Jul 31, 2026
By THEM MAGAZINE
COMING UP Vol.08_4 『THE FINAL SCORE』by DON WINSLOW
歓喜の“引退宣言”撤回? クライム小説の帝王による最新で最高の短編小説
2024年に市(まち)三部作の最終巻『終の市(ついのまち)』を完成させ、作家引退を宣言したクライム・サーガの帝王、ドン・ウィンズロウが帰ってきた。コナー・マクレガーやリオネル・メッシのような“辞める詐欺(?)”とは大違い、大喜びのサプライズである。しかも、これまでのウィンズロウ愛読者はもちろん、本書を初めて手にする読者さえも魅了してしまう珠玉の短中編小説とともに。
ウィンズロウといえば、大河小説がお決まりだが、こんなにスタイリッシュなショートサブジェクトも、さらりと書き上げられるのだ。歯医者の待ち時間やナイトキャップに詠まれることの多い短編小説だが、本作をそんな読み方をしてはもったいない。じっくり、何度も読み返したい作品が6編も収められている。小説に使う賛辞ではないかもしれないが、これは「お得」だ。コストパフォーマンスだけではなく、タイムパフォーマンスも高い。表題作となってる「ファイナルスコア」はいかにもウィンズロウらしい、緻密でスピーディーなクライムサスペンス。青春小説の「サンデ・リスト」のラストは、涙でページをめくれない。ウィンズロウ作品の根底に流れる男の絆が描かれる「北棟」。タランティーノも嫉妬するような会話劇「トゥルー・ストーリー」。西海岸のおしゃれなサーファーたちがスマートに活躍する「ランチブレイク」。そして、これぞウィンズロウの真髄と唸らせる「衝突」。彼が暮らすロードアイランドやカリフォルニアを舞台に、そこに息づく人々の暮らしや、その土地の性質までもが、時に重く、苦しく、鬱陶しく、逃げ出したくなるほど、読み手に訴えてくる。そうした伏線回収の末のカタルシス。さすが、ベストセラー作家!ウィンズロウにハズレなし!
ドン・ウィンズロウ 数々の賞を受賞し高い評価を受ける世界的ベストセラー作家。NYタイムズ・ベストセラーの『野蛮なやつら』『キング・オブ・クール』『ザ・カルテル』(以上KADOKAWA)、『ダ・フォース』『ザ・ボーダー』『業火の市』『陽炎の市』『終の市』(以下ハーパーBOOKS)をはじめ、これまでに26作を上梓。私立探偵、テロ対策トレーナー、法律事務所のコンサルタントとして働いた経歴を持つ。現在はカリフォルニア州とロートアイランド州で暮らす。
たぐち・としき 英米文学作家。早稲田大学文学部卒業。おもな訳書にウィンズロウ『ダ・フォース』『ザ・ボーダー』『クライム101』『業火の市』『陽炎の市』『終の市』(以上ハーパーBOOKS)、ブロック『八百万の死にざま』、ダール『あなたに似た人』(以上、早川書房)、チャンドラー『長い別れ』、ハメット『マルタの鷹』(以上、東京創元社)、デミング『私立たんていマニー・ムーン』(新潮社)など多数。
Photography_TORU OSHIMA.
Text_TORU UKON(Righters).