Them magazine

SHARE
MUSIC
Aug 01, 2023
By THEM MAGAZINE

LP RECORD JACKET COLLECTION Vol_04

ヴァイナルは、聴くだけでなくジャケットを部屋に飾る楽しみ方もある。

もしジャケットに一目惚れしたなら、携わっているヴィジュアルチームのクレジットをチェックしてみてほしい。どんなアーティストがどんなレコードに携わっているか、発見するのも楽しみの一つだ。

 

前回に引き続き、編集部が独断と偏見でセレクトした「目と耳で満足させられるLP」を紹介するRECORD JACKET COLLECTION Vol_04。

 

 

NINE INCH NAILS  / The Fragile (1999)           

無機質なビート、ノイジーで実験的かつ挑発的なサウンドのインダストリアル・ロックは、聴く人もシチュエーションも選ぶであろう、賛否が分かれるジャンルだ。

このジャンルの中で商業的な成功を収めたナイン・インチ・ネイルズは、首謀者であるトレント・レズナーのダークで破滅的なサウンドが、意外にも90年代の幅広い世代に受け入れられた。

ナイン・インチ・ネイルズの名盤として語られるアルバムは『The Downward Spiral』だが、この企画で是非とも紹介したい一枚は、世紀末の年にリリースされた『The Fragile』だ。

 

このアルバムジャケットは、1992年に創刊された伝説の音楽カルチャー雑誌『RAY GUN』のアートディレクター、デヴィッド・カーソン(※1)が手掛けている。

アルバム名である『The Fragile』の文字は、裏面に小さく表記。ナイン・インチ・ネイルズのロゴの上に、自身が撮った写真を重ね、NINのロゴは頭部分しか見えてない。一見アーティストが誰のか分からないが、自由で枠にハマはまらないなんともデヴィッド・カーソンらしいアートワークだ。レコード3枚組+カーソンによるヴィジュアル(歌詞)ブックもついた、分厚いアナログレコードは存在感抜群である。

 

トレント・レズナーは、ナイン・インチ・ネイルズ以外に、近年サウンドクリエイターとしても名が高く『ソーシャル・ネットワーク』や『mid90s』、『waves』などのいくつかの映画のサントラを手掛けている。

mid90s』の冒頭、主人公スティーヴィーが兄のイアンの部屋にこっそりと入るシーンとともに流れる楽曲で、一気に作品に引き込まれた人も多いのではないだろうか。あの不穏な音から徐々に変化する美しいメロディー、登場人物の感情を表現したインストサウンドは、細部にまで固執した音作りのこだわりを持つ、これぞトレンド・レズナー様!としか言いようがない。

 

 

(※1)デヴィッド・カーソン:グラフィックデザイナー兼アートディレクター。プロサーファーとして活動した後、『サーファーマガジン』や『ビーチカルチャー』といった雑誌のアートディレクターを務める。デザインを学んだ事がなかった彼だが、これまでにない自由で個性的な発想は『RAY GUN』創刊時のクリエイティブディレクターに抜擢される。決して読み易いとは言えない自由で斬新なタイポグラフィー、型破りで実験的なデザインは世界中に今もなお影響を与えている。

 

 

 

Frank Ocean / blond (2016)

フランク・オーシャンの最新のニュースといえば、今年4月に行われたコーチェラのヘッドライナーの件。約6年ぶりにパフォーマンスをした彼だが、1週目のライヴは1時間遅れで開始、翌週のパフォーマンスは辞退という形で終わった。会場でのリハーサル中に乗っていた自転車で、足首の怪我をしたことが原因だとか。何かと注目の的となる彼だが、この上記の写真のレコードもファンの中で大きな話題となった。

 

blond』がリリースされた3ヶ月後の1125日のブラックフライデーに、フランク・オーシャンは《XL Recordings》(※2)から『blond』の限定版LPをなんと24時間限定で、自身のWEBサイトboysdontcry.coで販売。通常版の白の背景にフルカラーのデザインとは異なり、モノクロ写真にブラックの背景ヘと変わり、タイトルも心なしか小さくなり字詰めされている。このブラック・フライデー盤は、今やオークションでは10万円以上で取引されるプレミアヴァイナル。今後もっと価値が上がり、手に入れづらくなること間違いなしだ。

 

このジャケットのカバー写真を撮ったのは、ドイツ人フォトグラファー、ヴォルフガング・ティルマンス。90年代から写真家として多大な功績を残している彼だが、ミュージシャンとしても活動している。『blond』とほぼ同時リリースされたヴィジュアル・アルバム『endless』では、ヴォルフガング・ティルマンスの楽曲である「device control」を提供するほど、二人はクリエイティブにおいて親密。

またバックカバーのヘルメットを被ったフランク・オーシャンの写真を取り下ろしたのは、ファッションフォトグラファーのヴィヴィアン・サッセンと豪華なメンバー。この写真がモノクロで、カヴァージャケットとなったCDもブラックフライデー限定で発売された。

 

この『blond』以降アルバムをリリースしていないフランク・オーシャンだが、コーチェラのMCでは(次の)“アルバムが存在しない訳ではない”と意味心な言葉を残した。新しいアルバムがいつになるか定かではないが、リリース時の売り出し方含め、何かと気になってしまうアーティストだ。

 

 

(※2)XL Recordings1989年に設立したイギリスのインディー・レーベル。当初はダンスミュージック中心だったが、ザ・プロディジーの世界的成功を機に、レディオ・ヘッド、アデル、シガー・ロス、ザ・エックス・エクッス、などビッグネームアーティストも数多く所属する、現代の音楽シーンには欠かせない重要かつ最大級のインディー・レーベルとなっている。

SHARE