May 22, 2026
By THEM MAGAZINE
COMING UP Vol.07_05 『AMERICAN STORIES』by ROSTAM
ルーツの摩擦から生まれた新しいアメリカーナ
元ヴァンパイア・ウィークエンドのロスタムが、5年ぶりとなるソロ3作目『American Stories』で、これまで以上に深く自身の内側へと踏み込んだ。ハイムやクレイロ、カーリー・レイ・ジェプセンらを支えてきた卓越したプロデューサーとしての手腕はすでによく知られているが、本作で彼が差し出すのは、他者の物語ではなく、自らの出自と感情、そしてアメリカという国の複雑な輪郭そのものだ。とりわけ印象的なのは、アメリカーナの語法と、ペルシャ音楽に由来する旋律や響きとを正面からぶつけている点だろう。アコースティック・ギターやペダル・スティール・ギターの親密な肌触りに、サズの微分音的なニュアンスが差し込まれることで、耳あたりのよさだけでは終わらない微細な緊張が生まれる。その“摩擦”こそが、本作の核にある。異なる文化的背景を無理なく溶かし合わせるのではなく、むしろ完全には重ならない感覚ごと音楽に封じ込めることで、ロスタムはイラン系アメリカ人としての実感をきわめて個人的なかたちで音にしてみせた。クレイロやトビアス・ジェッソ・Jr.らの参加、さらには精緻なミキシングとマスタリングが、その内省を過剰に飾ることなく支えているのも見事だ。逆さまのアメリカ国旗を用いたカヴァーアートが示す通り、ここで問われているのは自己表現にとどまらない。ひとつの記号が立場によって異なる意味を帯びるように、この作品はアメリカという場所の断絶と重なりを静かに照らしていく。本作はルーツを探る作品というより、その揺らぎを抱えたまま前に進むための記録ともいえる。ロスタムはここで、自身のキャリアを更新しただけでなく、いまの時代における“個人的であること”の切実さを、まっすぐに鳴らしている。
【リリース情報】
アメリカン・ストーリーズ
ARTIST ロスタム
RELEASE DATE 2026年5月15日
LABEL Big Nothing / Ultra Vybe
URL bignothing.net/rostam.html
ロスタム イラン系アメリカ人のシンガーソングライター、プロデューサー、作曲家、マルチプレイヤー。ヴァンパイア・ウィークエンドの元メンバーとして知られ、脱退後はソロ活動とプロデュースワークを本格化させた。ハイムやクレイロらの作品を手がける一方、ソロ名義のアルバムとして2017年に『Half-Light』、2021年に『Changephobia』を発表している。
Text_KO UEOKA.