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LIFESTYLE
May 12, 2020
By THEM MAGAZINE

光徳寺。棟方志功の足跡と民藝

光徳寺。棟方志功の足跡と民藝


まだ”コロナ前”だった2月、金沢を訪れた。

 

その目的は、写真家・河野幸人さんが運営するアート書店/ギャラリー「IACK」に訪れるため。

 

東京から新幹線で2時間半。車窓から過ぎ行く景色を眺め、少し眠り、本のページをめくっていたらあっという間に着いてしまった。

 

節約のために帰りは夜行バスで、なんて思っていたが甘かった。快適な新幹線を体感し、夜行バスの所要9時間と心身への疲労を想像すると、その手段はありえない。もう自分は学生ではないんだと言い訳を唱え、未来の自分へ節約という十字架をかしながら、泣く泣く財布の紐を緩めるのだった。

 

金沢の滞在は一泊二日と短い旅程だが、歩いて歩いて、二日目の昼には金沢中心で気になる観光地やショップはだいたい巡ってしまった。

 

回らない寿司屋で名物のどぐろなど楽しみ、ちょっと奮発した舌鼓も終了。もう行く宛はなくなったが、帰りの新幹線まではまだ余裕がある。カフェでグーグル検索。情報は少ないが、なんだか面白そうなトコロを見つけた。

 

蠋飛山 光徳寺。版画作品で世界的に著名な棟方志功ゆかりの寺であり、アヴァンギャルドな民藝コレクションがあるという。

 

 

 

光徳寺の前住職は、アヴァンギャルドな僧侶だったようだ。本堂部分は一般的な「お寺」だが、他の部屋がものすごい。世界各地の民藝品が、おもちゃ箱をひっくり返したように、所狭しと配置されている。これらは棟方志功とも仲睦まじかった前住職のパーソナルなコレクションだというのだから、さすが民藝運動の父、柳宗悦らもこぞって訪れたという寺だ。

 

あるのは、日本の民藝品だけじゃない。寺の一室という完全な和の空間には、中国のデコラティブな椅子やアフリカのプリミティブなテーブルなど、世界中から調達された民藝品がミックスされている。和洋折衷なんて域を大いに飛び越し、大陸や宗教が大胆に交差するカオスな空間。しかしすべてが「用の美」であり、人種は違えど、同じ「人間」の手によって使い古されて美しくなったものだから、不思議と調和がある。これが博物館ではなく、あくまでお寺なのだから、なんて型破りなんだろうか。お寺である限り、その公共的役割から、「お寺は、お寺らしくあれ」といったこのカオスな民藝空間への反発もあっただろう。そのコレクションの審美眼も含め、前住職はそうとう懐の深く、意志の強い人だったに違いない。

 

展示されている民藝品は、寺内にて使用され続けているという。現在進行形で稼働し営みのある空間に、展示されながら活用もされる。これこそ「用の美」を掲げる民藝品の、正しいあり方なのかもしれない。ガラスのショーケースに入りっぱなしでは、もったいないのだ。

 

建物内部の撮影はNGなのが惜しい。

右側の襖絵が『華厳松』 ©Nanto City

民藝もいいが、光徳寺一番の見所は、なんといっても棟方志功作による『華厳松』だ。

 

光徳寺の裏山を散策中の棟方志功が突如激しい霊感をとらえ、寺に駆け戻って一気に描き上げたという襖絵。松樹を描くという具象ではあるが、大きなスケールと全貌が描かれないことから抽象的印象を含み、大胆な筆致から抽象画家である白髪一雄、(似ているわけではないがなぜか)ジャクソン・ポロックなどを思い出しつつ、あまりの力強さにただ圧倒されるのだった。

 

インスピレーションが突如湧いて、キャンバス1枚を描き上げるならわかるが、このキャンバスは襖6枚という巨大さ。膨大な墨汁の制作も大変だったらしい。それほどまでに棟方志功を突き動かした霊感、Something Great的な何かが、そのまま封じ込められているような気がした。鑑賞者はその「何か」の全貌に触れることは叶わないが、その一片を体感できるような、神秘めいたパワーが漏れ出している。同作品をギャラリーなどホワイトキューブに持ち込んだとしても、同じようには感じられないと思う。お寺、そしてこの土地の空気があるからこそ帯びている強さなのだろう。

 

『華厳松』の他に、棟方志功の著名な版画作品も鑑賞できる。

 

 

 

光徳寺、あまり有名ではないようだが、個性豊かな場所だった。

 

富山県西部観光社による、オフィシャルで取材された写真付きの記事があるので、興味のある方はこちらをチェック。

 

 

僕が訪れたときは豪雨だったため残念ながら軒下にしまわれていたが、寺前の空間に散り散りに配置される無数の「かめ」は撮影可能。ちょっとした「映え」スポットでもある。

 

金沢を訪れる民藝好きは、ぜひ訪れてみてください。「IACK」もね。

 

 

上岡

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