Nov 28, 2025
By NONOKA FUJIWARA
パルクール王者・現代アーティストのZENが示す「都市等価論」
競技パルクールで世界王者のタイトルを獲得し、近年はアーティストとしても多様な表現を行うZENは、「世界は決められた形をしていない」と語る。彼はパルクールで培った身体の技術と研ぎ澄まされた感性を用い、写真という媒体を通して「既存の枠への疑い」を投げかけている。最新作「Urban Equivalence ―都市等価論―」の“前編”の展示会場「DESIGNART TOKYO 2025」メイン会場のDESIGNART GALLERYで、制作背景と、彼が世界をどのように見ているのか聞いた。
「地球に来たばかりの宇宙人のような気持ちで世界を見る」
ZENが15歳で出合ったパルクールは、「走る」「登る」「跳ぶ」といった移動動作を極め、都市の構造物を使って心身を鍛えるという、フランス軍の訓練を起源としたトレーニングの文化だ。「パルクールに出合う前は、『階段は上り下りするもので、あの場所へ行くためにはこの道を通らなければならない』というふうに、街も歩き方も自分の生き方でさえも、『こうあるべき』という枠組みに当てはめて考えていました」。16歳で単身渡米し本格的にパルクールを学んだとき、「都市や自然への挑戦を通して自分を知る」というパルクールの哲学を体感する。「人それぞれ物事の捉え方が異なるように、街も自分も世界も、どう解釈するかは自分で選んでいい。その哲学を理解したとき、ブレイクスルーが起きました」
街の中といった日常的な場所を、緊張感ある躍動的な場所へ変化させるパルクール。そんな日常と極限の往復と研鑽を続ける中でZENは、「安心とは何か」「ルールやモラルとは何か」と、社会の前提そのものに疑問を覚え始めた。
そして2020年に競技パルクールの世界王者となったことでひとつの区切りがつき、同年から、自身が覚えていた「社会の前提に対する疑問」を反映した作品制作に本格的に取り組み始める。写真作品のフォトグラファーはパルクールのプレイヤーでもあるジェイソン・ポールが務め、ビデオグラファーを含む3人体制で毎年1都市を巡って制作を行っている。作品にはCGやAIによる編集を一切加えていない。すべて実際の都市の中で、実際に身体を使って撮影している。
「僕は作品でパルクールの技を見せたいのではありません。違和感が生まれるように身体を配置して、顔もなるべく見えないようにしています。一見するとポップな作品だけど、鑑賞者の“世界の解釈を揺らがせるトリガー”になるように、自分が持つ疑問やパルクールの哲学など、いくつものレイヤーを作品に重ねています」
一貫した制作のテーマは、“See the world differently(違う視点で世界を見る)”。変化し続ける時代、環境、街、身体。ZENはそれらを「可能性に満ちた存在」として愛着を持ち、同じ時間軸を生きる相棒として捉えている。「撮影時はあえて解像度を下げるように、薄目で街を見ています。『今日地球に来たばかりの宇宙人のような気持ち』で世界を見ると、いろんな発見があるんですよ」
「Urban Equivalence ―都市等価論―」
今回発表された「Urban Equivalence ―都市等価論―」は、ロサンゼルスを舞台した作品群だ。人間が都市を作り、都市がまた人間を作り替える。ZENはその相互関係を見つめ、「都市と身体の関係性を等価に捉え直すこと」を表現した。
都市の外観そのものを写すのではなく、そこに自身の身体を置くことで都市の意味をずらし、「世界はこう見えるべきだ」という固定観念への疑いを投げかけるZENの作品たち。「ファンタジーのように見えるけど、すべて現実を捉えている僕の作品を見て、迷子になったような、足元がぐらついた感覚を持ち帰ってほしい。そして、考えることを楽しんでほしいです」
最新作の後編会場は銀座 蔦屋書店6階 アートウォール。都市と身体、個人と世界の関係性がさらに更新されていくZENの個展。新たな視点を手に入れたいなら、ぜひ会場に足を踏み入れてみてほしい。
《展示会情報》
タイトル:ZEN個展「Urban Equibalence ―都市等価論―」
日程:2025年11月29日(土)〜12月19日(金)
時間:10:30〜21:00(最終日のみ18時閉場)
会場:銀座 蔦屋書店6階 アートウォール
住所:東京都中央区銀座6丁目10-1 GINZA SIX 6階
東京都出身のアーティスト。 フランス発祥のトレーニング文化「パルクール」の日本初のプロ選手として世界を転戦し、2020年には競技パルクールの世界チャンピオンに輝く。同年より都市空間と身体との関係性を起点に、自身の経験や身体性を媒介にした芸術実践を展開。セルフポートレートを軸に、現代写真、立体造形、ドローイングなど多様なメディアを用いて活動。 作品は一貫して、「鑑賞者の無意識に接続する装置」として位置づける独自のアプローチで、現代における鑑賞体験の再構築を目指している。 バンコク、パリ、ロサンゼルスなど世界各地で制作を行い、ロンドンのフォトアートフェア『Photo London』やパリ・シャンゼリゼ通りでのソロ展示など、国内外で作品発表を行っている。