Them magazine

SHARE
BOOK
Mar 13, 2026
By THEM MAGAZINE

COMING UP Vol.06_03 『いろは』by 北井一夫

作風の根底にある“反抗”を、過去の己にも突きつける

¥9,350(twelvebooks)

日本を代表する写真家のひとりである北井一夫、81歳。彼が写真を撮り始めてから60年が過ぎた。

 

「何をどう撮るか考えるその根っこには、いつも反抗があったような気がする」。カバー裏に掲載された北井によるエッセイには、これまでの作品や撮影に対する気持ちの変化、本作『いろは』の制作の裏側が綴られている。

 

学生運動に参加する若者たちと4カ月寝食を共にして撮影した初期の作品群や、新東京国際空港建設反対闘争を取材した『三里塚』、農村に生きる人々の日常をとらえた『村へ』など、時代と向き合いながらドキュメンタリー写真を撮影し続けてきた北井。シャッターを押そうとすると過去に撮った風景の写真の残像がちらつき、写真を撮るのが億劫になったという氏は、「どうにもならないので、目の前を通り過ぎる私の過去の写真のオリジナルプリントを破くことにした。破くことで気が晴れて新しい写真のことを考えるようになると思ったのだ」と本作制作のきっかけをエッセイに綴る。

 

『いろは』に収録されているのは、氏の写真の始まりとなった学生運動の写真群。破かれたそれらには絵の具が塗られ、新たな息吹がもたらされた。北井の写真の始まりと、新たな作風、転機の始まりを示す本作。物事の基礎や初歩を表す『いろは』をタイトルにつけ、作品はただ絵の具で塗る以外に、『い』『ろ』『は』の文字や『一』『二』『三』などを書いた。

 

反抗や抵抗が自身の作品の根底にある北井は、破いたプリントに絵の具を重ねる行為で過去の己にも反抗を突きつける。北井の2つの“はじまり”を垣間見ることができる本作は、書籍のかたちをとったマニフェストだ。

北井 一夫

1944年、中国・旧満州生まれ。学生運動が盛んな1960年代前半から写真を撮影し始める。1965年、日本大学芸術学部写真学科を中退し、横須賀港の原子力潜水艦寄港反対闘争をテーマとした写真集『抵抗』を自費で出版。1972年、第22回日本写真協会新人賞受賞。1976年、シリーズ『村へ』で第一回木村伊兵衛写真賞受賞。2013年に日本写真協会賞作家賞受賞。

 

Photography_TORU OSHIMA.
Text_NONOKA FUJIWARA(Righters).

SHARE