Jun 14, 2022
By THEM MAGAZINE
【今月の一冊 】 ブリット・ベネット『ひとりの双子』
ある人種コミュニティの中で錯綜する人生
あなたは、「違う人種の容姿で生まれたかった」などと一度でも思ったことがあるだろうか。
肌の色の薄い黒人ばかりが住むアメリカ南部の小さな町。自らの種を否定し白くなることを良しとするその奇妙な町で、白い肌の黒人家系に生まれた双子の姉妹は、16歳にして家出を決行する。姉に無理やり連れられる形で妹は町を出たのだが、ほどなくして二人は離別。妹は白人として生きることを選択し、生まれ故郷に根付いた差別を嫌う姉の元を去ったのだ。その後、漆黒の肌の男と結婚し、男にそっくりな娘を出産した姉は、男による家庭内暴力から逃れるため、娘とともに故郷へ舞い戻る。
妹のことならなんでもわかると思っていた姉、誰にも打ち明けていない気持ちを心に秘めた妹。なぜ、妹は白人として生きるのか。そして姉の家庭は、姉妹の関係はどう変化していくのか。物語はそれぞれの視点で展開していく。
妹が行った、人種的出自を偽り白人になりすます行為「パッシング」。事実、黒人差別は、白人VS黒人というわかりやすい二項対立ではない。本作では白人になりたい黒人による、黒人への差別が描かれている。登場人物の複雑な生き方から、カラーブラインド(人種による差異がないとすること)がもたらす盲点に切り込み、読者を当事者として物語へ引きずり込む。
ブラック・ライブズ・マターを筆頭に、より人種差別撤廃が叫ばれるようになった近年。問題意識を持ち、差別に加担しないと心得ている人にも、この物語は新鮮に映るだろう。
AUTHOR ブリット・ベネット
TRANSLATOR 友廣純
PUBLISHER 早川書房
ブリット・ベネット 1990年、南カリフォルニア出身。2016年に『The Mothers』で作家デビュー。2020年、2作目の『ひとりの双子』を発表、ニューヨーク・タイムズ紙、サンデー・タイムズ紙のベストセラーリストに入り、全米図書賞などにノミネート。2021年、タイム誌の「次世代の100人」に選ばれた。ジェイムズ・ボールドウィンやトニ・モリスンの系譜に連なる、最も重要な若手作家のひとりと評価されている。
立教大学大学院文学研究科博士課程中退、英米文学翻訳家。訳書には、A・G・リドル『タイタン・プロジェクト』『第二進化』、マシュー・グイン『解剖迷宮』、ワイリー・キャッシュ『約束の道』など。2021年にはディーリア・オーエンズ『ザリガニの鳴くところ』が本屋大賞翻訳小説部門第1位を受賞(以上早川書房刊)。
Photography_TORU OSHIMA.
Text_CHIHIRO YATA(Righters).