Dec 08, 2016
By TORU UKON (Editor in Chief)
ファッションお悩み相談室 Vol.03 カシミアの毛玉
今年は冬の到来が早いようです。
この時期になると活躍するのがカシミアのニット。軽く暖かく、肌触りのよいカシミアは齢をとればとるほど、ありがたみが実感できます。ただ、ラムやシェットランドに比べると価格が高いので、若いうちはそう簡単に手は出せないのが、悲しいところ。
ちょっと奮発して購入したのに、何度か着たら、ゲゲェ!
毛玉!
そんなショックな経験、ありませんか?
カシミアと毛玉。
これは、ありがたいカシミアが持つ価格以上の弱点です。
よく「安いカシミア、買ったからだよ」という声も耳にしますが、はっきり言いましょう。
高いカシミアでも、安いカシミアでも、値段にかかわらず「毛玉のできないカシミアはありません」。
これは、私の経験と、これまで取材したりリサーチした結果です。科学的根拠はありません。
しかし、断言します。
毛玉はカシミアの宿命だと思ってください。
スコットランドの名門《バランタイン》だろうが、《ユニクロ》だろうが、程度の差こそあれ、毛玉はできます。
ただ、毛玉できやすいカシミアと、毛玉ができにくいカシミアがあるのも事実です。
だったら、毛玉ができにくいカシミアのほうがいい、と誰もが思うでしょう。
しかし、毛玉ができにくいカシミアには理由があります。
カシミアの毛のキューティクル(のようなモノ)をコーティングして、ナイロンのような毛質にしているのです。乾燥しているときはしっとりと、湿気のあるときはふんわりとしたカシミア本来の特徴を消しているのです。これは安くて大量販売されている最近のカシミアに多く見られます。
でも、「俺の《バランタイン》は10年も着続けているけど、全然毛玉にはならないよ」という人もいるでしょう。私も毛玉のほとんどないカシミアを持っています。
しかし、それは「高価なカシミアだから」と、つい何気なく慎重に着ている、という理由ではないでしょうか。
毛玉ができる理由は、摩擦、糸の撚り方、湿気、静電気、熱、異物混入の順である、というのが私の経験則です。
摩擦は、着用回数に比例します。たまにカシミアの上にスムーズではない裏地のコート(例えば、裏地なしハリスツイードなど)を着ると極端に毛玉が増えることがあります。家の中でしか着ないカシミアと、よそいきのカシミアでは、断然家の中でしか着ないカシミアのほうが毛玉ができないと、私は実感しています。(これぞ、カシミア・パラドックス!)ただし、私のようなデスクワークが多い人は、当然、肘から袖にかけて毛玉の大量発生者となるのはやむ得ません。
糸の撚り方。これについては上質なものほど毛玉ができやすく、毛足の短く糸の太いもの(高品質ではないもの)のほうが毛玉ができにくい、というのが(こちちらも)経験則です。
湿気、これは毛玉の名アシストです。ゴアテックスなどのハイテク素材ではない湿度を逃さないアウターをカシミアの上に着ると、それだけで毛玉のハットトリックにつながります。熱も同様です。毛玉の嵐になるのは、決まって脇の下です。背中とかはほとんどできません。
つまり、毛玉ができやすい状況を、たまたまか、それとも意識してか、回避されているから、毛玉ができていない、と考えたほうがよい、というのが私の判断です。
一回着たら、インターバルを空けて着る。通気性のよいアウターの下に着る。毛足の短いカシミア着る。
こうすれば、毛玉の発生を抑えらるはずです。
また、ものすごい高い洋服ブラシを購入し、毎度カシミアを脱いだ後、丁寧にブラッシングすれば、多少は毛玉の発生を抑えらるでしょう。(私も、目からウロコが落ちるくらいの高価なブラシを買って、お気に入りのカシミアにブラッシングしておりますが、かなり苦戦しているのが事実です)
結論。毛玉のできないカシミアはない。
ならば、できた毛玉は削除するしかない!
幸い、最近はポテンシャルの高い毛玉カッター(シェイバー的なもの)が出てきています。毎夜、バーボンをちびちびやりながらハサミで毛玉を切るというのも、カシミア好きのオヤジの趣味としは微笑ましいでしょう。
とにかく、毛玉ができるのは、カシミアの高い安いではない、と心得ていただきたい。
これだけ科学が発達しても、毛玉のできないカシミアがないというのは、ファッション親父としては、納得できるようなできないような、もやもや〜として気分です。