
Jan 28, 2025
By THEM MAGAZINE
Current Trends and “Mode” 「モードの悲劇」が見るメンズスカート

“自由主義的”であることでファッションをより楽しめる
東武スカイツリーライン(東部伊勢崎線)東向島駅。墨田区にあるその駅は、長屋を中心とする古い家屋や町工場が混在し、自然の景色も美しい穏やかな下町。昨今では再開発の動きもあり、ギャラリーやショップを持ちたい若きクリエイターたちが集う街にもなっている。
2023年1月にオープンしたショップ「モードの悲劇」は東向島から徒歩6分ほど、古民家が並ぶ住宅街に位置する。オーナーは《obsess(オブセス)》のデザイナー北田哲朗氏と、《JUICE(ジュース)》のデザイナー ヤナ・ダーメン氏。16歳の学生から60代の紳士淑女まで幅広い世代のファッションフリークが集うこのショップでは、北田氏とヤナ氏それぞれのブランドのアイテムや、モードの悲劇オリジナルアイテムのほか、「まだ気づかれていない良さを持つアイテムを人に広く知らせたい」という理念の元、2人が多方からセレクトしたアーカイヴピースなどが取り扱われている。

モードの悲劇に足を運ぶ人々は、いわゆる定番品は既に持っている。多数の服に触れ、多様な服を着てきた中で、「他に無いものや未体験のものが欲しい」と考える人たちが来店するという。そんなインディペンデントな視点を持つショップで、“メンズスカート”のスタイリングについて尋ねた。
「スカートを買っていくお客さまの9割はメンズ」だと語るヤナ氏。さらに、「お客さまたちは、他に置いていないアイテムを求めてきてくれているのだと思います。買われているアイテムの傾向を見ると“性別の逆転現象”に近いものを感じているのですが、みなさん性別にこだわらずに、ただ服に愛情を注いでいるからそのアイテムを選んでいるのだと思っています」と加える。
とっつきやすいのはミディアムからフルレングスのスカート。同じくフルレングスのボトムスとのレイヤリングが一番コーデを組みやすく挑戦しやすい。「ウールとデニムを重ねてしまうと足が捌きづらいです」と、スカートの裏地とボトムスの表面の生地の相性はよく考えた方がいいと語る北田氏。
「男性のスタイリングはパンツだけでは限界がきている気がします」。スカートというアイテムひとつをとっても、「着てみたい」「誰かが着ているところを見てみたい」、その気持ちに真っ直ぐに向き合っている2人。
「店頭ではお客さまに、生地の合わせ方など実用的な組み合わせ方を提案させていただくこともあります。ですがファッションは好きなように楽しむのが一番なので、こちらから何かを勧めることはほとんどありません。もしアドバイスが欲しいと言われたら、身長や雰囲気などから“作り手目線”のアドバイスをさせていただきます。何かあれば隣のアトリエでリサイズやアレンジもできるので」。余裕があれば即リサイズの対応が可能なこともあるという。さらに洗濯やアフターケアの方法もアドバイスできるというなんとも心強いショップ。クリエイターが店頭に立つことで、他のショップとは異なる目線のアドバイスがもらえることも、モードの悲劇のポイントだ。




ロンドンを拠点とする日本人デザイナーが手掛けるミセスブランド《YasueCarter(ヤスエカーター)》のミディアムスカート。「手にとって試着するお客はやはりメンズが多いです。これくらいのミディアム丈であれば挑戦しやすいように思います。ツイード生地で立体感があるため、レイヤリングするアイテムとのコントラストが作りやすいです。飾りボタンと裾のカッティングのテンションに合わせたタイツを履いてもかわいいし、フルレングスのパンツにスポーティなスニーカーと合わせると今っぽくて良いかもしれません」(ヤナ氏)。
北田氏によるスタイリング。《COMME des GARÇONS(コム デ ギャルソン)》のパンツに北田氏によるブランド《オブセス》の袴風カッティングのテーラードスカートを合わせ、歩くたびに靡く裾が印象的。フーディも《オブセス》のもの。
「フェミ男やソフトなパンクファッションなど、流行のリバイバルはあまり関係ないと思っています。私たち自身、いろいろな人に出会った経験から今の価値観が出来上がったわけですし。内に篭らずに多くの人と交流した方が新たな発見がありますし、凝り固まった自分の考えに気づくことができます。ファッションを面白くするためには新しい視点が必要だと思うので、積極的にたくさんの人との対話を続けていきたいです」(ヤナ氏)。
「スタイリングは『世間がこうだから』よりも、『“私”はこうだから』と考えてほしいです。本来、ファッションに性別はあまり関係ないと思っています。キルトの民族衣装はスカートですし、日本の袴だってスカートライクなアイテムですから、ぜひ挑戦したいファッションに気兼ねなくチャレンジしてみてほしいです」。(北田氏)
「服にはストーリーがある。トレンドやその時流の“気分”よりも、今の彼・彼女に刺さるものを伝えたい」と語る2人。「周りの店がやっていないことをやりたい」と静かに燃え続け、情熱を届けようとしている。スカートにチャレンジするならば、ぜひ一度立ち寄ってみてほしい。

【店舗情報】
モードの悲劇
住所:〒131-0031 東京都墨田区墨田3丁目12-5
営業時間:金〜月 14:00〜19:00
@modenohigeki