Jun 25, 2024
By THEM MAGAZINE
BALENCIAGA SPRING 25 in SHANGHAI
摩天楼が林立し、スカイライン広がる上海。《バレンシアガ》のアーティスティック・ディレクターであるデムナは、メゾン初となるアジアでのファッションショーの地に、中国の経済的発展を象徴するアジア随一の魔都を選んだ。
ショーを目前に控えた数日前から、上海・浦東地区は《バレンシアガ》に彩られていた。浦東国際空港の手荷物受取所には「ル シティ」を掲げた歌手・女優のヤン・チャオユエのキャンペーンビジュアルが旅行者を出迎え、市内のビルには《バレンシアガ》のビルボードが掲げられている。ショーの招待客が宿泊したリージェント上海浦東のルームキーは《バレンシアガ》仕様となり、上海やその周辺で縁起のよいお菓子とされる「ウィンウィン(win-win)ケーキ」が振る舞われた。レストラン「Nu Xiang Mu Dou」では《バレンシアガ》のキーカラーであるグレーに彩られた黒トリュフを使った小籠包をサーブ。FALL 24で発表したLAを象徴する高級スーパー「Erewhon®」同様、ショーの開催地のライフスタイルに密着したコラボレーションを実現し、世界各国から招かれたセレブリティや顧客、現地の熱狂的なファンをメゾンの世界へと引き込んでいった。
そして5月30日、上海屈指の観光エリアであるTHE BUNDを一望できる黄浦江沿いに位置する浦東美術館の敷地郊外でSPRING 25コレクションが開催された。アトリエ・ジャン・ヌーヴェルが手がけ2021年に開館したこの美術館は、イギリスのテート・ギャラリーとの連携や、蔡国強と徐氷の大規模なインスタレーションを行うなど、毎年数多くの美術館が建てられている上海の中でも最高峰のアートを展示するギャラリーとして注目されている。
2021年に53年ぶりの再開となった50thクチュールコレクションの一部を中国でも披露した《バレンシアガ》がショーをこの地で行うことになったのは至極自然な流れだと言えるだろう。しかしデムナは今回、中国・上海を単なるマーケットを越えたコレクションのインスピレーションとして捉えた。初めて訪れたという上海の高層ビル群のラインを、コレクションを象徴するエッセンスのひとつとしてデザインに採用。摩天楼の細長い縦長のシルエットを、厚さ18cmのヒールを持つプラットフォームシューズと超ロングコートで構成した。アイコニックなアワーグラスジャケットのファーストルックを皮切りに、パワーショルダーのオーバーコートやトレンチコートなど、タイムレスなワードローブとして位置付けている「ガルドローブ」ラインを打ち出した。その後はTシャツやフーディなどカジュアルウエアのパートへ移っていく。アンダーウエアがドッキングされたデニムパンツなども、ロングアンドリーンなシルエットを描いている。そしてショーの数日前からブランドのInstagramで公開されていた、《アンダーアーマー》とのコラボレーションウエアのルックが登場。アメリカのスポーツブランドが誇る、テキスタイルや技術をコレクションへと落とし込んだ。また中国の決済サービスである「アリペイ」のロゴをあしらったアイテムも披露した。この「アリペイ」、そして《アンダーアーマー》とのコラボレーションの一部はショーの翌日から先行販売されている。そして中盤には、これまでの「Cargo」や「10XL」のインパクトを超えるような、複数の異なるソールを幾重にも重なり合わせた16cm以上のソールを持つスニーカーが登場。そのほかにもレザー製のシューズボックス型のクラッチバッグや、実際の洋服を縫い付けて作り出したり、アリーナレザー製のガーメントケースをモチーフとしたバッグなど、アクセサリーでもメゾンのクラフトマンシップとデムナらしいユーモアを融合させた。
後半では化学防護服や防水シートとして用いられるタイベックで仕立てたドレスや、創設者のクリストバル・バレンシアガが1957年に発表した“サックドレス”に着想を得て、2つのサック(=袋。バッグ)を組み合わせたドレスを披露。これまでにリリースしたアクセサリーをボディ全面縫い付けたドレスや、10年以上前のビニール袋を一つ一つ短冊状に割いてフェザーのように仕立てたドレスなど、セミクチュールともいえるピースでショーを締め括った。モデルがランウェイを抜け、55メートルにわたり一面が鏡で敷き詰められた「鏡庁」へと渡り、LEDをバックに消えていく光景は幻想的なフィナーレとして来場者の心を掴んだ。
2015年の就任以降、デムナは《バレンシアガ》に数え切れないほどのヒットを生み出し、熱狂的なフォロワーを獲得してきた。アイコニックなオーバーサイズのフーディをはじめとしたコレクションはモードのみならずストリートのファッションをも一変させ、またクチュールをバックグラウンドに持つメゾンらしい、テーラードにおける《バレンシアガ》のシルエットを確立していった。シーズンを追うごとにつれ、コレクションには社会的なメッセージやスペクタクルな演出が取り入れられるようになったが、2021年のクチュール復活を経て、デムナは再び「服作り」に注力するようになったと語っている。オーセンティックなワードローブを提案する「ガルドローブ」から、異なる洋服同士をドッキングさせたウエアやトロンプルイユ、パンツをトップスに変形させる手法、まるで古着のようなウォーンアウト加工など、プロダクトにフォーカスしたデムナのクリエイションはバリエーションの広がりを見せ、より高い完成度のコレクションとして生み出している。FALL 24ではLAのセレブリティを中心とした実在するスタイルをコレクションへ反映させたが、今回は開催地から得たインスピレーションをデザインとして落とし込み表現することで、アイコニックなシルエットやデザインをアップデートさせた。
ショーの開始に合わせて、中国一の高さを誇るという上海タワーをはじめとした上海を象徴する数々の高層ビルに《バレンシアガ》の文字がライトアップされていった。その中に、11個の球体によってデザインされた上海テレビ塔があった。設計者がインスピレーションを得たと言われている、唐の時代に活躍した詩人である白居易の誌「琵琶行」にはこんな一節がある。「太い弦を弾くと 突然降る雨のようにザーザーと音がする。(中略)太い弦と細い弦とを交互に弾くと、ときにはザーザーと、ときにはやさしく、まるで大きな真珠と小さな真珠が玉の盆に落ちる音と同じようだ」。開始時間が近づくにつれ、雨が激しくなっていく様は、《バレンシアガ》と上海という街が持つ魅惑的なムードとが交じり合おうとする、奇跡的な演出かのようだった。