Jun 11, 2020
By TORU UKON (Editor in Chief)
Tシャツを巡る旅 最終章
「断捨離断念のマイワードローブ Vol_02」でMADE IN USAのTシャツについて書いた。主題である「もうこれ以上買わんでよし」という境地にたどり着くTシャツを手にしたのだが、実はまったく違ったものだったことがわかりました。ショック。すっかり「あがり」と確信した「Tシャツを巡る旅」も完全にゴールを見失った、と追加報告したのが、二週間ほど前。
あれから、思いもよらぬ進展がありました。
まず、MADE IN USA Tシャツに肝心なブランドを忘れていたので、さらに追加報告。
《オニータ》です。
長い歴史を誇るニューヨークのブランドだったが、1998年に倒産し、今は日本の企業が商標を買い取り存続しています。この《オニータ》の「POWER-T」こそ、80〜90年代の自分にはベストのTシャツでした。
《オニータ》は《グッドイナフ》や《エイプ》《ネイバーフッド》など90年代の裏原のブランドがこぞってボディに採用していた人気のブランドであり、今は懐かしい2.5センチの太いリブが特徴。そのころは《オニータ》のMADE IN USA はほとんどなく、ジャマイカで縫製されたものが使われていました。でも、古着屋さんを回れば、お土産用のプリント(ちょっとダサい)が入ったMADE IN USA の《オニータ》が手軽に見つかりました。《ヘインズ》のビーフィーのように厚手なTシャツということで、タフなTシャツが好きなアメカジ・ファンの人気を二分。僕は《オニータ》のほうが好きでした。最近の《オニータ》はスリムで着丈も長いが、80年代のものは身幅もゆったりして、着丈も短めだったように記憶していますが、ひょっとして、古着屋さんの乾燥機によってサイズが変化していたのかもしれない。太いリブのおかげでネックの両サイドが立つ感じが気に入ってました。
その《オニータ》のことを失念していたので、ここに補足しておきます。ちなみに、2020年現在、《オニータ》のMADE IN USA を見つけるのは、結構難しい。(ま、ジャマイカ縫製でもそれほど違いはありませんが)
さて、僕が独断と偏見で「究極のTシャツ」と定め、長年探し求めていた《ジョッキー》のTシャツ。ついにその頂きに光が差してきました。
そのTシャツの名は「Bo’sun」。
甲板長、というそのモデル名から、かつて水夫たちが着た襟の高めの(BO’SUN ネックと呼ばれていた)Tシャツです。その名前を知ったのは、70年代にアイビー・スタイルにハマっていた方のブログを発見したから。そのブログでも「ボディに穴が空いても、頑としてネックは伸びない革命的なTシャツ」と絶賛され、それが《ジョッキー》のBo’sunシャツだ、と記されていたのです。早速「Jockey」「Bo’sun」のキーワードで画像をググると、パソコンの画面に、ずっと探し求めていたTシャツが現れました。
これです!
HI-NECK、Bo’sun Shirt。
パッケージの上からでもネックの高さがわかります。これです。これなんです。僕らが高校生のころ、ボタンダウンシャツのインナーに着ていたのは。そして、今でも、僕が最高にスタイリッシュだと信じているMADE IN USAのTシャツは!
eBayでNOS(New Old Stock=僕らの表現ではデッドストック)で売っていたので、即購入。1978年のコピーライトがプリントされ、当時は5ドル。eBayでは日本円で¥4,735でした(国際送料や手数料などで、グロスで¥7,552となりましたが)。
あれほど探しても見つからなかったTシャツがこんなにも簡単に手に入れることができるなんて!なんだか拍子抜けした気分ですが、それも「Bo’sun」シャツというモデル名が判明したから。「Jockey」「ハイネックシャツ」というキーワードで検索しても、まったく「Bo’sun」という名前にたどり着かなかったのに、と積年の徒労を悔やむばかり。もっと早く「Bo’sun」と知っていれば、40才くらいからずっとこのシャツを着続けることができたのに……。
さらに驚くことに、eBayで見つけたその翌日、なんと、京都の古着屋さんのファイスブックにも「Bo’sun」シャツの画像がアップされていたのです! なんという奇跡! 興奮気味に電話したら、こちらもまだ在庫あり。問答無用の即購入。40年以上探していたTシャツが同時に2枚も手に入るとは!
届いた「Bo’sun」シャツは意外と肉厚なボディでした。記憶では、もっと薄かったような。でも、着丈の長さは昔のまま(タックインして着るにはこのくらい長いほうがよい)。若干身幅がタイト。そして、肝心のネックの高さは期待していた昔のまま、でした!
秘宝を手にしたインディ・ジョーンズのような気分に浸っていたその数日後、晴天の霹靂、僕の頭上に雷が落ちました。
「Bo’sun」のキーワードでさらにググっていると、《ジョッキー》の「Bo’sun」シャツの日本ライセンス品を見つけてしまったのです。
カタカナで「ボースン・シャツ ハイネック」と記されている。
そして、なんと素材が綿100%!
数日前にeBayで購入した「Bo’sun」シャツは、74%コットンに26%ナイロンだった。
高校生の自分が着ていたのは、なんと日本ライセン企画の《ジョッキー》のハイネックTシャツだったのではないか? いや、そうに違いない。パッケージやタグもこっちのほうが見覚えあるような。素材も綿100%だったはずだ。コピーライトは1989年となっている。株式会社菅谷がライセンシーとなっていたが、いくら検索しても会社にはたどり着けませんでした。現在《ジョッキー》は大手の紡績会社がライセンスを持っており、「ボースン・シャツ」は製造していません。
日本ライセンス企画の「ボースン・シャツ」は数年前にメルカリで¥398で売買されていました。もう、今後手に入れることは難しいようです。(でも、なんとかして入手したい。諦めきれません)
なんだろう、この気持ち。
MADE IN USAの本家の「Bo’sun」シャツを手にしたのに、なんだか騙されたような、やりきれない気持ち。自分が「宝石」と信じて追い求めていたものが、実は偽物だったと知らされた気分。日本製のほうが米国製よりも、実は自分には合っていたのです。
がっくし。
そして、さらにこんなブログの記事を見つけました。
「映画『アメリカン・グラフィティ』でリチャード・ドレイファスがマドラスチェックのインナーに着ていたTシャツは、普通のクルーネックを後ろ前に着てネックの高さを出していた。ブランドタグの縦のステッチが首の真ん中に見えるので、間違いない」。そう、僕が信じていた《ジョッキー》の「Bo’sun」シャツですらなかったのです。
40年以上、追い求めてきた憧れのスタイルすらも、誤解していたのです。何たることか。
もう、ファッションの仕事を続ける自信もなくなりそうです。
ただ、ネックの高い《ジョッキー》のTシャツが僕の手元に2枚あるのは、紛れもない事実。Tシャツを巡る旅は最終章に入りました。あとは、日本ライセンス企画の「ボースン・シャツ」を手にできれば、登頂、大円団を迎えます。