Oct 12, 2022
By THEM MAGAZINE
日活110周年記念特集上映がシネスイッチ銀座で開催

海外映画祭を賑わせた日活作品8本がデジタル復元版で上映
今年、創立110周年を迎えた日本最古の映画会社である日活株式会社。その長い歴史の中で特に海外で高く評価されている8作品がデジタル復元版に蘇って、2022年11月3日〜11月10日までシネスイッチ銀座で上映される。
110周年記念特集上映のラインナップは、今年の第79回ヴェネツィア国際映画祭クラシック部門に選出された、今村昌平監督の『神々の深き欲望』と鈴木清順監督の『殺しの烙印』。同じく昨年のヴェネツィア国際映画祭クラシック部門に選出された田中登監督の『㊙︎色情めす市場』。川島雄三監督の代表作『幕末太陽傳』。戦後にカットされた幻のシーンを本編に加え復元した山中貞雄監督の『丹下左膳余話 百万両の壺』と同じく山中監督作、原節子が出演する『河内山宗俊』。田中絹代監督作で、第74回カンヌ国際映画祭のクラシック部門に選出された『月は上りぬ』と、昨年、東京国際映画祭で上映された『乳房よ永遠なれ』の計8作品。いずれも過去10年間に世界50カ国以上にて高い評価を得た日活の名作である。それらの作品をここに紹介しよう。
カンヌ国際映画祭で二度のパルムドール(最高賞)を受賞した今村昌平監督の初カラー作品にして、長期沖縄ロケを敢行した神話的大作。マーティン・スコセッシ監督は「今村昌平監督はマスターです」と敬愛の念を表し、ウェス・アンダーソン監督は自らのベスト10に今村作品をランクインしている。また、アリ・アスター監督は「『神々の深き欲望』はもっとも好きな映画の1つ。『ミッドサマー』の製作準備期間中に観て参考にした」と語っている。人間の本能、欲望、土俗、因習、タブー、近代文明への警鐘など、今村昌平が生涯追い続けたテーマが、俳優たちの鬼気迫る演技とともに壮大な風景の中で描かれ、観客をトランス状態へと導く。
全編に緊張感と笑いを孕む異色のハードボイルド。宍戸錠が、炊飯器から炊き立てのご飯の匂いをかいで恍惚となるシーンはあまりにも有名。クエンティン・タランティーノ、ジム・ジャームッシュ、デイミアン・チャゼル、ニコラス・ウィンディング・レフン、ポン・ジュノ、パク・チャヌク、ウォン・カーウァイなど、多くの海外の監督からもリスペクトされる鈴木清順のスタイリッシュな魅力にあふれる問題作。あまりにも難解な作品のため1960年代の観客や批評家には理解されず、興行的にも失敗し、日活の専属監督契約も打ち切りになった。その後「鈴木清順問題共闘会議」が結成されるなど、映画界を揺るがす大きな問題に発展したスキャンダラスな作品。第79回ヴェネツィア国際映画祭ではクラシック部門に選出され、最優秀復元映画賞を受賞するなど、1970年代以降は評価が高まっている。
大阪を舞台に、ともに娼婦として生きる母と娘の「生と性」を描く日活ロマンポルノの最高傑作。ドヤ街で隠し撮りしたドキュメンタリーのような生々しい映像、トメを演じる芹明香の圧倒的な存在感、モノクロからカラーへ転調する爆発力が、観る者すべてに鮮烈な印象を焼きつける。
数々の古典落語をもとに、遊郭の人間模様を生き生きと軽妙に描きながらも、“ここではない他の場所”を求めるニヒルな佐平次をフランキー堺が驚異的な身体能力とスピード感で体現。左幸子、南田洋子、芦川いづみ、石原裕次郎、小林旭のキャスティングも見事にはまった時代劇。
剣客・丹下左膳のイメージを逆手に取り、緻密なプロットで構成された心温まるホームドラマ風人情喜劇。アメリカ映画に多大な影響を受けた山中貞雄監督は25歳で本作を完成させた。
講談「天保六花撰」と歌舞伎「天衣紛上野初花」を翻案したユーモア溢れる人情ドラマ。可憐な原節子を守る男二人の心意気と色気が見所。ラストの立ち廻りのシーンの迫力には息をのむ。28歳で戦死した山中貞雄監督は5年間の監督キャリアで、映画史にその名を刻んだ。戦前のフィルムは消失し、現存するのは日活映画2作品と遺作の『人情紙風船』(37年)のみである。現在も天才と謳われる山中貞雄監督の3本中2本がこの機会に観られるのは嬉しい。
田中絹代監督の二作目は、三姉妹の繊細な心模様を描いたラブコメディ。脚本は小津安二郎と斎藤良輔。田中絹代監督の的確なショットが生み出す映画のリズムが心地良い。快活だが自分の恋には不器用な節子をのびやかに演じる北原三枝が、天真爛漫で魅力的である。
歌人の中城ふみ子の半生を映画化した田中絹代の監督三作品目にして彼女の代表作。自らの俳優としてのキャリアを活かしたかのような、月丘夢路のクロース・アップの美しさ、透徹した演出は圧巻。田中絹代監督が「女性として感じることを女性として表現したい」と公言していたという渾身の作品。大女優でありながら日本で2人目の女性映画監督として勢力的に活動した田中絹代。監督作品は、公開当時はあまり評価されなかったが、カンヌ国際映画祭代表補佐であるクリスチャン・ジュンヌ氏に「なぜ今まで話題になっていなかったのか。我々はやっと田中絹代監督の偉大さを発見した」と言わしめるなど、監督としての才能は近年、世界で“新しい発見”として注目を集めている。今回、田中絹代の監督作2作品が上映されるのは特に貴重である。
110年という長い歴史の中で、時代劇からロマンポルノまで多くの作品を世に送り出してきた日活。デジタル復元によって美しく蘇った日活の名作8本には、滅多に映画館でお目にかかれない作品もある。この機会にぜひ映画館で堪能してほしい。
【開催情報】
会期:2022年11月3日(木)〜11月10日(木)
会場:シネスイッチ銀座
住所:東京都中央区銀座4-4-5 簱ビル
【問い合わせ先】
日活配給宣伝部
080-6329-5663