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MOVIE
Apr 07, 2023
By TORU UKON (Editor in Chief)

極私的映画コレクション Vol_01 女だらけの青春映画3本

女性映画として観るのではなく、バイオレンスのない青春群像劇として観るべし。

男しか出てこないストーリーが好きだ。

例えば『仁義ない戦い』『ゴッドファーザー』『レザボア・ドッグス』。漫画でも『クローズ』や『WORST』『なにわ友あれ』など。早い話が、バイオレンス中心の青春映画や、クライムサスペンスが大好きだ、ということになる。

次号の韓国特集では、韓国映画を紹介するページがある。そこには残念ながらセレクトしてもらえなかったが、『友へ チング』(2001年、クァク・キョンテク監督)が大好きだ。

逆に言えば、女が主役の恋愛映画が苦手だ。可能な限り、女の出番が少ない物語のほうが自分の好みだ。おそらく生理的な問題だと思う。あくまで主観だが、ここは自分の好みを語らせていただけるメディアなので、許してほしい。

そんな僕でも、ほとんど女性しか出てこないのに、大好きな映画がある。

なぜか、どれも春にちなんだ映画なので、桜が咲いて、ハラハラ散るこの頃に、そんな映画を思い出してまとめてみた。

そういえば、昔、放送作家時代に『女ばかりの水泳大会』に参加したことがある。それまでマッチやトシちゃんばかりが活躍していた『芸能人水泳大会』が飽きられてきて、フジテレビの敏腕ディレクターが考えたのが『女ばかりの……』だった。こっちもまた、思い出してしまった。ちょっと恥ずかしい。

 

1983年 監督:市川崑監督 原作:谷崎潤一郎 出演:岸惠子、佐久間良子、吉永小百合、古手川祐子、ほか

まず最初は『細雪』

もう何度も映画や舞台、ドラマになっている作品。

青春映画というには、上の姉二人はちょっと薹(とう)がたっているが、ストーリーの半分は下の二人の妹の話なので、大目にみてほしい。

この作品は冒頭から見事なまでに美しい桜と、それを愛でる桜に負けず劣らずの美女姉妹4人のシーンからは始まる。桜の季節になると、決まってこのシーンを思い出し、美しい国に日本に生まれた幸福感に満たされる。

『細雪』は市川崑監督の作品しか観たことがないので、比較はできないが、この作品だけでもうお腹いっぱいである。見どころは満載で、何度繰り返し観ても飽きない。

それは映像が美しく、脚本が素晴らしいからに他ならない。もちろん、4姉妹の美しさがこの作品の売りなのだが、中でも吉永小百合の艶は特筆すべき。茜色に染まった夕暮れの部屋で、古手川祐子に足の爪を切ってもらっているシーンは、それを覗く石坂浩二でなくても、息を呑む。そんな気の利いたシーンがふんだんなのだ。

市川崑は本当に絵作りとストーリーテリングに長けた監督だ。日本の宝だった。近年の韓国映画の隆盛ぶりを見ていると、市川崑が活躍した1960年代の日本映画を実体験できないことが歯痒くて仕方がない。

春から始まる映画は、雪がちらつくシーンでエンディングを迎えるのだが、ストーリーが四季に沿って描かれるのも、心憎い。夏の入道雲、秋の紅葉など、季節が巡るように4姉妹の人生も移ろいで行き、観るものを優しく包んでいく。バイオレンス映画と真逆なのに、これは心地よい。

女ばかり、だが、石坂浩二、伊丹十三、桂小米朝らがいい味を添えている。

1990年 監督:中原俊 原作:吉田秋生 出演:中島ひろ子、白鳥靖代、つみきみほ、他

『櫻の園』。

タイトル通り、桜が画面いっぱいに登場する。やはり、この季節に思い出す映画のひとつ。

漫画が原作だが、自分には圧倒的に映画の方が面白かった。リアリティがある。

女子校の話だが、やはり、出演者の個性がそれぞれ際立っている。中島ひろ子、白鳥靖代、そして、つみきみほがとってもよい。女同士のプラトニックラブがここまで清々しいとは、男臭い物語ばかり追い求めてきた自分には新鮮だった。

冒頭から、女子高生のキャンキャンした声にアレルギーがあったが、ストーリーが進行していくうちに、落ち着いたトーンに聞こえてくる。全編に流れるショパンも素晴らしい。

女子校では、こんな日常が今も繰り広げられているのだろうか?

「このまま時が止まればいい」と願っていた彼女たちはどんな大人の女性になっているのだろうか?

中島とも子は、昨年のベストムービー『ケイコ 目を澄ませて』(三宅唱監督)で、疲れた母親役をやっていて、『桜の園』の演劇部の部長は、こんなふうになるのか、とちょっと複雑な思いがした。

ちなみにチェーホフの芝居は一度も観たことがない。これは自分でもどーか、と思う。

 

 

1998年 監督:磯村一路 原作:敷村良子 出演:田中麗奈、清水夏実、真野きりな、ほか

最後は四国・松山のボート部の女子高生の話。『がんばっていきまっしょい』

テレビドラマでも放映されたが、僕はあくまで映画推し。

高校に入学する春の瀬戸内海から物語が始まる。春の海がキラキラして、北海道の海とはまるで違っていて、憧れた。

オギヨディオラの音楽が素晴らしく、今もよく聴いている。女ばかりの青春映画に共通して言えるのは、音楽の美しさ。これも心を奪われる大きな要素であろう。

何かに熱中するものがほしい、そう願う高校生の気持ちはよくわかる。苫小牧の高校生だった自分にも、若いエネルギーをぶつけられる何かがほしくて、もがいていたように思う。そんな切なさがこの映画の根底にあって、それを清々しく消化してくれる名作だ。

夏合宿中に、夜の海で花火で遊ぶシーンが美しい。誰の心にも17歳の海の花火遊びが、きっとあるに違いない。

これがデビュー作となった田中麗奈の不器用さが良い。不器用でピュアなのが、青春の証なのだ。真野きりなの個性も素晴らしく、もっと活躍してもらいたかったが(現在は活動を休止しているようだ)。『北の国から』の蛍が、大人になって登場する。これもいい味だ。

甲子園で優勝したり、名門大学に合格したり、見事なゴールに辿り着いたものだけが青春のスポットライトを浴びる、そんなヒガミ根性で高校時代を送っていた自分が、この映画で随分と救われた気持ちになった。

この作品は、落ち込んだ時に、何度も観た。もう、30歳を超えていたが、落ち込むことはよくある。

ここに紹介した三作品は今も視聴可能なはずである。僕も繰り返し観ている。純粋さを取り戻したくなったら、観てほしい。

 

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