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May 27, 2025
By THEM MAGAZINE

MONTHLY PLAY LIST,VINYL ONLY. May

半世紀にわたり、蒲田でモダンジャズを鳴らす老舗

その曲を聴くと、グラデーションのように移ろう四季の情景を想起させてくれる。ミュージックバーの店主に今月のプレイリストを作ってもらう連載企画「MONTHLY PLAY LIST,VINYL ONLY」。第一回目は蒲田の老舗ジャズバー「直立猿人」の2代目オーナー石崎昌也さんに5月のリストを教えてもらった。

蒲田駅から徒歩5分、バーボンロードを抜け線路沿いの雑居ビルの3階に「直立猿人」はある。店内に入ると、まず2000枚を超えるモダンジャズのレコードが目に入る。音響を良くするために漆喰で仕上げられている10畳ほどの店内には、カウンターが5席、テーブルが8席設けられている。その独特な店名は、ジャズ・ベーシストのチャールズ・ミンガスが発表したアルバム「ピテカントロプス・エレクトス」に由来するという。

May PLAY LIST from 直立猿人

SONNY ROLLINS 『WAY OUT WEST』I’m an Old Cowhand

Barney Kessel Shelly Manne Ray Brown『POLL WINNERS THREE!』SOFT WINDS

SCOTT HAMILTON 『NO BASS HIT』But Not For Me

CHARLES MINGUS 『THREE OR FOUR SHADES OF BLUE』Better Get Hit In Yo’ Soul

THELONIOUS MONK & SONNY ROLLINS『Rudy Van Gelder』The Way You Look Tonight

GELLY MULLIGUN QUARTET『GELLY MULLIGUN QUARTET』Frenesi

ソニーロリンズが佇む後方に骨が落ちているが、頭蓋骨しかないためプロップなのではないかと言われている。

 石崎さんに「何となく5月っぽい」ムードがあるレコードをセレクトしてもらった。一曲目のジャズ・サックス奏者であるソニーロリンズのアルバム『WAY OUT WEST』はベース、ドラム、サックスの編成でピアノがいないことが特徴。フロント楽器のホーンが一本でのトリオは通常厚みのある演奏をすることは難しいため、珍しい編成だという。「ジャズには憂いがつきものというイメージがあると思うんですが、この人の曲は悲壮感が一切ないんです。」

バーボンロードを抜け、電光看板が目印。
オーナーの石崎昌也さん。
初代オーナーの児島さん。

 2000枚を超えるレコードの中から、リクエストをすることも出来るが、基本的には石崎さんが季節や雰囲気に合わせてセレクトしたレコードを堪能したい。スピーカーはヤマハのNS1000、アンプはビクターのレシーバーを使っているというが、1975年の創業以来、内装は一度も変えずに営業し続けているというから驚きだ。

 10年前に初代オーナーの工藤さんが体調を崩したことがきっかけに、当時お客さんとして通っていた友人づたいに紹介され、石崎さんがオーナーを引き継ぐことになったという。石崎さんはそれまで直立猿人にほとんど来たこともなければ、ジャズが一番好き、というわけではなかったそう。自宅にロックだけで数千枚のCD・レコードを所有しているほどの音楽好きである氏は「蘊蓄うんぬんは抜きにして、お酒を飲みながらリラックスして音楽に向き合ってほしい」という。今年で開店50周年を迎えた直立猿人には、石崎さんの自由な精神が根付いているからか、若者や外国人も多く訪れる。その歴史を感じながら音と向き合うことで、一人でいるよりも、自分と向き合える気がする。バーボンロードの端で、モダンジャズに耳を傾ける夜を過ごしたい。

直立猿人

Adress:東京都大田区西蒲田7丁目61−8 エンリコビル 

Business Hours:18:00〜23:00 

Regular Holidays:日曜・祝日

Tel:090-8726-1728 

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