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Jul 22, 2025
By THEM MAGAZINE

ジョナサン・アンダーソンによる《ディオール》2026年サマー コレクション

新生《ディオール》が始動

2026627日、パリのアンヴァリッドにて発表されたジョナサン・アンダーソンによる《ディオール》2026年サマー コレクション。メゾンの豊かなアーカイブと文化的背景を再解釈しながら、クラフツマンシップの極致を静かに、しかし確かに提示するこのコレクションは、まさに「再構築」という言葉にふさわしい試みだった。

今回の舞台となったのは、ベルリンの絵画館(ゲメルデギャラリー)の内装を模した空間。そこにはジャン・シメオン・シャルダンの静謐な絵画が飾られている。18世紀、過剰な壮麗さが芸術の常だった時代に、シャルダンは日常の美しさと誠実さを描いた。アンダーソンもまた、静かに語るアプローチで、伝統と現代を対話させている。

着飾ることの喜び、それは、アーカイブから発掘された過去のドレス、階級社会に根ざしたフォーマルウェア、あるいは時間を超えて語り継がれるエレガンスの形式と現在との衝突から生まれる。ドネガルツイードやレジメンタルタイをはじめ、「バー」ジャケットやテイルコート、1819世紀のウエストコートなど、歴史の中で培われた衣服の形式は、オリジナルの構造に忠実に再現されている。

コレクションには、ムッシュ ディオールが愛したロココ調の要素──バラ、小さな刺繍、「ディオレット」チャームが随所に見られると同時に、彼が愛した英国文化へのオマージュも盛り込まれている。アンダーソンの《ディオール》ファーストコレクションは、アーカイブと真摯に向き合いながら始まった。たとえば、1948年秋冬オートクチュールの「デルフト」ドレスはパンツとして再構築され、Look 148に登場。1948年春夏の「カプリス」ドレスは、Look 2021のデニムパンツの着想源となり、同年秋冬の「ラ シガール」ドレスはLook 5962において新たな解釈を得ている。

今回のコレクションでは、圧倒的な手仕事の積み重ねが随所に見られる。たとえば、Look 12のベストは製作に110時間を要した。3色のグリーンで染め分けられた糸による葉の刺繍と、金属糸による「ザルドジ」技法の花の刺繍。その先端にはメタリックパールが添えられ、ブラックモアレの生地との対比が緊張感を生み出している。Look 8の花柄ベストには、120時間をかけたサテンステッチの絹糸刺繍が施されている。平らなステッチは、正確性とボリュームをもって花のフォルムを描き出し、生地の歪みを防ぎながら光沢を生み出す、高度な職人技の結晶だ。Look 21のベストは80時間の製作期間を要した。マクラメミシンとクロスステッチによる構築的な刺繍は、ハンドメイドの結び目を模倣しながら、糸の張りとステッチの長さで陰影と立体感を生み出す。

また、Look 7のコートは完成までに3271時間が費やされ、12人の刺繍職人による34日間に及ぶ作業の成果だ。伝統技法「ムケシュ」によって、金属糸が折り畳まれ、千鳥格子柄としてウール生地に丁寧に配置されている。さらに、Look 45Look 23では、それぞれ120時間と90時間をかけた「ブランデンブルク」刺繍が登場。立体的で輪郭を際立たせる「パス・プラット」ステッチが、上質な仕上がりを実現している。

ブックトートやクロスボディバッグには、シャルル・ボードレール『悪の華』やトルーマン・カポーティ『冷血』、さらにはブラム・ストーカー『吸血鬼ドラキュラ』といった文学作品が、ブックカバーのようなディテールとして落とし込まれた。一方、「レディ ディオール」はアーティストのシーラ・ヒックスの手により、リネンのポニーテールで再構成されている。

服を纏うという行為は、単なる装飾ではなく、自らの意思を表すスタイルの宣言でもある。アンダーソンが今回提示したのは、若さに満ち溢れた自発性を通じて、過去を見つめ直し、現在を創造する方法だ。伝統と遊び、イマジネーションが交差する場所に、ジョナサン・アンダーソンの《ディオール》は存在する。時代を代表するデザイナーの次なるコレクションへの期待が高まる。

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