当でもあり、ジェイソン・ピアースの恋人だったケイト・ラドリーを略奪して結婚。ショックを受けたジェイソン・ピアーズが薬物への逃避の末に生み出されたのがこのアルバム。収録曲の「Broken Heart」はケイト・ラドリーとの破局が色濃く影響している。

 

 

 

 

 

the verve URBAN HYMNS (1997)

1997年にリリースされたザ・ヴァーヴの『URBAN HYMNS』は、1度目の解散後の再結成アルバム。全英で12週連続一位の大ヒットとなった。解散中、ボーカルであるリチャード・アッシュクロフトが一人でこのアルバムの製作を進める中、ギタリストであり作曲パートナーのニック・マッケイブが必要となり二人は和解した。

リチャード一人での作曲期間が結果、ピアノやストリングスといった要素を取り入れるきっかけとなり、かつてのザ・ヴァーヴでは考えられなかったようなバラッドや、ポップ・チューンが生まれた。このアルバムのリード曲として発表された「Bitter Sweet Symphony」は、ローリングストーンズの「The Last Time」のストリングスを無断サンプリングしたとしてザ・ヴァーヴはこの曲の著作権料を取り上げられたほか、作者クレジットも変更させられた。

このアルバムのアートワークはクリエイティブ集団マイクロドットを率いるデザイナー、ブライアン・キャノンとフォトグラファーのマイケル・スペンサー・ジョーンズのタッグで製作。

本作のジャケットである左端のニック・マッケイブだけ右方向をみていることからバンドの不仲説が囁かれたが、実際は撮影中に飽きて野原でダラダラし始めたバンドメンバーをマイケル・スペンサー・ジョーンズが試し撮りした一枚だという。この二人のタッグは、90年代のオアシスのアートワークもすべてが手掛けている。1993年にリリースされたザ・ヴァーヴ の『A Storm in Heaven』のアートワークもこのタッグが担当しており、二人を起用したのがオアシスより一年早いことから、同郷でリチャードと仲のいいギャラガー兄弟が真似したのではないかとの噂も。

 

 

 

 

THE FLAMING LIPS The Soft Bulletin (1999)

アメリカのサイケデリックバンドであるザ・フレーミンクリップスは1999年に『The Soft Bulletin』をリリース。99年当初はCDのみの販売で、2002年に初めてアナログを発売した。

このアルバムはギターリスト脱退後のアルバムであり、従来のガレージバンド的な音作りから壮大でシンフォニクスな世界観を展開させ、メインストリームにフレーミンクリップスの名を広めた。黄色と青の反対色に真っ黒な影が忍び寄るアートワークはこのアルバムの煌びやかな愛らしさとメランコリーな面を見事に表現している。

このアルバムの個人的おすすめは「Race For The Prize」。シンセ・ストリングスのメロディーラインにウェイン・コインの寝起きのような頼りない歌声が聞きどころ。

 

 

 

 

Mercury Rev Deserter’s Song (1998)

マーキュリーレヴもまたアメリカのニューヨーク州出身のサイケデリックバンド。初代ボーカル、デヴィット・ベイカーが脱退後、ジョナサン・ドナヒューがボーカルに代わり、初期の奇妙と言われるほど爆音でノイズを多用した実験的な音作りからオーケストラ楽器が主役となりメロディアスな雰囲気と変わる。1998年にリリースされたこの『Deserter’s Song』が世間から注目を浴びるきっかけとなった。

このアルバムのタバコを吸っているであろう男性はアメリカの歌手であるケビン・セーラム。薄暗い中、ライターの僅かな温もりを感じさせるこのジャケットは孤独で叙情的な彼らの世界観を表現している。

マーキュリーレヴのベーシスト、デイブ・フリッドマンはザ・フレーミンクリップスのプロデューサーとしても活躍。彼は奥行きや広がりのある音が特徴的でこれまでにモグワイ、テーム・インパラ、エム・ジー・エム・ティーや日本のアーティストである ナンバーガール、アートスクールなど世界中のアーティストの楽曲のプロデュースを手掛けている。

 

 

 

 

 

THE JESUS AND MARY CHAIN PSYCHOCANDY (1985)

1985年に発売された『PSYCHOCANDY 』はイギリスのロックバンド、ジーザス&メリーチェインのデビューアルバム。1980年代、まだシューゲイザーというジャンルが確立していなかった頃、彼らは甘いポップソングにノイズを掛け合わせた楽曲をリリース。このアルバムはパンクムブーム後の新しい音楽に飢えていたリスナーに衝撃を与え、ライブでは暴動が起きるほど熱狂的支持を掴んだ。

本作のレコードジャケットを実物で見るとうっすらとノイズが入っている。ジーザス&メリーチェインのアートワークのほとんどがビデオモニター越しに撮影されたもので、特に初期の赤と黒のタイポグラフィにフレームで囲われたジャケットスタイルは彼らのイメージを特徴付けた。

 

初代ドラマーが脱退後、ドラムのサポートとして手を挙げたのがプライマル・スクリーム(※2)のボビー・ ギレスピー。彼はドラムが叩けなかったため、使用しているのはタムとスネアだけ。このアルバムのリード曲でもある「Just Like Honey」ではボビー・ ギレスピーが後ろで立ったままタムとスネタを気怠そうに打っている。

なお、この曲は2003年東京を舞台にしたソフィア・コッポラの映画「ロスト・イン・トランスレーション」のサントラに起用され、日本でもジーザス&メリーチェインが知られるきっかけになった。

 

 

 

THURSTON MOORE ROOT(1998)

1998年にリリースされた『ROOT』はソニック・ユースのリーダーでありギタリストのサーストン・ムーアのソロアルバム。彼が即効で演奏したギターの1分間のテープを、様々なアーティストがリミックスしたこのプロジェクトは、コラージュのような実験的な作品。サーストン・ムーアが“好きにしてみて”とテープを送ったアーティストの中には、デレク・ベイリー、ブラー、ステレオラブ、モグワイなどのギターリスト25名が参加している。

このジャケットはレコード版のデザイン。Lo Recordingsからリリースされたこのレコードのアートワークは、舌を出したサーストンムーアの写真に当てはめるように、絶妙な位置でグラフィックとタイポグラフィーが組み込まれている。写真とタイポグラフィーの双方のバランスの取れたデザインはUSアーティストのジャケットデザインとしては珍しく、イギリス出身のデザイナー、ジョン・フォルス(※3)が参加していることが理由の一つかもしれない。

 

ソニック・ユースのアルバムジャケットには、キム・ゴードン(※4)が美術を学んでいたこともあり、ゲルハルト・リヒター(※5)、マーク・ボスウィック(※6)、リチャード・プリンス(※7)などの世界的有名なアーティストの作品を多数使用している。

自由で束縛のないアメリカと、伝統的なデザインルールを持つイギリスのレコードジャケットに注目して見比べて見てるのも面白い。

 

 

 

 

(※1)スペースメン3:アート・カレッジで出会ったジェイソン・ピアース(J・スペースマン )と、ピーター・ケンバーを中心にイギリス・ラグビーで結成された。ガレージロックやサイケデリックの色の強いサウンドはジーザス&メリーチェインと比較される。薬物問題とバンド内の不和もあり、1991年の『Recurring』発表後にそれぞれが別のバンドで活動し、解散。

 

(※2)プライマル・スクリーム:1982年にボビー・ギレスピーとジム・ビーティを中心にスコットランドのグラスゴーで結成されたロックバンド。『Screamadelica』ではダンスミュージックをはじめ、サイケデリックやブルースロックまで多様な音楽性を飲み込んだアルバムは代表作となった。彼らはアルバム毎に変化を続け、ジャンルに捉われない楽曲を発表し続けている。

 

(※3)キム・ゴードン:アメリカのオルタナティブ・ロックバンド、ソニック・ユースのベーシスト兼ボーカル。また、ファッションブランド《X-girl》の立ち上げ時のデザイナーを務めた。バンド結成時からサーストン・ムーアと交際し1984年に結婚。のちに2011年に離婚し、バンドも解散。

 

(※4)ジョン・フォルス:イギリス出身のデザイナー。グラフィックデザインスタジオ、「NON-FORMAT」を設立し音楽、アート、ファッション、広告など幅広い分野でアートディレクション、イラストレーションを手掛ける。2006年、2008年にはTOKYO TDCの一般部門にてTDC賞を受賞。現在は、ミネアポリスとノルウェオスロの2カ所に拠点を置く。

 

(※5) ゲルハルト・リヒター:ドイツ・ドレスデン出身。1932年に生まれ、今年で91歳を迎える現代アーティスト。新欧州絵画の先駆けであり、「ドイツ最高峰の画家」と世界から注目を集めている。ソニック・ユースの『Daydream Nation 』のジャケットデザインに彼の作品が使用されている。

 

(※6) マーク・ボスウィック:1966年ロンドン出身、ニューヨーク在住の写真家。《マルタン マルジェラ》や《コム デ ギャルソン》とのコラボレーションなど務め、ファッション・アート写真家として名高い。近年では映像やインスタレーション、音楽や詩などにも表現の幅を広げている。ソニック・ユースの『A Thousand Leaves』のジャケットデザインに彼の作品が使用されている。

 

(※7) リチャード・プリンス:広告写真などを再撮影する、アプロプリエーションという方法で知られるアメリカの写真家・画家。ソニック・ユースの『Sonic Nurse』のジャケットデザインに彼の作品が使用されている。

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