Nov 25, 2025
By THEM MAGAZINE
COMING UP Vol.04_04 『ジェイムズ』by PERCIVAL EVERETT
『ハックルベリー・フィン』への痛烈で抱腹なカウンターパンチ!
これは、面白い! 全米図書賞とピュリツァー賞のダブル受賞という快挙も納得だ。A・ヘミングウェイが「今日のアメリカ文学はすべて『ハックルベリー・フィンの冒険』という一冊の本から生まれている」と語ったその名作の、誰も想像すらできなかった驚くような続編。日本では2025年6月末に初版が出て、2カ月で3刷。出版不況下でのスマッシュヒット作である。アメリカの白人社会の中で、奴隷として生きるしかなかった黒人たちが放った逆転満塁ホームラン的な痛快な逃亡劇。あのハックルベリーとともに、ミシシッピ川を下る逃亡奴隷ジェイムズが今作では主人公となる。今も根強く残ると思われるアメリカの黒人差別を強烈に皮肉りながらも、その絶対的で不条理な現実を、クールな頭脳とタフな魂でサヴァイヴしていくジェイムズ。愛する妻と娘のために、どんな過酷な苦境に遭っても決して折れない心は、川を下る速度よりも速くページを捲らせる。「次はどうなるんだろう?」という冒険活劇の本流に心地よく身を任せながらも、時に大きく頷かされる“人生訓”の砂州に寄りながら、逃亡劇はクライマックスへと進んでいく。登場する白人の多くが詐欺師、偽善者、暴行魔の鬼畜ばかりの中で、ピュアな心を持っているのは相棒の少年ハックルベリーだけ、というファンタジーにも救われる。エンディングで放つジェイムズ一言はアメリカ文学史に残る「名台詞」だろう。著者の次回作が早く読みたい!
パーシヴァル・エヴェレット 1956年生まれ。アフリカ系アメリカ人作家。南カルフォルニア大学卓越教授。著書に『Dr. No』(全米批評家協会賞最終候補、PEN/ジーン・スタイン図書賞受賞)、『The Trees』(ブッカー賞最終候補)、『Telephone』(ピュリツァー賞最終候補)、『So Much Blue』、『I Am Not Sidney Poitier』などがある。小説『Erasure』を原作とした映画『アメリカン・フィクション』が2023年に公開され、アカデミー賞脚色賞を受賞。本書は全米図書賞、ピュリツァー賞、英国図書賞など数々の文学賞を受賞した。妻で作家のダンジー・セナや子どもたちとともにロサンゼルス在住。
きはらよしひこ 1967年生まれ。京都大学文学部卒業。同大学院文学研究科修士課程・博士後期課程修了。博士(文学)。大阪大学大学院人文研究科教授。英米文学研究者。翻訳家。著書に『実験する小説たち—物語るとは別の仕方で』(彩流社)、『アイロニーはなぜ伝わるのか?』(光文社新書)、リチャード・パワーズ『オーバーストーリー』、アリ・スミス『両方なる』(ともに新潮社)。ジャネット・ウィンターソン『フランキスシュタイン』(河出書房新社)、エヴァン・ダーラ『失われたスクラップブック』(幻戯書房)などがある。
Photography_TORU OSHIMA.
Text_TORU UKON(Righters).